潜在性黄斑ジストロフィー OCT ERG
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潜在性黄斑ジストロフィー 疾患概念 と 症状
潜在性黄斑ジストロフィー(オカルト黄斑ジストロフィ、Miyake’s diseaseを含む)は、眼底検査やフルオレセイン蛍光眼底造影が正常所見である一方、進行性に両眼の黄斑機能が低下する黄斑ジストロフィです。
1989年にMiyakeにより初めて報告された疾患概念で、典型例は常染色体優性遺伝を示し、原因遺伝子としてRP1L1が同定されています。
臨床症状は「緩徐に進行する両眼性の視力低下」が中心で、羞明・色覚異常・中心視野異常を訴える患者もいます。
受診年齢は学童期から70代まで幅があるものの、初診は10〜40歳に多く、初診時の矯正視力は0.1〜0.5程度が多い一方、最終的に両眼0.1以下まで落ち込むのは比較的まれ、と整理されています。
ここが臨床で厄介なのは、患者訴え(見えづらい、文字が追えない、かすむ)に比して、一般的な眼底観察だけでは「説明できる所見」が乏しい点です。
医療従事者として押さえたいのは、視力だけでなく“質”の症状を丁寧に拾うことです。
- 羞明:屋外や白背景で見えにくい、疲れる。
参考)https://www.semanticscholar.org/paper/b98338facd976e057ad414b753cd6454327f918e
- 色覚:なんとなく色が鈍い、彩度が落ちる。
- 中心視野:字の中心が抜ける/にじむ、読書速度が落ちる。
一方で、動的視野検査(ゴールドマンなど)では異常が出ないことがあり、中心10度以内の静的視野検査で中心部感度低下が明瞭になる、とガイドラインに明記されています。
「訴えが強いのに検査が正常に見える」状況では、患者側の不安が増しやすく、医療者側も心因性・機能性を早合点しやすいので、次に示す“検査の当てどころ”を共有しておくことが重要です。
潜在性黄斑ジストロフィー OCT 所見:ellipsoid zone と interdigitation zone
潜在性黄斑ジストロフィーのOCTは診断に有用で、黄斑部の視細胞層(特に中心窩付近)においてellipsoid zoneが不鮮明になり、interdigitation zoneが消失する所見がみられる、とされています。
進行するとellipsoid zoneの断裂・消失がみられ、次第に外顆粒層が菲薄化していく一方で、黄斑部以外の視細胞層や網膜色素上皮層のOCT像は正常に保たれる、と整理されています。
この「黄斑部外は保たれやすい」という特徴は、症状が中心視に偏ること(周辺視野が晩期まで保たれやすい)と整合し、検査所見を患者説明に落とし込む際の核になります。
OCT読影の実務的なポイントは、“黄斑部の外層”を意識して見ることです。
- まず中心窩付近のellipsoid zone(EZ)の連続性を確認する。
- interdigitation zone(IZ)が見えているか、左右差・両眼差がないか確認する。
- 網膜外層全体の厚み(外顆粒層を含む)がじわじわ薄くなっていないか、過去画像と比較する。
意外に見逃しやすいのが、「眼底自体は正常〜軽微」でも、OCTでは中心窩付近に“ほんの薄い外層変化”が出ているケースです。
ガイドライン上も、眼底自発蛍光は正常、もしくは中心窩にわずかな過蛍光を認める程度、とされており、FAF単独で決めきれない状況がある点に注意が必要です。
なお、臨床現場では「OCTで所見が乏しい=否定」とは言い切れません。
遺伝学的病態が不明瞭な症例(オカルト黄斑症を含めて診断されがち)では、OCTで観察される中心窩視細胞層構造が三宅病(RP1L1関連)と異なる可能性が示唆されており、画像だけで単純に括りにくい領域が残っています。
潜在性黄斑ジストロフィー ERG:多局所ERG が必須
潜在性黄斑ジストロフィーでは、全視野ERGは杆体応答も錐体応答もまったく正常である一方、黄斑部局所ERGあるいは多局所ERGを記録すると黄斑部の電気反応が強く低下していることが確認でき、これが確定診断につながる、とされています。
ガイドラインの診断要件でも、①眼底写真で黄斑部に視力低下を説明できる検眼鏡的異常がない、③錐体と杆体を分離した全視野ERGは正常(錐体応答軽度低下はありうる)で、多局所ERGで黄斑部反応が減弱(または黄斑部局所ERGが減弱)、が核になっています。
