セリチニブ販売中止に関する情報
セリチニブ450mg食後投与でも下痢が60%以上発現します。
セリチニブの現在の販売状況と確認方法
セリチニブ(商品名:ジカディア錠150mg)について、販売中止を示す公式情報は2026年2月時点で確認されていません。医療従事者の間で「販売中止」という情報が検索される背景には、いくつかの要因が考えられます。
まず、2019年2月に用法・用量の大幅な変更が実施されたことが挙げられます。当初の「750mgを1日1回、空腹時に経口投与」から「450mgを1日1回、食後に経口投与」への変更により、カプセル剤から錠剤への剤形変更も同時に行われました。この変更により、一部の医療機関では旧規格の在庫処理や処方変更が必要となり、一時的な供給調整と誤解された可能性があります。
現在も継続して販売されていますね。
ノバルティスファーマ株式会社が製造販売元として供給を続けており、薬価基準収載も維持されています。セリチニブ錠150mgの薬価は1錠あたり6,413.6円で設定されており、1日投与量450mg(3錠)の場合、1日あたりの薬剤費は約19,240円となります。これは年間で約700万円に相当する高額な治療薬ですが、希少疾病用医薬品として指定されており、対象患者数が限られているため、この価格設定が維持されています。
販売状況を正確に確認する方法として、PMDAの医薬品情報検索や各医療機関の医薬品情報担当者への問い合わせが有効です。また、ノバルティスファーマの医療関係者向けサイト「Novartis Pro」では、最新の製品情報や供給状況が随時更新されています。出荷調整や供給停止が発生している場合は、厚生労働省の「医療用医薬品の供給不足に係る対応」として公表されますが、セリチニブに関してはそのような発表はありません。
独立行政法人医薬品医療機器総合機構(PMDA)では、承認情報や添付文書の最新版を確認できます。
セリチニブ投与方法変更の背景と臨床的意義
2019年2月の用法・用量変更は、単なる形式的な修正ではなく、臨床現場での重要な課題に対応するための変更でした。当初承認された750mg空腹時投与では、消化器毒性が高頻度で発現し、患者のQOL低下や治療継続困難につながるケースが多く報告されていました。
海外第Ⅰ相臨床試験(A2112試験)において、450mg食後投与と750mg空腹時投与の薬物動態と有効性が比較検討されました。この試験では、450mg食後投与群が750mg空腹時投与群と同程度の血中濃度(AUC)を達成できることが確認されています。つまり、用量を減らしても食後投与にすることで、薬剤の吸収が促進され、十分な治療効果が期待できるということですね。
安全性の面では明確な改善が認められました。
A2112試験の中間解析結果では、450mg食後投与群において投与中止に至る副作用の発現率が24.78%であったのに対し、750mg空腹時投与では投与継続困難となるケースがより高頻度でした。特に消化器系副作用である下痢の発現率は、750mg空腹時投与で77.1%だったのが、450mg食後投与では約63.5%に低下しています。悪心についても77.9%から60.9%、嘔吐も58.6%から47.8%へと減少傾向が見られました。
この用法変更により、治療強度の維持が可能となった点が臨床的に重要です。副作用による休薬や減量が少なくなることで、より長期間にわたって適切な用量での治療継続が可能になりました。無増悪生存期間(PFS)の延長が期待でき、患者の予後改善につながる可能性があります。実際に、食後投与への変更後、多くの患者で治療継続期間が延長したとの報告があります。
セリチニブとALK陽性肺がん治療における位置づけ
ALK融合遺伝子陽性非小細胞肺がんは、全非小細胞肺がんの約3~5%を占める希少な病型です。国内での推定患者数は年間約2,000~2,200人とされており、比較的若年層(40~50歳代)に多く見られる特徴があります。セリチニブは2016年3月に「クリゾチニブに抵抗性又は不耐容のALK融合遺伝子陽性の切除不能な進行・再発の非小細胞肺癌」として初回承認を取得しました。
