遮断性眼振と固視遮断とFrenzel眼鏡診断

遮断性眼振と固視遮断

遮断性眼振を臨床で迷わない要点
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「固視を外す」だけで所見が変わる

裸眼で眼振が見えなくても、固視遮断(暗所・フレンツェル・赤外線CCD)で初めて表面化する眼振があり、評価条件の明記が重要です。

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末梢は抑制されやすく、中枢は抑制されにくい

末梢前庭性眼振は固視で減弱しやすい一方、中枢性眼振は固視での抑制が乏しい傾向があり、鑑別の軸になります。

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温度刺激+視性抑制で病巣推定

温度眼振に対する視性抑制(visual suppression)を使うと、前庭小脳など「抑制系」の異常を拾いやすくなります。


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遮断性眼振の定義と固視抑制の位置づけ

遮断性眼振は、一般に「固視(注視)をさせている条件では目立たないが、固視を遮断すると観察されやすくなる眼振」という臨床的な捉え方が実用的です。

前庭性眼振は固視により抑制されるため、裸眼観察だけでは軽〜中等度の眼振を見落とし得る、という点が臨床上の落とし穴になります。

実際、めまい診療の指針でも「中等度〜軽度の眼振はFrenzel眼鏡で観察しないと気づかない」こと、そして固視による抑制を外す目的でFrenzel眼鏡が重要であることが強調されています。

この文脈での「遮断」は、眼球を閉じること(閉眼)そのものよりも、「患者が一点を固視できない条件(非注視条件)」を作ることを指すことが多いです。

非注視条件は、暗所開眼(赤外線CCD)、Frenzel眼鏡(強凸レンズで焦点が合いにくい+照明)、あるいはENG/VNG/VOGなど記録機器で作れます。

参考)https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC8377097/

つまり遮断性眼振は疾患名ではなく、「観察条件に依存して顕在化する所見」を表す概念として理解すると、検査設計と記録の質が上がります。

遮断性眼振の観察:Frenzel眼鏡と赤外線CCD

遮断性眼振を拾う最短ルートは、ベッドサイドで「裸眼→固視遮断(Frenzel/暗所)」の順に条件を変え、眼振の有無と変化を比較することです。

Frenzel眼鏡は「拡大して観察できる」だけでなく、「固視による自発眼振の抑制を取り除ける」点が核心で、指針内でも図示付きで説明されています。

また、固視遮断下で眼振を確認して初めて「眼振あり/なし」を評価できる、という考え方は実地で非常に重要です(裸眼のみで“眼振なし”と断定しない)。

さらに一歩進めると、赤外線CCD(VOG/VNG系)は暗所開眼での観察ができ、固視抑制がかかりにくい条件を作れるため、遮断性眼振の検出力を上げられます。

加えて、録画できる環境は教育・説明・経時比較に強く、上司チェックやカンファレンスでも再現性のある所見提示につながります。

診療録には「裸眼」「Frenzel装着下」「暗所開眼(赤外線CCD)」など条件を必ず併記し、同じ患者でも条件差で所見が変わることを前提に文章化します。

遮断性眼振と鑑別:末梢前庭性と中枢性

鑑別の基本は、「末梢前庭性眼振は固視で抑制されやすい」「中枢性眼振は固視での抑制が乏しい」という古典的かつ実用的な軸です。

指針でも、典型的末梢性眼振は固視で抑制される一方、中枢性眼振は持続的で固視抑制が軽い(抑制されにくい)こと、注視方向で変化する“注視方向性眼振”が中枢性を示唆することが述べられています。

また、垂直性(上眼瞼向き・下眼瞼向き)や単眼性などは中枢病変を強く示唆する所見として扱われます。

一方で注意点は、「水平性で方向固定」という見た目だけでは中枢・末梢の区別が難しいケースがあることです。

指針の中でも、小脳虫部〜前庭神経核近傍の微小病変で、方向固定性水平性眼振が単独に出現し得て、前庭神経炎との鑑別が難しくなる状況が説明されています。

つまり「遮断性眼振が出た=末梢」と短絡せず、(1)固視でどれだけ減弱するか、(2)注視方向で反転するか、(3)体幹失調や他の神経症候がないか、(4)経時変化、をセットで判断します。

遮断性眼振と温度刺激:visual suppressionの読み方

温度刺激検査(caloric test)は外側半規管由来の前庭眼反射系をみる検査で、暗所・非注視条件で眼振を確実に観察する設計になっています。

その上で、温度眼振が「明所固視」でどの程度抑制されるか(visual suppression)を評価する発想は、“前庭反射を抑える系”の異常を拾うのに有用です。

この枠組みは、末梢前庭そのものの故障だけでなく、小脳など中枢の抑制制御の障害を疑う入口になります。

臨床での使いどころは、例えば「裸眼では眼振が曖昧だが、固視遮断で眼振が出る」「しかも固視しても抑制が弱い」といった、遮断性眼振“らしさ”と中枢疑いが混在する場面です。

温度刺激+視性抑制まで行うと、“眼振が出ること”だけでなく“抑えられるか”まで評価でき、所見が一段階構造化されます。

なお急性期の患者では嘔気・疲弊が強く検査負荷が高いことがあるため、まずはベッドサイドで固視遮断下の眼振観察を確実に取り、その後に適応を見て追加検査を組み立てる流れが現実的です。

遮断性眼振の独自視点:記録と説明が診断精度を上げる

遮断性眼振は、眼振そのものの特徴に加えて「観察条件」をきちんと固定・再現できるかで価値が変わります。

同じ患者でも、救急外来の明るい診察室で裸眼観察した所見と、暗所でFrenzel装着下に観察した所見が一致しないことは珍しくなく、ここで記録が曖昧だと後から解釈不能になります(例:単に“眼振なし”とだけ書く)。

指針でもFrenzel眼鏡の重要性が繰り返し強調されており、「めまい診療はまず眼振の有無をFrenzelでチェックする」発想自体が標準化の方向性と整合します。

実務的な工夫として、記載テンプレを院内で統一すると、遮断性眼振の“見落とし”と“伝達ロス”が減ります。

例として、カルテに最低限入れたい項目を挙げます(入れ子にしない)。

  • 観察条件:裸眼 / Frenzel装着下 / 暗所開眼(赤外線CCD)
  • 眼振の方向:水平 / 回旋 / 垂直(上眼瞼向き・下眼瞼向き)
  • 誘発:自発 / 注視 / 頭位 / 頭位変換
  • 固視での変化:抑制される / 変化乏しい / 方向が変わる(注視方向性)
  • 付随所見:体幹失調、歩行、神経症候、蝸牛症状(耳鳴・難聴

患者説明でも「目が回る感覚(回転性めまい)があるのに裸眼で眼振が見えない」状況は不安を増やしますが、「固視すると眼が揺れにくくなる仕組みがあり、専用の眼鏡や暗い環境で確認する」と説明すると納得感が上がりやすいです。

固視遮断と眼振観察の意義(Frenzel眼鏡の位置づけ)

日本神経治療学会「標準的神経治療:めまい」(PDF)