性感染症と検査と治療と予防と梅毒

性感染症と検査と治療と予防

性感染症診療で押さえる要点
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無症状でも「感染なし」とは言えない

クラミジア・淋菌などは無症状が多く、症状だけでの否定は危険。検査適応の説明と導線設計が重要です。

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検体部位と検査法が診断精度を左右

尿・頸管・咽頭・直腸など感染部位に合わせ、核酸増幅法や血清学的検査を組み合わせます。

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治療は本人だけで完結しない

パートナー対応、治療完遂、再検査・再感染予防まで含めて初めて「介入が成立」します。

性感染症の症状と無症状の頻度と見逃し

 

性感染症(STI)は、性的接触(性器・口腔・肛門など)を介して感染する疾患群で、誰もが感染し得ることを前提に対応する必要があります。厚生労働省の資料でも、性感染症は早期発見・早期治療で治癒や重症化予防、感染拡大防止が可能であり、正しい知識と行動が重要とされています。

臨床で最も多い落とし穴は「症状が軽い/ないから大丈夫」という認知です。クラミジア感染は女性で無症状が多いことが指摘され、無症状でも感染が除外できないという前提が、検査提案のコミュニケーション設計に直結します。

典型症状は、尿道炎(排尿時痛、尿道分泌)、子宮頸管炎(帯下増加、不正出血)、咽頭痛、肛門違和感、皮疹・潰瘍など多彩ですが、症状の有無は「感染性の有無」と一致しません。つまり、症状ースのスクリーニングは感度が低く、問診(性交渉の有無、パートナー数、部位別接触、コンドーム使用、妊娠可能性)と検査導入がセットになります。

参考)https://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-10900000-Kenkoukyoku/0000186685.pdf

医療従事者向けに意外と効く説明の型は、「症状は炎症の表現型で、病原体の存在とは別」という整理です。炎症が弱い・局在が違う(咽頭など)・免疫応答が乏しいなどで症状が目立たず、結果として“気づかない感染源”になりやすい点を短く伝えると受検率が上がります。

性感染症の検査と核酸増幅法と部位

性感染症診療で「検査が陰性だったのに後で陽性」は、検体部位ミスマッチと検査タイミングが主因になりがちです。厚労省の性感染症対策資料では、保健所等での検査体制や、検査後に医療へ結び付けることの重要性も論点として挙げられています。

クラミジア・淋菌は核酸増幅法(PCR等)が中心で、PCRに加えSDA法、TMA法など複数方式があり、感度に優れ、単一検体で同時検出が可能とされています。現場では「尿だけで済ませた結果、咽頭・直腸の感染を拾えていなかった」という構図が起きやすいため、曝露部位に応じて検体を増やす判断が必要です。

参考)https://idsc.tmiph.metro.tokyo.lg.jp/assets/survey/kobetsu/j2020.pdf

梅毒は病変の時期・部位で戦略が変わり、皮疹や粘膜病変があっても“皮膚科だけ”で完結しないことがあります。厚労省の資料でも梅毒は近年増加傾向で、幅広い診療科を受診し得るため標準的診断・治療の推進が論点として提示されています。

参考)日本性感染症学会

検査の提案時は、患者の「怖さ」を増やすより、選択肢を明確化するほうが同意が得られます。例えば、①症状があるので診断目的、②症状はないが曝露があるのでスクリーニング、③妊娠・パートナー妊娠の可能性があるので母子予防、という目的を先に言語化すると説明が短く済み、検査後の行動(治療・再検査・パートナー連絡)にもつながります。

性感染症の治療と薬剤耐性と再検査

性感染症は治療薬が効くものが多い一方、薬剤耐性の問題が確実に診療を難しくしています。WHOがクラミジア・淋病・梅毒の治療と薬剤耐性への懸念を示している紹介資料があり、治療選択のアップデートと公衆衛生的視点が欠かせません。

