生活習慣病管理料改定の全体像
生活習慣病管理料改定の背景と目的
2024年6月の診療報酬改定において、生活習慣病管理に関する大幅な制度変更が実施されました。厚生労働省は「より質の高い疾病管理を進めるため」として、従来の特定疾患療養管理料225点から生活習慣病管理料への移行を促進しています。
この改定の背景には、令和4年度の実態調査で生活習慣病を主病とする外来患者の約90%に対して特定疾患療養管理料を算定していることが判明したことがあります。しかし、実際の管理内容と診療報酬の整合性について疑問視する声も医療現場から上がっていました。
改定の主な狙いは以下の3点です。
- 患者と医療者の共通理解促進 – 療養計画書を通じた治療目標の共有
- 疾病管理の質向上 – 個別化された治療計画の策定と実施
- 医療費の適正化 – 過剰診療の抑制と効率的な外来管理
生活習慣病管理料(I)(II)の算定要件と点数体系
新制度では生活習慣病管理料が(I)と(II)の2種類に分けられ、医療機関が患者の状況に応じて選択できる仕組みとなりました。
生活習慣病管理料(I)の特徴:
- 検査・注射を包括した点数設定
- 脂質異常症610点、高血圧660点、糖尿病760点
- より高い点数設定だが算定要件が厳格
生活習慣病管理料(II)の特徴:
- 検査料などを別途算定する333点の定額制
- 外来管理加算や医学管理等の費用を包括
- オンライン診療時は290点(対面の87%)に減額
特に注目すべきは、管理料(II)の算定における併算定制限です。外来管理加算52点や特定疾患処方管理加算が算定できなくなり、処方箋料も8点減額されるため、トータルでは従来よりマイナス16点(160円)の影響を受けます。
月2回算定が可能だった特定疾患療養管理料と比較して、生活習慣病管理料は月1回制限のため、特に頻回受診患者を多く抱える医療機関では大幅な減収が予想されます。
生活習慣病管理料における療養計画書作成の実務対応
新制度で最も重要な変更点は、療養計画書の作成と患者同意取得の義務化です。この計画書には以下の項目を記載する必要があります。
必須記載項目:
療養計画書は患者に丁寧に説明し、同意を得て署名をもらうことが算定要件となっています。この過程で医師の業務負担が増加することは避けられませんが、一方で患者との治療方針共有が明確化されるメリットもあります。
実務上の注意点として、計画書は4か月ごとの更新が推奨されており、患者の病状変化に応じた柔軟な見直しが必要です。また、電子カルテ情報共有サービスを利用する場合は「患者サマリ」での代替も認められています。
医療機関では計画書作成のためのテンプレート整備や、説明時間確保のための診療体制見直しが求められています。特に患者への説明と同意取得については、治療継続への影響を考慮した慎重な対応が必要です。
生活習慣病管理料改定が医療機関経営に与える影響分析
改定による医療機関への経営影響は深刻で、特に内科系診療所では大幅な減収が懸念されています。東京都内の開業医の試算によると、1日50人の患者のうち30人に特定疾患療養管理料を月1回算定していた場合、年間約115万円の減収になると推計されています。
減収要因の詳細分析:
- 算定回数の半減(月2回→月1回)による直接的影響
- 外来管理加算52点の併算定不可による間接的影響
- 処方箋料8点減額による処方関連収益の削減
- 療養計画書作成に伴う人件費増加
一方で、管理料(II)333点は特定疾患療養管理料225点より108点高く設定されており、適切な算定により一定の収益確保は可能です。ただし、これまで月2回算定していた医療機関では大幅な減収は避けられません。
対応策としての選択肢:
- 生活習慣病管理料(I)への移行検討
- リフィル処方箋の積極活用による受診間隔調整
- 他の医学管理料との組み合わせによる収益補完
- 予防医療サービスの充実による自費収入拡大
特に注目すべきは、改定により「薬だけ出しておく」という従来の診療スタイルでは算定が困難になった点です。質の高い疾病管理の実践が収益確保の前提条件となったため、医療機関には根本的な診療体制の見直しが求められています。
生活習慣病管理料改定後の患者対応と長期戦略
改定により患者の医療費負担が増加するため、受診控えや治療中断のリスクが高まっています。特に安定期の患者に対する継続的な管理料算定について、患者の理解と納得を得ることが重要な課題となっています。
患者コミュニケーションの重要性:
医療機関では「引き続きお願いしたい」と患者に言われるような信頼関係の構築が不可欠です。これには日常診療での丁寧な説明と、療養計画書を活用した明確な治療方針の提示が効果的です。
長期的な視点での戦略立案:
- 生活習慣病の重症化予防による長期的な医療費削減効果の説明
- 個別化された治療計画による患者満足度の向上
- 多職種連携による包括的なケア体制の構築
- デジタルヘルステクノロジーを活用した効率的な疾病管理
また、2026年度の次期診療報酬改定に向けて、生活習慣病の治療・管理を途中で中断する患者が相当程度存在することが指摘されており、継続的な治療支援体制の整備がより重要視される見込みです。
医療機関は短期的な減収対応だけでなく、質の高い疾病管理を通じた患者価値の向上と、それに見合った適正な診療報酬の確保を目指した長期戦略の策定が求められています。
厚生労働省の診療報酬改定に関する詳細な通知内容について
日本医師会の生活習慣病管理料に関する見解と対応指針について