セファロスポリン系抗生物質の主な副作用
セファロスポリン系による消化器系副作用
セファロスポリン系抗生物質の使用時に最も頻繁に報告される副作用は消化器系症状です。下痢、悪心、嘔吐、腹痛、食欲不振、胃部不快感などが代表的な症状として挙げられます。
参考)セファロスポリン系 – 16. 感染症 – MSDマニュアル…
これらの消化器症状の中でも特に重要なのがクロストリジオイデス・ディフィシル関連下痢症(CDAD)です。セファロスポリン系薬剤は他の抗菌薬と比較してCDADの発症頻度が高く、偽膜性大腸炎などの重篤な大腸炎を引き起こすリスクがあります。
第3世代セファロスポリン薬は広域スペクトラムを持つため、正常な腸内細菌叢を破綻させやすく、結果として下痢などの副作用が起こりやすいとされています。特に高齢者や体力の低下した患者では、これらの消化器症状が重篤化し、死亡に至るケースも報告されています。
参考)抗菌薬適正使用について、毎日新聞に院長インタビューが掲載され…
セファロスポリン系薬物による過敏症・アナフィラキシー反応
セファロスポリン系抗生物質による過敏反応は、最も頻度の高い全身性副作用として知られています。発疹、蕁麻疹、紅斑、かゆみ、発熱などの皮膚症状から、重篤なアナフィラキシー反応まで幅広い症状を呈します。
参考)セファロスポリン系 – 13. 感染性疾患 – MSDマニュ…
アナフィラキシー反応は投与後数分以内に発生することが多く、皮膚の紅潮、顔面・口唇の腫脹、低血圧、呼吸困難などの症状が急速に進行します。この反応はIgE依存性の即時型反応であり、生命に関わる重篤な副作用です。
ペニシリン系抗菌薬との交差過敏性については、過去には40%程度の交差反応が報告されていましたが、現在では側鎖を共有しないセファロスポリン系薬では1~4%程度とされています。セファロスポリン系薬のアレルギーには、R1側鎖の類似性が重要な役割を果たしています。
セファロスポリン系抗菌薬による神経毒性と脳症
セファロスポリン系抗生物質は、神経毒性による副作用として脳症、ミオクローヌス、痙攣などの中枢神経症状を引き起こすことがあります。これらの症状は治療開始後数日以内に発現し、治療中止後に消失することが報告されています。
参考)http://www.nihs.go.jp/dig/sireport/weekly21/09230427.pdf
神経毒性の発症機序として、神経伝達物質γ-アミノ酪酸(GABA)の作用遮断が考えられています。特にセフェピムによる脳症は比較的よく知られており、腎機能障害を有する患者でリスクが高まります。
参考)https://www.medicalonline.jp/review/detail?id=2045
リスク因子として、腎機能障害、高齢、中枢神経系疾患の基礎疾患、高用量静脈内投与などが挙げられます。重症患者では血液脳関門の機能が破綻しているため、セファロスポリン系薬の中枢神経系への移行が増加し、神経毒性が生じやすくなります。
セファロスポリン系薬剤による血液系・腎機能への影響
セファロスポリン系抗生物質は血液系への副作用として、汎血球減少、血小板減少、無顆粒球症、溶血性貧血などの血液障害を引き起こすことがあります。これらの副作用は頻度としては0.1%未満と稀ですが、早期発見と適切な対応が重要です。
参考)セフゾン(セフジニル)に含まれている成分や効果、副作用などに…
腎機能への影響では、急性腎不全などの重篤な腎障害が報告されています。セファロスポリン系薬は腎臓から排出されるため、腎機能障害を有する患者では体内滞留が起こり、有害作用のリスクが高まります。
参考)https://vet.cygni.co.jp/include_html/drug_pdf/kouseibussitu/JY-00703.pdf
高齢者では生理機能の低下により副作用が発現しやすく、特にビタミンK欠乏による出血傾向が現れることがあります。定期的な検査による早期発見と用量調節が重要となります。
セファロスポリン系抗生物質の安全使用における注意点
セファロスポリン系抗生物質の安全使用のためには、まず投与前の十分な問診が必要です。特にペニシリンやセファロスポリン系薬物への過敏症歴の確認は必須であり、アナフィラキシーのリスクを事前に評価することが重要です。
投与中は観察を十分に行い、異常が認められた場合には投与を中止し、適切な処置を行う必要があります。特に高齢者や腎機能障害患者では、用量調節と投与間隔の調整が必要となります。
抗菌薬の適正使用の観点から、不要な投与は避け、培養結果に基づいた適切な薬剤選択を行うことで、副作用のリスクを最小限に抑えることができます。医療従事者は、原因不明の神経症状を新規に発現した患者において、セファロスポリン系薬起因の神経毒性を常に検討すべきです。
MSDマニュアル セファロスポリン系薬剤の詳細情報と副作用に関する専門的な解説
NIHS医薬品安全性情報 セファロスポリン系薬による神経毒性の最新報告書