精巣上体炎の症状と原因
精巣上体炎の初期症状と進行
精巣上体炎の初期段階では、陰嚢の軽度な不快感や排尿時のわずかな違和感から始まります。これらの症状は見過ごされやすいですが、放置すると徐々に悪化していくため注意が必要です。
急性精巣上体炎に進行すると、片側の陰嚢が急激に腫れ、触れると激しい痛みを感じるようになります。陰嚢の皮膚は赤みを帯びて腫れ、触ると固く熱を持っている状態になるのが特徴的です。発熱や排尿時の痛みがある場合、精巣上体炎の可能性が高くなります。
全身症状として38℃以上の高熱や悪寒、全身の倦怠感が認められることも多く、太ももの付け根や下腹部にも痛みが広がることがあります。性感染症関連の精巣上体炎では、尿道からの分泌物や性器全体の違和感を伴うこともあります。
精巣上体炎の原因菌と感染経路
精巣上体炎の原因は患者の年齢によって大きく異なります。20~30代の性的活動性が高い若年者では、クラミジアや淋菌などの性感染症が原因となることが多く、症状は比較的軽度で発熱を認めないこともあります。
参考)精巣上体炎
一方、高齢男性では大腸菌を中心とした腸内細菌科の細菌が主な原因菌となります。前立腺肥大症や神経因性膀胱などの基礎疾患があると残尿量が増え、精巣上体炎のリスクが上昇します。
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細菌は尿道から精子の通り道を逆行して精巣上体に達すると考えられています。精子は精巣で作られ、精巣上体から精管を経由し、前立腺液と混ざって精液になる経路をたどりますが、その通路を細菌が逆行することで炎症が起こります。
非細菌性の原因としては結核菌による感染もあり、肺から尿に感染が移動することで引き起こされます。現代では膀胱癌の治療としてBCGを膀胱内に注入する治療が原因でみられることもあります。
精巣上体炎の診断方法と検査
精巣上体炎の診断は主に触診で確定されます。泌尿器科では視診および触診で容易に診断可能であり、精巣上体に腫脹および圧痛を認めることが診断の決め手となります。
参考)精巣上体炎 – 03. 泌尿器疾患 – MSDマニュアル プ…
尿検査では尿路感染の有無を調べ、尿中の白血球や細菌の存在を確認します。尿培養と薬剤感受性試験を同時に行うことで、原因菌の詳細とそれに効果的な抗菌薬を特定します。性感染症の疑いがある場合には、PCR法によるクラミジア検査や淋菌の核酸増幅検査(NAAT)を実施します。
参考)陰嚢の腫大や精巣のはれで気づく精巣上体炎の検査や治療について…
超音波検査は陰嚢内の状態を詳しく確認するために重要です。表在プローブを用いて腫れている場所の確認や精巣腫瘍の有無の確認を行い、ドップラー法で陰嚢内の血流を確認することで精索捻転との鑑別も行います。精索捻転は緊急手術を要する疾患であり、30歳未満の患者では特に注意が必要です。
高熱や陰嚢の腫大が強い場合には、炎症の程度を評価するために採血検査も追加されます。診察、尿検査、超音波検査でほとんどの場合診断が確定し、治療に入ることができます。
精巣上体炎の治療薬と治療期間
精巣上体炎の治療の中心は、原因菌に合わせた抗菌薬(抗生物質)の投与です。腸内細菌が原因と考えられる場合と、性感染症が原因と考えられる場合では使用する抗菌薬を変更します。抗菌薬は10~14日間程度の使用が推奨されており、培養検査の結果をみて適宜変更します。
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軽症であれば内服治療で対応できますが、重症の場合は入院して点滴で抗菌薬を投与する必要があります。高熱や炎症反応が非常に高い場合、患部の腫れや痛みが強い場合は点滴治療を選択し、急性期を過ぎて症状が改善すれば内服の抗菌薬に切り替えます。
痛みに対しては、非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)やアセトアミノフェンなどの解熱鎮痛薬が併用されます。患部を冷やして安静を保つことも重要な治療法の一つです。陰部をなるべく動かさず固定して氷水などで冷却することで、疼痛を軽減できます。
治療期間は軽症の外来内服で10~14日程度が目安ですが、膿瘍や重症例では静注治療やドレナージが必要で、期間は臨床経過で調整されます。きちんと治療をしないと慢性化して膿がたまってしまい、切開や精巣上体の摘出が必要になることもあります。
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精巣上体炎の慢性化と不妊リスク
急性精巣上体炎が長引いて起こる慢性的な炎症が慢性精巣上体炎です。急性精巣上体炎の治療が十分に行われないと、細菌が精巣上体のなかにこもり、慢性的な炎症を引き起こします。慢性精巣上体炎では陰嚢の鈍痛や不快感が持続し、数ヶ月から数年にわたって症状が続くことがあります。
精巣上体炎を放置した際の最も深刻なリスクは男性不妊です。精巣上体は精巣で作られた精子を蓄え成熟させる器官であり、精子の通り道の一部でもあります。炎症により精巣上体管が閉塞すると、精液中の精子が少なくなったり、まったく射出されなくなったりする可能性があります。
参考)精巣上体炎とは?症状・原因・検査・治療法や女性にうつる可能性…
動物モデルの研究では、急性細菌性精巣上体炎の患者の最大40%に持続的な乏精子症や無精子症が認められることが報告されています。精路に炎症があると精子の活動性が低下し不妊の原因となり、精巣上体炎が悪化すると精子の通り道がふさがり、通過障害を起こすことがあります。
参考)https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC4577585/
精子の通り道が閉塞した場合、自然妊娠を望むには顕微鏡下に精管と精管、精管と精巣上体をつなぎ直す手術が必要になることもあります。通過障害が解除される率は60~80%、妊娠率は10~40%程度とされています。また、クラミジアや淋菌などの性感染症が原因の場合、パートナーに感染し女性側の不妊の原因になることもあるため、パートナーの検査も重要です。
参考)男性不妊
精巣上体炎と男性不妊の関連について、動物モデルを用いた詳細な研究結果が掲載されています。