サルモネラとカンピロバクターの違い
サルモネラの潜伏期間と症状
サルモネラ属菌による食中毒は、感染後6時間から48時間程度の比較的短い潜伏期間を経て発症します。一部のケースでは72時間程度で発症することもあります。症状としては、激しい腹痛、吐き気、38度前後の発熱、嘔吐、水様性下痢が主に現れます。
サルモネラ感染症の症状は、腸に感染が起こると通常は細菌が取り込まれてから12~48時間後に胃腸炎の症状が始まり、吐き気と差し込むような腹痛があり、そのすぐ後に水様性下痢、発熱、嘔吐が続きます。症状は通常2日~4日程度で回復しますが、1週間程度症状が続くこともあります。重症例では菌血症や敗血症、急性腎不全などの合併症を起こすこともあり、特に小児や高齢者では注意が必要です。
参考)サルモネラ(Salmonella)感染症 – 16. 感染症…
サルモネラ症には複数の病型があり、急性胃腸炎型が最も一般的ですが、敗血症型や腸チフス型、反応性関節炎などの病型も存在します。成人患者の約10~30%では、下痢が止まって数週間から数カ月後に反応性関節炎が発生することがあり、通常は股関節、膝、アキレス腱に痛みと腫れが起こります。
カンピロバクターの潜伏期間と症状
カンピロバクターによる食中毒は、サルモネラと比較して潜伏期間が長く、1日~7日前後です。症状は通常、菌に接触した2~5日後に始まり、約1週間続きます。カンピロバクター腸炎では下痢が93%、発熱が62%、血便が23%、腹痛が79%、嘔気または嘔吐が28%の頻度で見られます。
参考)カンピロバクター腸炎とサルモネラ腸炎の臨床像と内視鏡像の検討
カンピロバクター腸炎の特徴として、発熱や倦怠感が強く、頭痛などの症状も強く出やすいことが知られています。カンピロバクター腸炎は「回盲部」という小腸と大腸の繋ぎ目の部分に炎症を伴うことが多く、右下腹部の痛みが強くなる傾向があります。下痢は水様性で、ときに血性のことがあり、38~40℃の発熱も起こります。
参考)カンピロバクター( Campylobacter)感染症 – …
症状は3日から5日くらいで治ることが多いですが、長引く場合もあります。カンピロバクター感染症の一般的な予後は、一部の免疫不全患者を除いて死亡例も無く、良好な経過をとりますが、稀に敗血症や腹腔内膿瘍にまで悪化する方もいます。
参考)細菌性腸炎の代表格、カンピロバクター腸炎について – 医療法…
サルモネラとカンピロバクターの感染経路の違い
サルモネラ属菌の主な感染源は、鶏卵やその加工品、牛・豚・鶏などの食肉、うなぎやすっぽんなどです。サルモネラは自然界のあらゆる場所に生息しており、主に牛や豚、鳥などの動物の体内に存在します。感染経路は主に汚染された水や汚染飼料、感染動物の糞便からの経口感染です。十分に加熱されていない卵料理や生肉、生食された汚染野菜が原因食品として報告されています。
カンピロバクターは、生肉や、カンピロバクターに汚染された食品を食べることで感染します。わが国では1997~2018年のカンピロバクター食中毒の発生件数はおおむね250~650件、患者数が1,500~3,500人規模で推移し、2003年以降細菌性食中毒の中では常に第1位を占めています。主な感染源は鶏肉であり、鶏肉を生で食べる食習慣があるため、本食中毒のリスク低減に立ちはだかる課題が多く存在しています。
カンピロバクターは、犬の腸管にも存在し、ペットのフンを触ったり、直接口が触れ合ったりしてうつることがあります。調理環境での注意点として、まな板や包丁などの調理器具は、肉類用と野菜用で分け、使用後はしっかり消毒することが重要です。
参考)カンピロバクター食中毒は人からうつる?予防法や潜伏期間につい…
サルモネラとカンピロバクターの治療方法の違い
サルモネラ症を治療する際には、腸に感染している場合は水分を経口で与えて、症状が重い場合は輸液を静脈から行います。サルモネラのみならず細菌性胃腸炎では、発熱と下痢による脱水の補正と腹痛など胃腸炎症状の緩和を中心に、対症療法を行うのが原則です。回復する期間は抗菌薬では短くならなく、細菌が便の中へ長い期間排泄することがあるため、抗菌薬は一般的に使いません。
参考)サルモネラ菌(食中毒)とは?治療法や症状はいつ消えるのかにつ…