その後、2017年9月には一次治療としての適応も追加され、「ALK融合遺伝子陽性の切除不能な進行・再発の非小細胞肺癌」という適応に拡大されました。国際共同第Ⅲ相臨床試験(A2301試験)では、化学療法との比較において無増悪生存期間の有意な延長が証明されています。セリチニブ群の無増悪生存期間中央値は16.6ヵ月であったのに対し、化学療法群は8.1ヵ月でした。これは統計学的に有意な差であり、ハザード比0.55という良好な結果でした。
現在のALK陽性肺がん治療では複数の選択肢があります。
日本肺癌学会の肺癌診療ガイドライン2023年版では、PS 0-1のALK融合遺伝子陽性肺がんの一次治療として、アレクチニブが推奨度1A、ブリガチニブとロルラチニブが推奨度1Bとして推奨されています。セリチニブは推奨度2として位置づけられており、主に二次治療以降や他のALK阻害薬が使用できない場合の選択肢とされています。この位置づけの理由は、消化器毒性の発現頻度が他のALK阻害薬と比較して高いことが主な要因です。
アレクチニブは国内で開発された第2世代ALK阻害薬で、奏効率93.5%という極めて高い有効性を示しています。脳転移に対する効果も優れており、血液脳関門を通過しやすい性質を持っています。ブリガチニブは2021年1月に承認された第2世代ALK阻害薬で、ALTA-1L試験において一次治療での優れた成績を示しました。ロルラチニブは第3世代ALK阻害薬として最も新しく、5年無増悪生存割合が60%という長期成績が報告されています。
セリチニブの重要な副作用管理と休薬基準
セリチニブの適正使用において、副作用の早期発見と適切な対処が治療継続の鍵となります。主要な副作用として間質性肺疾患、肝機能障害、QT間隔延長、消化器症状などがあり、それぞれに対して定期的なモニタリングが必要です。
間質性肺疾患は添付文書で警告に記載されている最も重要な副作用の一つです。初期症状として息切れ、呼吸困難、咳嗽、発熱などが出現します。治療開始初期は入院またはそれに準ずる管理下で観察を行い、胸部CT検査を定期的に実施することが推奨されています。間質性肺疾患が疑われる場合は、直ちに投与を中止し、ステロイド治療などの適切な処置を開始する必要があります。SpO2の低下や呼吸機能検査での異常が認められた時点で、専門医への相談を検討すべきです。
肝機能障害の発現頻度も高く注意が必要です。
ALT増加は41.7%、AST増加は35.7%の患者で認められています。Grade 3以上の肝機能障害が発現した場合、Grade 1以下に回復するまで休薬し、回復後は1段階減量して再開することが推奨されます。総ビリルビンの上昇を伴う場合は、より慎重な対応が求められます。肝機能検査は投与開始後は2週間ごと、その後は月1回程度の頻度で実施することが望ましいとされています。
消化器症状への対症療法も重要な管理ポイントです。下痢に対しては、発現初期からロペラミドなどの止瀉薬を予防的に使用することが推奨されます。Grade 3以上の下痢が出現した場合は、適切な止瀉薬使用にもかかわらずコントロールできなければ休薬を検討します。悪心・嘔吐に対しては、5-HT3受容体拮抗薬やNK1受容体拮抗薬などの制吐剤を積極的に使用します。食事指導として、低脂肪食の摂取や少量頻回食の推奨が有効です。
セリチニブ処方時の医薬品相互作用と併用禁忌
セリチニブは主にCYP3Aで代謝される薬剤であり、CYP3Aを介した薬物相互作用に注意が必要です。さらに、セリチニブ自体が強力なCYP3A阻害作用を持つため、他の薬剤の血中濃度を上昇させるリスクがあります。
2025年5月の添付文書改訂により、ベネトクラクス(再発又は難治性の慢性リンパ性白血病における用量漸増期)との併用が禁忌に追加されました。
これは極めて重要な変更です。
