散在性表層角膜炎の原因と症状と治療

散在性表層角膜炎と原因

散在性表層角膜炎の臨床ポイント
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所見名として捉える

散在性表層角膜炎は単一疾患名ではなく、角膜上皮の点状障害が「散在する」状態を指す。背景に感染・乾燥・薬剤毒性などが隠れる。

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細隙灯+フルオレセイン

フルオレセインで点状染色を確認し、分布(中央優位/下方優位/瞼裂部など)と随伴所見から原因を絞る。

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コンタクトレンズは優先リスク

装用歴・誤使用・ケア不良は感染性角膜炎の入口になり得る。軽い所見に見えても翌日再診レベルの安全設計が必要。

散在性表層角膜炎の症状と所見(充血・羞明・流涙)

散在性表層角膜炎(点状表層角膜炎/SPK)は、角膜上皮の小さな欠損・損傷が散在する状態を特徴とする「非特異的所見」です。

主症状は、羞明・異物感・流涙・充血・軽度の視力低下で、患者は「ゴロゴロする」「まぶしい」「目がかすむ」と表現することが多いです。

診断の基本は細隙灯顕微鏡で、フルオレセイン染色により多数の点状染色(punctate staining)として観察されます。

医療従事者向けに重要なのは、「SPK=疾患名」ではなく「所見名」である点です。

参考)https://www.semanticscholar.org/paper/08b8d746fcc7db4de9ae22d146fd77089f3996f2

同じ“点状染色”でも、分布(上方/下方/瞼裂部/中央)と随伴所見(結膜浮腫、耳前リンパ節腫脹、眼脂、前房反応など)で鑑別の方向性が大きく変わります。

参考)https://www.semanticscholar.org/paper/2730372a2c51aec8b59ea245d0637ba469d33770

また、患者訴えと所見が釣り合わない時は注意が必要です。感染性角膜炎の初期・角膜ヘルペスアカントアメーバ角膜炎などでは、初期所見が乏しくても後から急速に重症化することがあるため、痛みの質・経過・コンタクトレンズ歴を必ず再確認します。

散在性表層角膜炎の原因(ウイルス・紫外線・外用薬・保存剤毒性)

散在性表層角膜炎の原因は多彩で、ウイルス性結膜炎(アデノウイルスが最多)、紫外線曝露、外用薬または保存剤毒性、全身薬、末梢性顔面神経麻痺などが原因になり得ます。

つまり「角膜上皮が傷つくルート」は、感染・物理/光学的障害・化学的障害・涙液/瞬目の破綻まで広く、問診が診断の半分を占めます。

例えばウイルス性結膜炎では耳前リンパ節腫脹がよくみられ、結膜浮腫を伴うこともあるため、角膜所見だけでなく結膜・リンパ節所見をセットで拾うと鑑別が早まります。

紫外線角膜炎は曝露後8~12時間で症状が出現し、24~48時間続くという時間軸が特徴的で、作業歴(アーク溶接、雪面反射、高地、サンランプ等)を聞き逃すと原因不明の「急性疼痛」として迷いやすい領域です。

意外に見落とされるのが「外用薬の使い方」そのものです。頻回点眼・多剤併用・防腐剤曝露・自己判断での点眼中断/再開が、角膜上皮障害の引き金になったり、感染性角膜炎の充血所見をマスクしたりします。

特にガイドラインでも、薬剤毒性角膜症に伴う“ひび割れ状”上皮障害(epithelial crack line)の周囲に著明なSPKを認める場合、点眼薬使用状況の詳細な問診が必要だと述べられています。

散在性表層角膜炎とコンタクトレンズと感染性角膜炎

コンタクトレンズ装用は、散在性表層角膜炎の原因になり得るだけでなく、感染性角膜炎の重要な誘因にもなり得るため、医療安全上「最優先で深掘りする問診項目」です。

感染性角膜炎の診断では、コンタクトレンズの種類・使用期間・使用方法・誤使用の有無を詳細に問診し、レンズや保存ケースの汚染が眼表面に持ち込まれる機序が問題になりやすいとされています。

また重症例では緑膿菌やアカントアメーバが多いことがあるため、「軽いSPKに見える」段階でも、痛みの強さ・毛様充血・治療歴(ヘルペス扱いで遷延していないか)を合わせて評価します。

臨床対応としてMSDプロフェッショナル版は、コンタクトレンズ長時間装用が原因の場合、装用中止と抗菌薬眼軟膏(例:0.3%シプロフロキサシン1日4回)を挙げ、重篤感染の可能性があるため眼帯はしない、と記載しています。

さらに、点状表層角膜炎のあるコンタクトレンズ装用者は翌日診察すべき、と明確に述べられており、外来運用(再診設計)まで含めた「事故を起こさない型」が示されています。

