社交不安症/社交不安障害の治療方法と症状改善のポイント

社交不安症/社交不安障害の治療方法

📌 社交不安症の主な治療アプローチ
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薬物療法

SSRI(選択的セロトニン再取り込み阻害薬)を中心とした薬物治療で、不安症状を軽減し社交場面への対処を支援します

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認知行動療法

思考パターンの修正と段階的な曝露療法を組み合わせ、根本的な不安の克服を目指します

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集団療法

同じ症状を持つ患者同士が支え合いながら、社交場面への適応力を高めていく治療法です


社交不安症(社交不安障害)の治療は、薬物療法と精神療法を柱とした多角的なアプローチが基本になります。日本では2000年代以降、SSRIが保険適用となり、認知行動療法も標準的な治療法として確立されてきました。治療の目的は「病的な不安を軽減すること」と「回避行動を減らすこと」であり、長期的には日常生活の質(QOL)を向上させ、その状態を維持することが最終目標となります。

参考)社交不安障害(社交不安症)の認知行動療法マニュアル

社交不安症に有効な薬物療法の種類

薬物療法では、SSRI(選択的セロトニン再取り込み阻害薬)とSNRIセロトニン・ノルアドレナリン再取り込み阻害薬)が第一選択薬として用いられます。これらの薬剤は脳内のセロトニンを増やす作用があり、扁桃体の活性を抑えることで不安症状を軽減します。

参考)社交不安障害(あがり症)の治療方法|銀座心療内科クリニック


日本で保険適用されている主なSSRIには、パキシル(パロキセチン)、ジェイゾロフト(セルトラリン)、レクサプロ(エスシタロプラム)、ルボックス/デプメール(フルボキサミン)があります。SNRIではイフェクサー(ベンラファキシン)が使用されます。これらの薬剤を8~12週間使用することで、5~6割の患者で症状の改善が認められるとされています。

参考)バイナリファイル (標準入力) に一致しました


銀座PMクリニックの社交不安障害治療ガイドでは、SSRIの作用機序と具体的な薬剤選択について詳しく解説されています。
効果が現れるまでには早くて2週間、通常は4週間かかりますが、高確率で症状を改善させるとされています。症状が軽くなっても、脳内ホルモンの安定には時間がかかるため、改善後も6ヶ月から1年以上は服薬を継続することが重要です。

参考)社交不安障害(SAD)の治療


補助的な薬物療法として、βブロッカーやαβブロッカーは交感神経の活性化を抑え、緊張場面での動悸や発汗、手の震えなどの身体症状を軽減します。ベンゾジアゼピン系抗不安薬は即効性がありますが、依存性の問題から長期使用は推奨されません。​
重症例では、開始時の用量を高めに設定することで治療反応性が向上する可能性があります。日本で行われたパロキセチンのプラセボ対照試験では、重症例において40mg/日群がプラセボ群と比較して有意な改善を示しました。​

社交不安症の認知行動療法の実践方法

認知行動療法(CBT)は、社交不安症に対して薬物療法と並んで第一選択の治療法とされています。認知療法と行動療法を統合したもので、長年にわたって形成されたネガティブな思考や感情の歪みを修正していきます。

参考)社交不安障害(社会不安障害)|横浜駅3分!当日予約可能の心療…


認知療法では、患者がセラピストとの対話を通して、ネガティブな思考パターンや感情の偏りを認識し、より柔軟な物の見方に変えていきます。例えば「人前で話すと必ず失敗する」という思い込みを、「緊張しても話すことはできる」という現実的な考え方に修正していくのです。​
行動療法では、不安が生じる状況や環境を改めて見つめ直し、無理のない範囲で少しずつ慣れる訓練を行います。これにはエクスポージャー(曝露療法)という技法が用いられ、恐れている社交場面にあえて身を置くことで、不安や恐怖に対して慣れていく方法です。

参考)プログラムの実施方法2


日本不安障害学会の社交不安障害CBTマニュアルでは、標準化された治療プロトコルが公開されています。
ClarkとWellsのモデルに基づく認知行動療法では、以下の要素が含まれます:​