セリチニブの強いCYP3A阻害作用により、ベネトクラクスの血中濃度が著しく上昇し、腫瘍崩壊症候群のリスクが増大することが理由です。腫瘍崩壊症候群は高尿酸血症、高カリウム血症、高リン血症などの電解質異常を引き起こし、急性腎不全や不整脈などの致死的な合併症につながる可能性があります。
CYP3A誘導薬との併用にも注意が必要です。
リファンピシン、フェニトイン、カルバマゼピン、フェノバルビタールなどのCYP3A強力誘導薬は、セリチニブの血中濃度を低下させ、治療効果を減弱させる可能性があります。これらの薬剤との併用は可能な限り避けるべきですが、やむを得ず併用する場合は、セリチニブの血中濃度モニタリングや効果判定を慎重に行う必要があります。代替薬への変更が可能であれば、CYP3Aへの影響が少ない薬剤を選択することが推奨されます。
逆に、セリチニブがCYP3A基質である他の薬剤の血中濃度を上昇させるケースも重要です。特にQT延長リスクのある薬剤(抗不整脈薬、マクロライド系抗菌薬、抗精神病薬など)との併用時は、QT延長の相加効果により重篤な不整脈のリスクが高まります。定期的な心電図検査と電解質モニタリングが必須です。また、免疫抑制薬(タクロリムス、シクロスポリンなど)との併用時は、これらの薬剤の血中濃度が上昇し、腎障害などの副作用リスクが増大するため、血中濃度測定を行いながら用量調整を行います。
グレープフルーツジュースやセイヨウオトギリソウ(セント・ジョーンズ・ワート)含有食品も避けるよう患者指導が重要です。これらはCYP3Aの活性に影響を与え、セリチニブの血中濃度を不安定にする可能性があります。患者には、服用開始時にこれらの食品や健康食品について具体的に説明し、理解を得ることが必要です。
セリチニブ治療の経済的側面と患者サポート
セリチニブの薬剤費は1錠150mgあたり6,413.6円で、標準用量である1日450mg(3錠)を投与した場合、1日あたり約19,240円、1ヵ月(30日)で約577,000円、年間では約700万円という高額な医療費となります。これは希少疾病用医薬品として承認されており、対象患者数が限られているため、研究開発費の回収や製造コストの観点からこのような価格設定がなされています。
高額療養費制度の活用が患者負担軽減の鍵となります。
一般的な所得区分(標準報酬月額28万~50万円)の患者の場合、月額自己負担限度額は80,100円+(総医療費-267,000円)×1%となります。セリチニブ単独の薬剤費約577,000円の場合、自己負担額は約83,200円程度に抑えられます。さらに、多数回該当(直近12ヵ月で3回以上高額療養費の支給を受けている場合)では、4回目以降は44,400円まで軽減されます。年間の実質負担額は、初回3ヵ月で約25万円、以降9ヵ月で約40万円、合計約65万円程度となる計算です。
住民税非課税世帯では、さらに負担が軽減されます。低所得者Ⅰ(住民税非課税世帯)の場合、月額自己負担限度額は35,400円、低所得者Ⅱ(年金収入80万円以下など)では24,600円まで下がります。これらの制度を適切に活用することで、経済的理由による治療中断を防ぐことができます。医療ソーシャルワーカーとの連携により、患者ごとの経済状況に応じた支援策を検討することが重要です。
製薬企業による患者支援プログラムも利用可能な場合があります。ノバルティスファーマでは、医療費助成制度の案内や相談窓口の提供を行っています。また、各種難病医療費助成制度の対象となる場合もあり、都道府県の難病相談支援センターへの相談も有効です。がん患者団体や患者会を通じた情報交換も、実際の負担額や利用可能な支援制度について知る機会となります。
治療効果と費用対効果の観点も考慮する必要があります。セリチニブによる無増悪生存期間の延長は、患者のQOL向上と生存期間延長に直結します。他のALK阻害薬との比較において、薬剤費はほぼ同等レベルですが、副作用プロファイルや効果の違いを考慮した上で、個々の患者に最適な薬剤選択を行うことが医療経済的にも重要です。