現場での実践的チェック項目(問診テンプレ)を、医療従事者向けに整理すると以下です。

・装用区分:ソフト/ハード/連続装用/カラー/オルソなど

・装用時間:規定超過、装用したまま仮眠・就寝の有無

・ケア:こすり洗い、省略、保存液の継ぎ足し、ケース交換頻度

・症状の片眼/両眼、発症時刻、増悪のスピード

・他院治療:ステロイド点眼・抗菌薬点眼の先行、改善/悪化の反応

これらは感染性角膜炎の診断で「詳細な問診が必要不可欠」とされる項目群と整合します。

散在性表層角膜炎の鑑別(角膜ヘルペス・帯状疱疹・Thygeson)

散在性表層角膜炎という“点状病変”は、感染性角膜炎の鑑別の入口にもなりますが、角膜ヘルペスや帯状疱疹などでは「樹枝状」「星芒状」など別の上皮病変として現れることがあり、形態の読み分けが重要です。

ガイドラインでは、HSVの樹枝状角膜炎は末端膨大部(terminal bulb)や上皮内浸潤を特徴とし、偽樹枝状病変は末端膨大部を欠き細いことが多い、と整理されています。

したがって、フルオレセインで「点状」に見えても、拡大観察で線状・分岐状の要素が混ざっていないかを必ず確認し、診断名を早期に固定しすぎない姿勢が安全です。

また、星芒状病変の鑑別として、Thygeson点状表層角膜炎(原因不明、ウイルス性が疑われている)が挙げられており、両眼性・再発性に星芒状の上皮混濁が散在し、病変部はフルオレセインで染色、病変部以外の上皮は正常、実質・内皮・前房に異常がなく充血も認めない、と記載されています。

この記載は「散在性表層角膜炎=充血があるはず」という思い込みを壊す、鑑別上の落とし穴にもなります。

充血が目立たないのに強い羞明が続く、再発を繰り返す、といった時は、Thygesonや薬剤毒性、ドライアイなど“炎症の見え方が薄い病態”を再点検します。

さらに、感染性角膜炎では細隙灯所見だけでなく、再発性か否か(HSVを示唆)や痛みの性状(緑膿菌・レンサ球菌は進行が早い、真菌は緩徐なことが多い等)といった経過情報が鑑別の核になります。

散在性表層角膜炎の治療と対応(原因中止・翌日再診・眼帯しない)

治療は原因により異なり、まずは「原因の除去・中止」が最優先です。

MSDプロフェッショナル版は、原因と疑われる外用薬(活性成分または保存剤)は中止すべき、と明記しており、点眼の整理が治療そのものになる場面があります。

アデノウイルス結膜炎に伴う角膜炎は約3週間で自然治癒する、とされ、疾患の自然経過を説明して過剰治療を避けることも医療従事者の重要な役割です。

コンタクトレンズ関連では、装用中止+抗菌薬眼軟膏が例示され、重篤感染の可能性があるため眼帯はしない、点状表層角膜炎のある装用者は翌日診察すべき、と運用レベルの安全策が提示されています。

この「翌日再診」は、症状が軽く見えるケースでも、感染性角膜炎の立ち上がりを拾うための保険であり、現場では“帰宅後に悪化するタイプ”を想定したフォロー設計が鍵になります。

紫外線角膜炎では、抗菌薬軟膏や短時間作用型調節麻痺薬が治療として挙げられ、角膜表面は24~48時間で自然に再生し、24時間以内に再検査すべき、とされています。

つまり、散在性表層角膜炎は「点眼を出して終わり」ではなく、原因別の再診間隔(翌日なのか、24時間以内なのか、症状のピークを跨ぐのか)を含めて初回設計で勝負が決まります。

加えて感染性角膜炎の領域では、詳細な問診(外傷、コンタクトレンズ、治療歴、再発性)と細隙灯所見、必要に応じて塗抹・培養・PCR等を組み合わせる重要性がガイドラインで繰り返し述べられています。

散在性表層角膜炎を見た時点で「感染を否定する」のではなく、「感染を見落とさない導線(問診→所見→検査→再診)」に患者を乗せることが、医療従事者の実務として最も価値があります。

(参考:所見の読み分けと検査の実際、HSV/帯状疱疹/アカントアメーバ等の鑑別フローチャートが詳しい)

日本眼科学会:感染性角膜炎の診断(PDF)

(参考:点状表層角膜炎の原因一覧、コンタクトレンズ関連対応、紫外線角膜炎の時間軸と再診目安がまとまっている)

MSDマニュアル プロフェッショナル版:点状表層角膜炎