  • 社交不安に関する心理教育
  • 自己注目と安全希求行動の悪影響を示す体験的なエクササイズ
  • ゆがめられた否定的な自己イメージを修正するためのビデオフィードバック
  • 外的な刺激に注意を向けるための系統的なトレーニング
  • 否定的な信念を検証する行動実験とホームワーク
  • 中核信念の検討と修正

個人療法は1回約60~90分、約4ヶ月かけて計14回程度のセッションで構成されます。集団療法の場合は、1回120~150分の集団セッション(治療者1名あたり2~3名の患者)、約3ヶ月をかけて計12回程度のセッションで行われます。

参考)https://mhlw-grants.niph.go.jp/system/files/report_pdf/202118046A-buntan7.pdf


2016年に宮崎大学と千葉大学の研究チームが発表した臨床試験では、抗うつ剤治療が効かない社交不安症の患者に認知行動療法を併用すると、半数近い患者の症状がほぼ消えたという結果が報告されています。この研究により、社交不安症に対する認知行動療法の併用効果が世界で初めて臨床試験で確認され、その後医療保険適用にもつながりました。

参考)薬効かない社交不安症に認知行動療法が有効 医療保険適用に

社交不安症の曝露療法(エクスポージャー)の効果

曝露療法(エクスポージャー)は、認知行動療法の中核をなす技法で、不安や恐怖を感じる対象や状況にあえて向き合うことで、それらに慣れ、最終的に不安や恐怖を克服することを目指します。社交不安障害の認知行動療法では、必ずといっていいほどこの技法が用いられます。

参考)暴露療法(エクスポージャー)とは?効果・やり方・種類を徹底解…


基本的な原理は「恐怖を感じても、命に危険が及ぶような状況でない限り、その場にとどまり続ければ、脳は『これは、それほど脅威ではない。大丈夫だ』と判断して、不安や恐怖感を徐々に和らげていく」というものです。どんなに強い不安でも、時間の経過とともに自然におさまっていきます。​
回避行動をとっていると、その場では不安はすぐに治まるものの、完全になくなったわけではないので、また起こるのではないかという予期不安が常に持続することになります。しかし、逃げずに向き合っていれば、「苦手だ」「不安だ」「恐い」と思っていた感情が、「不安はあるものの、耐えられないことはない」「意外と大丈夫だ」という感覚を身をもって体感できるのです。​
大阪メンタルクリニックのエクスポージャー解説では、具体的な実施方法とステップが紹介されています。
このエクスポージャーを繰り返し実行することで、刺激に対する慣れが生じ、予期不安も軽減して、回避行動をとらなくてもすむようになります。安易に回避していると、かえって恐怖感が増して、自信をつける機会を逃すことになります。​
段階的暴露療法では、不安階層表を作成し、不安の程度が低いものから順に取り組んでいきます。例えば、まずは家族の前で話す練習から始め、次に親しい友人の前、その次に少人数のグループ、最終的には大勢の前でのスピーチへと段階的に進めていきます。

参考)自分でできる段階的暴露療法(エクスポージャー)|国分寺イース…


近年では、仮想現実(VR)を用いた曝露療法も開発されており、現実での暴露が難しい場合や抵抗感が強い場合に有効な選択肢となっています。千葉大学の研究グループは、社交不安症の患者が対人場面でアイコンタクトを避ける問題に着目し、視線トレーニング装置を新しく開発して臨床研究を開始しています。

参考)社交不安症の患者のために、認知行動療法の考え方をもとに 新し…

社交不安症のグループ療法のメリット

グループ療法(集団療法)は、同じ症状で悩む患者が集まり、互いに支え合いながら治療に取り組む形式です。日本では2006年頃から社交不安障害専門のグループ療法が開始され、これまでに350名程度の患者が参加しています。

参考)社交不安障害のグループ療法について – あらたまこころのクリ…


グループ療法の主なメリットには以下のようなものがあります:​

  • 自分だけが悩んでいるのではない、自分は変なのではないと気づくことができる
  • 同じ症状で悩む仲間と一緒に治療に取り組むことができる
  • 自分を客観的に見ることができる
  • 症状が改善している先輩たちからスキルを学ぶことができる
  • グループの中で実際に社交場面を体験でき、実践的な練習ができる

