成長ホルモン剤一覧
成長ホルモン剤の種類と製剤特徴
現在日本で使用可能な成長ホルモン剤は主に7種類に分類されます。各製剤には独自の特徴があり、患者の状態や投与方法の希望に応じて選択する必要があります。
主要な成長ホルモン剤一覧:
- グロウジェクト(JCRファーマ):6mg、12mg規格
- ジェノトロピン(ファイザー):TC注用とゴークイック注用
- ノルディトロピン(ノボノルディスクファーマ):フレックスプロ注
- ヒューマトロープ(日本イーライリリー):6mg、12mg規格
- ソマトロピンBS(サンド):後発品として5mg、10mg規格
- ソグルーヤ(ノボノルディスクファーマ):持効性製剤
- サイゼン(メルクセローノ):液状製剤
製剤形態は大きく分けて凍結乾燥品と液状品に分類されます。凍結乾燥品は溶解操作が必要ですが保存期間が長く、液状品は溶解操作が不要で使用が簡便という特徴があります。
投与方法による分類:
- 専用注入器使用タイプ(ジェノトロピンペンG、ノルディペン等)
- 薬剤一体型タイプ(フレックスプロ、ゴークイック等)
- 針なしシリンジタイプ(ツインジェクター等)
成長ホルモン剤の薬価比較と経済的考慮
成長ホルモン剤の薬価は製剤により大きく異なり、医療費負担を考慮した選択が重要です。
主要製剤の薬価比較(2025年現在):
製剤名 | 規格 | 薬価 | 製薬会社 |
---|---|---|---|
グロウジェクト皮下注 | 6mg | 32,106円/筒 | JCRファーマ |
グロウジェクト皮下注 | 12mg | 63,802円/筒 | JCRファーマ |
ジェノトロピンTC注用 | 5.3mg | 15,550円/筒 | ファイザー |
ジェノトロピンTC注用 | 12mg | 33,152円/筒 | ファイザー |
ノルディトロピンフレックスプロ注 | 5mg | 33,174円/キット | ノボノルディスク |
ヒューマトロープ注射用 | 6mg | 18,284円/筒 | 日本イーライリリー |
ソマトロピンBS皮下注「サンド」 | 5mg | 12,395円/筒 | サンド |
経済的負担軽減のポイント:
- 後発品(ソマトロピンBS)は先発品と比較して約30-40%の薬価削減
- mg単価で比較すると高用量規格の方が経済的
- 専用注入器の耐用年数も考慮要因(2-3年使用可能)
長期投与が必要な成長ホルモン治療では、薬価と利便性のバランスを考慮した選択が患者のアドヒアランス向上に繋がります。
成長ホルモン剤の適応症別投与量ガイド
成長ホルモン剤の適応症は多岐にわたり、各疾患に対して推奨投与量が設定されています。
主要適応症と推奨用量:
小児適応症:
- 成長ホルモン分泌不全性低身長症:0.175mg/kg/週
- ターナー症候群:0.35mg/kg/週
- 軟骨異栄養症(軟骨無形成症・軟骨低形成症):0.35mg/kg/週
- 慢性腎不全性低身長症:0.175~0.35mg/kg/週
- プラダーウィリー症候群:0.245mg/kg/週
- SGA性低身長症:0.23~0.47mg/kg/週
- ヌーナン症候群:0.23~0.47mg/kg/週
成人適応症:
- 成人成長ホルモン分泌不全症(重症に限る):0.021~0.084mg/kg/週、最大1mg/日
製剤別適応症の違い:
ノルディトロピンフレックスプロ注は軟骨異栄養症とヌーナン症候群に適応があり、グロウジェクトはSGA性低身長症に適応があるなど、製剤により承認適応症が異なります。
投与は通常週6-7回の分割投与で行い、就寝前の投与が推奨されています。治療効果のモニタリングには身長速度、IGF-1値、骨年齢の評価が重要です。
成長ホルモン剤の投与デバイスと患者指導
成長ホルモン剤の投与には専用デバイスが使用され、患者の年齢や身体能力に応じた選択が重要です。
主要投与デバイスの特徴:
専用注入器タイプ:
- ジェノトロピンペンG:電池内蔵、製造日から3年耐用
- ノルディペン10:電池不要、シンプル操作
- グロウジェクター2:充電式、初回設定から3年耐用
- ヒューマトローペン:軽量設計、操作音小
薬剤一体型タイプ:
- ノルディトロピンフレックスプロ:専用注入器不要
- ジェノトロピンゴークイック:使い捨てタイプ
投与デバイス選択のポイント:
- 小児患者:操作の簡便性、安全性を重視
- 成人患者:携帯性、目立たないデザインを考慮
- 高齢者:大きなボタン、明確な表示のデバイス
患者指導における重要事項:
- 注射部位のローテーション(腹部、大腿部、臀部)
- 冷蔵保存(2-8℃)の重要性
- 使用期限の確認(液状品は開封後28-35日、凍結乾燥品は溶解後14-42日)
- 注射針の適切な廃棄方法
投与手技の習得には通常2-3回の指導セッションが必要で、特に小児では保護者への十分な説明が不可欠です。
成長ホルモン剤の最新安全性情報と処方変更点
2022年4月に成長ホルモン剤の使用上の注意に重要な改訂が行われ、臨床現場での処方に大きな影響を与えています。
重要な安全性情報の更新:
糖尿病患者への処方変更:
従来「糖尿病患者」は禁忌とされていましたが、2022年4月の改訂により禁忌から削除され、慎重投与へと変更されました。この変更により、糖尿病を合併する成長ホルモン分泌不全症患者への治療選択肢が拡大しています。
新たな慎重投与対象:
- 糖尿病患者
- 耐糖能異常のある患者
- 糖尿病の危険因子を持つ患者
モニタリング強化事項:
- 定期的な血糖値測定
- HbA1c値の継続的評価
- インスリン抵抗性の評価
- 糖尿病専門医との連携体制構築
実臨床での注意点:
成長ホルモンは抗インスリン様作用を有するため、糖尿病患者では血糖コントロールの悪化リスクがあります。治療開始前には十分な血糖評価を行い、治療中は密接なモニタリングが必要です。
副作用モニタリング体制:
- 治療開始後1-2週間:血糖値の頻回測定
- 月1回:HbA1c、IGF-1値の評価
- 3ヶ月毎:総合的な治療効果判定
他の注意すべき副作用:
- 甲状腺機能への影響
- 脂質代謝異常
- 関節痛、筋肉痛
- 注射部位反応
この安全性情報の更新により、より多くの患者に成長ホルモン治療の恩恵をもたらすことが期待される一方、慎重な患者選択と綿密なモニタリングの重要性が高まっています。
医療従事者は最新のガイドラインに基づき、患者個々の状態に応じた最適な製剤選択と安全管理を行うことが求められます。また、患者・家族への十分な説明と同意取得、他科との連携体制の構築が治療成功の鍵となります。