しかし、エイズウイルスに感染している人や介護施設に入っている高齢者などの菌血症の恐れがある人、医療機器や人工関節、血管グラフト、人工心臓弁などの器具を体の中に移植している人の場合は、抗菌薬を使用します。この場合は、数日間アジスロマイシンあるいはシプロフロキサシンを投与し、菌血症であれば2週間抗菌薬のセフトリアキソンあるいはシプロフロキサシンなどを静脈の中に投与します。
カンピロバクター腸炎の治療は、ほとんどの方は数日で自然によくなります。しっかりと下痢で失われた水分・ミネラルを補って、ある程度下痢という行為で菌を出し切ってしまえば治ります。ガイドライン上、軽症の場合は抗生剤は原則必要ないとなっていますが、実際の現場ではカンピロバクター腸炎を疑う患者さんを診た場合には、抗菌薬を処方する事が多いです。なぜなら基礎疾患のない健康な方でも稀に敗血症・腹腔内膿瘍にまで悪化する方がいたり、自然治癒に時間がかかり数週間自身の便に排菌し続けることがあるからです。
サルモネラとカンピロバクターの合併症リスクの比較
サルモネラ感染症では、腸炎の重症度が高くまた合併症も多く、急性腎不全や低ナトリウム血症、けいれん等を呈した症例もあり、他の細菌性食中毒より重症の臨床像を呈することがあります。サルモネラ腸炎患者の数~8%の患者が菌血症を合併し、乳幼児では30-50%との報告もあります。菌血症患者の内5-10%は中枢神経系など各臓器の局所感染症を伴い、骨髄炎、関節炎、心内膜炎、血管炎、腎膿瘍、軟部組織感染症などが起こるとされています。
参考)https://www.saiseikai-shiga.jp/content/files/about/journal/2021/journal2021_9.pdf
カンピロバクター感染症の重要な合併症として、ギラン・バレー症候群(GBS)があります。カンピロバクター感染後1~3週間(中位数:10日間)を経てGBSを発症する事例が知られており、GBSを発症するのはカンピロバクター感染症の2000例に1例に過ぎないと推定されていますが、GBSを発症する患者の約25~40%にカンピロバクターの感染歴があります。
参考)Campylobacter属細菌による感染症とその関連疾患 …
カンピロバクター感染症に後発するGBSは軸索型GBS(AMAN)で重症化し易く、英国のデータでは発症1年後の時点においても、4割程度の患者に歩行困難などの種々の後遺症が残ると言われています。また、一部患者では呼吸筋麻痺が進行し、死亡例も確認されています。その他の感染後合併症としては、ぶどう膜炎、溶血性貧血、溶血性尿毒症症候群、心筋心膜炎、免疫増殖性の小腸疾患、敗血症性流産、脳症などがあります。
参考)カンピロバクター感染症(詳細版)|国立健康危機管理研究機構 …
サルモネラとカンピロバクターの予防方法における共通点と相違点
サルモネラとカンピロバクターの予防方法には共通する基本的なポイントがあります。まず十分な加熱調理が重要で、サルモネラ属菌は中心温度75℃以上で1分間などの十分な加熱で殺菌できます。カンピロバクターも生肉は中心部を75度以上で1分間以上加熱する必要があります。
参考)サルモネラ食中毒の特徴と予防方法6つ|MHCL WORKS …
調理器具の管理も重要な予防策です。サルモネラ予防では、汚染食材処理用の調理器具や容器を他の食材と分け、肉用と魚用、野菜用等、用途別に分けることが推奨されています。カンピロバクター予防でも、生肉は他の食品と調理器具や容器を分けて管理し、生肉を取り扱った場合には十分に手洗いしてから他の食品を取り扱うことが重要です。
カンピロバクターは熱と乾燥に弱いため、調理器具などの熱湯消毒や洗浄後の乾燥を心がけることが特に有効です。外食時やBBQなどの屋外イベント時には、加熱が十分に行われているか判断がしづらくなるため、慎重になる必要があります。両菌とも生肉や十分に加熱されていない食肉の摂取を避けることが最も効果的な予防方法です。
参考)腐ったものを食べると何時間後に食中毒になるのか?専門家がよく…
カンピロバクター腸炎とサルモネラ腸炎の臨床像と内視鏡像の比較研究(日本消化器内視鏡学会雑誌)
JAID/JSC感染症治療ガイドライン2015-腸管感染症-(日本感染症学会・日本化学療法学会)