典型的なプログラムでは、1クール12回、およそ3ヶ月間にわたって行われます。はじめに社交不安障害のメカニズムについて学んでから、行動実験と呼ばれる療法を用いて、症状の改善に取り組んでいきます。​
実際に参加された方の感想として、「参加する前は不安だったが、社交不安障害のメカニズムがわかり、治療が可能なものだと理解できた」「自分だけではないという安心感があり、自分も頑張ろうという気持ちになれた」「自分自身が無意識のうちに、とても人の評価を気にして苦しくなっていたことに気づきました」などが報告されています。​
東京メンタルクリニックのグループ療法プログラムでは、具体的な内容とスケジュールが紹介されています。
個人療法と集団療法の効果を比較した近年の研究では、個人療法の方が集団療法よりも有効性が高いことが指摘されていますが、集団療法には独自のメリットもあり、患者の状態や希望に応じて選択することが重要です。​
国内外の診療ガイドラインでは、社交不安症治療に特化して開発された認知行動療法は、集団形式でも効果が認められていますが、個人形式を推奨する傾向にあります。ただし、集団療法は医療資源の効率的な活用という点でも意義があり、特に認知行動療法を提供できる医療者が不足している現状では、重要な選択肢となっています。​

社交不安症治療における薬物療法と精神療法の組み合わせ方

薬物療法と精神療法はいずれも社交不安症の治療として第一選択の治療法とされており、症状に応じて適切に組み合わせて行うことが推奨されています。どちらがより優れているというデータはなく、個々の患者の状態に合わせて選択することが重要です。​
一般的に、薬物療法の効果発現は早く、認知行動療法の効果は長く続くことが指摘されています。不安感が強く認知行動療法で用いられるホームワークができにくい場合などは、まず薬物療法を選択し、症状が安定してから精神療法を導入するアプローチが有効です。​
宮崎大学と千葉大学の研究チームによる世界初の臨床試験では、抗うつ薬で改善しない社交不安症の患者に対して、認知行動療法を併用すると半数近い患者の症状がほぼ消えたという結果が報告されています。これは、薬物療法単独では効果が不十分な場合に、認知行動療法を追加することで治療効果が高まることを示しています。​
治療の継続期間について、SSRIによる薬物療法で治療反応性が見られた後も1年程度は継続した方が良いとされています。日本で行われたオープンラベルの長期投与試験によると、52週での治療反応率はフルボキサミンでは64.7%、パロキセチンでは71.2%であり、1年程度のSSRI治療で約6~7割の症例で効果が得られる可能性があります。​
日本精神神経学会の社交不安障害診断と治療ガイドでは、薬物療法と精神療法の組み合わせについて詳しく解説されています。
薬物療法と精神療法の併用が、それぞれの単独療法よりどの程度有効かははっきりとしない部分もありますが、臨床現場では両者を組み合わせた治療が一般的に行われています。特に重症例や併存疾患がある場合には、両方のアプローチを統合することでより良い治療成果が期待できます。

参考)不安や恐怖 ~②人前での過剰な緊張や不安 社交不安障害(あが…


約3~4割の症例については、SSRI単剤投与以外の薬物療法的工夫が必要とされており、そのような場合には増強療法として他の薬剤を追加したり、精神療法の強化を検討したりすることが重要です。治療反応性の予測因子としては治療期間の長さが指摘されていることから、良好な治療関係を保ち、治療を継続させることが最も重要です。​
日常臨床の外来場面では、体系的な認知行動療法の施行が難しい場合も多いため、「社交不安障害の小精神療法」として、心理教育、動機づけ、不安感の扱い方、予想される治療期間の説明、薬物療法の役割、段階的な行動変容、できていることへの注目、周囲への注意の向け方、治療中の一進一退への対処、元来の長所の認識などを含む支持的なアプローチも有効とされています。​