特に淋菌は耐性化が世界的課題で、日本の厚労省資料でも薬剤耐性への研究開発推進が明記され、治療選択肢の喪失が懸念されています。現場では「症状が消えた=治癒」と誤解されやすく、治療完遂の確認と、必要に応じた再検査(治癒判定や再感染の評価)をシステムとして組み込むことが重要です。

あまり知られていないが実務的に効くポイントとして、Mycoplasma genitalium(マイコプラズマ・ジェニタリウム)は高い耐性率が報告されており、耐性状況を踏まえた治療戦略が求められています。日本化学療法学会のサーベイランス報告では多剤耐性の割合が高いことが示され、地域差にも触れられています。

参考)https://www.chemotherapy.or.jp/uploads/files/guideline/tokuteikansen_survei_m_genitalium.pdf

再検査の設計では、患者に「次回受診の理由」を理解してもらう必要があります。医療者側の言い方としては「治癒判定」だけでなく「再感染が多いので、治ったか+またうつっていないかを確認する」という二段構えにすると納得されやすいです。

参考)FORTH|最新ニュース|2016年|性行為感染症の治療と拡…

性感染症の予防とコンドームとワクチン

性感染症の予防は、単なる啓発ではなく“行動に落ちる導線”が必要です。厚労省資料では、コンドーム使用、予防接種、検査・医療受診による早期発見と早期治療が、発生予防とまん延防止に有効と示されています。

ワクチンで直接予防できる代表例がHPVで、尖圭コンジローマや子宮頸がん予防の文脈で重要です(ただしワクチンで全STIが防げるわけではありません)。そのため予防の説明は「①バリア(コンドーム等)②ワクチン③定期検査④早期治療」のレイヤーで提示すると、患者が自己管理として理解しやすくなります。

参考)エラー

医療機関内の工夫としては、問診票に「口腔(オーラル)」「肛門(アナル)」の曝露を中立的な表現で入れるだけで、咽頭・直腸の検査提案率が上がり、結果として未治療リザーバーが減ります。性感染症予防指針の議論でも、インターネットやSNSを活用した行動変容の重要性が論点に挙げられており、院内掲示・予約導線・検査結果通知の仕組みまで含めた設計が現実的です。

性感染症の独自視点:検査導線とナッジとSNS

検索上位の記事では「症状・検査・治療・予防」が中心ですが、医療現場の成果を左右するのは“検査導線(受検に至る仕組み)”です。厚労省の検討資料では、SNS広告やウェブ広告配信で受検勧奨を行い、性感染症MAPへのアクセスが増加したという記載があり、ナッジ(行動経済学的アプローチ)を含む施策が実務として動いています。

この視点を医療機関に落とすと、次の3点が効きます。第一に「匿名性の担保」を明確に伝える(受付での呼び出し、結果通知、会計の導線)。第二に「時間の短縮」を提示する(採尿・自己採取・予約枠)。第三に「次の行動の自動化」を行う(陽性時のパートナー説明テンプレ、再診予約の同時取得)。これらは医学的知識というより運用設計ですが、検査数・治療完遂率・再感染率に反映されます。

意外に効果が高いのは、検査前説明で“説得”ではなく“選択肢の提示”に徹することです。例として「今検査する/症状が出たら検査する/一定期間後に検査する」のように、患者が主体的に決めた形にするとドロップアウトが減ります(その上で医学的に推奨される選択を短く添える)。

公衆衛生的には、医療機関は「治療の場」だけでなく「感染拡大を止める結節点」です。性感染症は早期発見・早期治療で拡大防止が可能という原則に、導線設計を接続させると、個別診療の積み重ねが地域の流行に影響し得ます。

有用:国の性感染症情報(検査・治療・予防の基本がまとまる)

性感染症
性感染症について紹介しています

有用:性感染症対策(梅毒増加、検査体制、SNS/ナッジ等の論点とデータ)

https://www.mhlw.go.jp/content/10906000/001478424.pdf

有用:M. genitalium 薬剤耐性(国内サーベイランスの具体的データ)

https://www.chemotherapy.or.jp/uploads/files/guideline/tokuteikansen_survei_m_genitalium.pdf

性感染症 診断・治療ガイドライン2026