つまり臨床の意思決定としては「一般的な眼底所見が乏しい+訴えが中心視に強い」時点で、早めに多局所ERGへつなぐ導線を用意できるかが勝負です。
ただし多局所ERGは、どの施設でも気軽に実施できる検査ではありません。
そのため、紹介判断の質を上げるために、紹介状に最低限これだけは書きたい項目があります。
- 両眼性・緩徐進行であること(急性は除外)。
- 視力、屈折、矯正の状況(視力低下の“説明困難性”を明示)。
- 色覚、羞明、中心視野の訴え(中心10度の静的視野の結果があれば添付)。
- OCTでのEZ/IZ所見(軽微でも記載)。
患者説明では、「網膜全体の反応は保たれているのに、黄斑だけがうまく働かないことがある」ため、黄斑に焦点を当てたERGが必要、という言い方が理解されやすいです。
潜在性黄斑ジストロフィー 遺伝子 RP1L1 と 家族歴
典型的な潜在性黄斑ジストロフィーは常染色体優性遺伝を示し、その原因遺伝子としてRP1L1が同定されている、とガイドラインに記載されています。
RP1L1変異がみられる症例を三宅病(Miyake’s disease)と呼ぶ一方、臨床所見としてはオカルト黄斑ジストロフィーに合致しても、家系内に罹患者がいない(孤発)かつRP1L1異常が検出されない例もあり、その一部はOCTで観察される中心窩視細胞層構造が三宅病と異なる可能性がある、とされています。
このため、遺伝子検査を行えない状況や遺伝子が同定されない状況でも、臨床的に“それらしい”症例をどう扱うかが現場課題になります。
医療者としての実務は、遺伝子の話を「断定」ではなく「整理」に使うことです。
- 家族歴がある場合:常染色体優性遺伝の可能性を念頭に、家族内の見え方(読書、運転、羞明)を具体的に聴取する。
- 家族歴が乏しい場合:孤発でも否定できないこと、遺伝子が見つからないタイプがあり得ることを前提に、臨床検査(特に多局所ERG)で詰める。
また、患者・家族の関心は「子どもに遺伝するか」「進行して失明するか」に集中しがちです。
ガイドラインには、最終的に両眼視力が0.1以下になることは比較的まれ、という記載があり、過度な悲観を避ける材料になります。
ただしこれは「進行しない」ではなく「緩徐進行で重度化は相対的にまれ」というニュアンスなので、フォロー計画(視力だけでなく読書機能、中心10度視野、OCT比較)をセットで提示することが重要です。
潜在性黄斑ジストロフィー 鑑別診断:薬物 と 後天性網脈絡膜疾患(独自視点:見逃し最小化)
黄斑ジストロフィ全体の鑑別として、薬物による視力低下(クロロキン、ヒドロキシクロロキン、チオリダジン、タモキシフェン、ジギタリスなど)や、後天性網脈絡膜疾患(中心性漿液性脈絡網膜症、急性帯状潜在性網膜外層症、多発消失性白点症候群、癌関連網膜症)などを除外する必要がある、とガイドラインに明示されています。
潜在性黄斑ジストロフィーは「眼底が正常に見える」ことが診断要件の一部になるため、鑑別をきちんと列挙できること自体が診療の質になります。
このセクションは検索上位にありがちな“検査所見まとめ”だけでなく、現場で見逃しを減らすための運用(独自視点)に踏み込みます。
見逃し最小化のためのチェックリスト(外来で実装しやすい順)
- 🧾 服薬歴:抗マラリア薬(ヒドロキシクロロキン等)、精神科薬、乳癌治療薬、強心薬などを具体名で確認。
- 🧠 経過:急性か緩徐進行か(急性なら潜在性黄斑ジストロフィーから一旦外す)。
- 👁️ OCT:黄斑外層の変化があるか(軽微でも記録して比較可能に)。
- 🧪 ERG導線:全視野ERGが正常でも安心しない(“黄斑だけ”が落ちる病態を想定)。
- 🧬 家族歴:視力低下だけでなく、羞明や読字困難など“黄斑機能”を示唆する訴えを家族単位で聞く。
特に注意したい落とし穴は、「視力低下の説明がつかない=心因性」と短絡することです。
潜在性黄斑ジストロフィーはまさに“眼底が正常に見えるのに進行性に黄斑機能が低下する”疾患として整理されており、適切な検査(多局所ERG、OCT外層評価)に進めることで、診断がつく可能性がある領域です。
この疾患を念頭に置くこと自体が、患者の医療不信やドクターショッピングを減らす、という意味で臨床的価値があります。
参考リンク(潜在性黄斑ジストロフィーを含む黄斑ジストロフィの診断要件、OCT/ERG/鑑別の要点がまとまっています)
日本眼科学会承認「黄斑ジストロフィの診断ガイドライン」(PDF)
参考リンク(一般診察では診断困難で多局所ERGが重要、RP1L1など遺伝子の説明を含む医師向け情報が読めます)