接触皮膚炎ガイドラインの診断と治療
接触皮膚炎の病態分類と発症機序
接触皮膚炎は病態により大きく5つのタイプに分類される 。最も頻度の高い刺激性接触皮膚炎は、角層のバリア機能が障害され、刺激物質が表皮細胞を刺激してサイトカインやケモカインの産生を誘導することで炎症が起こる 。一方、アレルギー性接触皮膚炎は感作相と惹起相の2つの段階を経て発症し、微量のハプテンでも皮膚炎を引き起こすことが特徴である 。
光接触皮膚炎には光毒性と光アレルギー性の2種類があり、主に長波長紫外線(UVA)が関与する 。光感作物質がUVAによりハプテンとしての性格を持つ物質に変化することで、光アレルギー性接触皮膚炎が発症する 。また、同一抗原が経皮的に接触して全身に皮膚病変が出現する場合を接触皮膚炎症候群と呼び、経口・吸入・注射により全身に皮膚炎を生じる場合を全身性接触皮膚炎として区別している 。
接触皮膚炎のパッチテスト診断法
パッチテストは現在、アレルギー性接触皮膚炎の診断に最も有用な検査法である 。日本ではジャパニーズベースラインシリーズ2015(JBS2015)が標準的に使用され、パッチテストパネル®(S)22種とウルシオール、塩化第二水銀の24種類のアレルゲンで構成されている 。
参考)https://webview.isho.jp/journal/detail/abs/10.18888/hi.0000002277
検査手順として、試薬を載せたパッチテストユニットを上背部に48時間貼布し、除去後15-30分、72時間または96時間、1週間後に複数回判定を行う 。判定は本邦基準またはICDRG基準を用い、++以上を陽性反応とする 。硫酸ニッケル、金チオ硫酸ナトリウム、ウルシオール、パラフェニレンジアミン、塩化コバルトが日本での陽性率上位5位を占めている 。
接触皮膚炎の治療アルゴリズム
接触皮膚炎の治療は原因物質の除去が最も重要で、これが根治への鍵となる 。薬物治療ではステロイド外用薬が基本となり、症状に応じて強度を調整する 。かゆみが強い場合は抗ヒスタミン薬の内服を併用し、重症例では短期間のステロイド内服(20-30mg/日、1週間程度)を検討する 。
参考)https://www.jstage.jst.go.jp/article/naika/106/12/106_2590/_pdf/-char/ja
治療アルゴリズムでは、まず湿疹病変を確認し、限局性か全身性かを判断する 。限局性の場合は原因特定を行い、2週間以内に軽快すれば治療終了となる 。原因除去が困難な職業性接触皮膚炎では産業医への報告が必要で、配置転換や代替品の推奨を行う 。保湿剤の併用や予防クリームなどの日常指導も重要な治療要素である 。
参考)https://www.saiseikai.or.jp/medical/disease/contact_dermatitis/
接触皮膚炎の原因物質推定と部位診断
接触皮膚炎の診断では、皮疹の部位が原因物質を推測する重要な手がかりとなる 。統計的解析により、ニッケル・コバルトと手指・手掌、クロムと上背部、ラノリンと下腿、香料ミックスと腋窩などの相関が示されている 。
SSCI-Netを通じた全国調査では、原因製品として化粧品・薬用化粧品が54%、医薬品が25%と高い頻度を示している 。化粧品では染毛剤、シャンプー、化粧下地、化粧水が多く、医薬品では市販薬、点眼薬、ステロイド薬が主な原因製品として報告されている 。職業性接触皮膚炎では、金属(ニッケル・コバルト・クロム)、樹脂(エポキシレジン、アクリル樹脂)、ゴム加工剤が主要な原因物質となっている 。
接触皮膚炎の疫学と現状の課題
日本における皮膚科受診患者の3.92%を接触皮膚炎が占め、特に20-30歳代と50-75歳代に多い疫学的特徴を示している 。JSA2015の陽性率調査では、2015年以降に硫酸ニッケルと金チオ硫酸ナトリウムの陽性率が急増しており、これは従来使用していたアレルゲン濃度が不適切であった可能性が示唆されている 。
現在の課題として、パッチテストは手間と時間がかかり保険点数も低いため、一般皮膚科診療での活用が十分ではない状況がある 。しかし、原因を見逃して対症療法に終始することは、長期ステロイド外用による皮膚萎縮などの副作用や治療期間の長期化を招くため、適切な診断と治療が重要である 。イソチアゾリノン系防腐剤の陽性率上昇など、時代とともに変化するアレルゲンへの対応も必要となっている 。