細胞毒性医薬品の一覧と種類
細胞毒性医薬品のアルキル化剤一覧
アルキル化剤は、マスタードガスの研究から開発された細胞障害性抗がん剤の代表的な薬剤です。アルキル基と呼ばれる原子のかたまりをがん細胞のDNAに付着させることで、DNAの複製を阻害します。白血病や悪性リンパ腫などに特に効果が認められており、世界中で最も広く使用されている抗がん剤の一つです。
参考)https://www.anticancer-drug.net/alkylating_agents/
主なアルキル化剤の種類には、以下のものがあります:
- シクロホスファミド(エンドキサン):世界中で最もよく用いられている抗がん剤の一つで、小細胞肺がんに対するCAV療法や悪性リンパ腫に対するCHOP療法などの中心薬剤として使用されます
- イホスファミド(イホマイド):シクロホスファミドと似た構造を持ち、シクロホスファミドが効かなくなった症例にも効果が認められます
- テモゾロミド(テモダール):脳血液関門を通過できる新しい経口タイプのアルキル化剤で、2006年9月に日本で承認されました
- メルファラン(アルケラン):多発性骨髄腫の治療でプレドニゾロンを併用するMP療法が行われています
- ニムスチン(ニドラン):脳腫瘍に有効なニトロソウレア系の抗がん剤で、分子量が小さいため血液脳関門を通過できます
- ラニムスチン(サイメリン):多発性骨髄腫や慢性骨髄性白血病、悪性リンパ腫などの多剤併用療法に用いられます
アルキル化剤は体内で一定の濃度に達すると作用し、DNAがちぎれることでがん細胞が死滅しますが、骨髄抑制などの強い副作用も知られています。
細胞毒性医薬品の代謝拮抗剤の種類
代謝拮抗剤は、細胞の代謝過程で必要な物質と似た構造を持ち、正常な代謝を妨げることでDNA合成を阻害する抗がん剤です。細胞分裂が盛んながん細胞に対して特に効果を発揮します。
参考)SURVIVORSHIP.JP -がんと向きあって-|抗がん…
主な代謝拮抗剤には以下のようなものがあります:
- ゲムシタビン(ジェムザール):膵がんや非小細胞肺がん、胆道がんなどに広く使用されるピリミジン系代謝拮抗剤です
参考)https://www.anticancer-drug.net/anti_metabolites/
- カペシタビン(ゼローダ):体内で5-フルオロウラシルに変換される経口抗がん剤で、大腸がんや乳がんの治療に用いられます
- シタラビン:急性白血病の治療に重要な役割を果たすDNA合成阻害剤です
- メトトレキサート:葉酸代謝を阻害することで抗腫瘍効果を発揮し、多くのがん種に使用されます
代謝拮抗剤は、葉酸代謝、プリン代謝、ピリミジン代謝などの異なる経路に作用することで、がん細胞の増殖を抑制します。
参考)http://www.med.akita-u.ac.jp/~medonco/_app/data/json/upload/files/yakuzai2-1(1).pdf
細胞毒性医薬品の植物アルカロイド一覧
植物アルカロイドは、強い毒性のある植物成分を応用した抗がん剤で、微小管阻害剤とトポイソメラーゼ阻害剤に大別されます。ツルニチニチソウという有毒植物から抽出されたビンクリスチンや、放線菌が産生する物質から得られたドキソルビシンなど、もともとは「毒」から作られた薬剤が多く含まれます。
参考)「毒」と抗がん剤
主な植物アルカロイドの種類:
- ビンクリスチン:有毒のツルニチニチソウから抽出されたアルカロイドで、悪性リンパ腫の治療に使用されますが、神経毒性があり長期間のしびれを訴える患者もいます
- ドキソルビシン:放線菌が産生する抗生物質由来の抗がん剤で、効果が高い一方で使用量が一定量を超えると心臓毒性が出現します
- イリノテカン(カンプト、トポテシン):トポイソメラーゼ阻害剤で、血球、骨髄、脾臓、心臓、肺、肝臓等に高濃度に分布し、急性白血病に対して有効性を発揮します
参考)https://www.anticancer-drug.net/plant_alkaloids/
- エトポシド(ベプシド、ラステッド):注射剤と内服薬があり、小細胞がん、悪性リンパ腫、急性白血病などに使用されます
- エリブリン(ハラヴェン):2011年4月に承認された日本生まれの新しい薬剤で、手術不能・再発乳がんに対して単剤で生存期間を延長できます
微小管阻害剤は細胞分裂の際にDNAを引き寄せる微小管のはたらきを阻害し、トポイソメラーゼ阻害剤はDNAの切断と再結合を助ける酵素のはたらきを阻害することで、がん細胞を死滅させます。
細胞毒性医薬品のプラチナ製剤とタキサン系
プラチナ製剤とタキサン系は、細胞毒性医薬品の中でも特に重要な薬剤群です。プラチナ製剤は白金を含む化合物で、DNAに結合して複製を阻害します。
参考)抗がん剤一覧
主なプラチナ製剤には以下があります:
- シスプラチン:多くのがん種に使用される代表的なプラチナ製剤で、肺がん、食道がん、胃がん、頭頸部がんなどに広く用いられます
- カルボプラチン:シスプラチンと比較して副作用が軽減されており、卵巣がんや肺がんの治療に使用されます
- オキサリプラチン:大腸がんの治療に特に有効で、FOLFOX療法などの多剤併用療法の中心薬剤として使用されます
参考)https://www.jstage.jst.go.jp/article/fpj/136/5/136_5_275/_pdf
タキサン系抗がん剤の代表例:
- パクリタキセル(タキソール):イチイの樹皮から抽出された成分を基にした薬剤で、乳がん、卵巣がん、肺がんなどに使用されます
- ドセタキセル:パクリタキセルと同様の作用機序を持ち、乳がんや前立腺がんの治療に用いられます
これらの薬剤は末梢神経障害を高頻度で引き起こすことが知られており、タキサン系とプラチナ系の両方が用量依存性の感覚性ニューロパチーをきたします。
参考)302 Found
細胞毒性医薬品の取り扱いと注意点
細胞毒性医薬品は、変異原性や発がん性などの危険性を持つため、医療職員の安全管理が非常に重要です。細胞毒性(変異原性)医薬品の取り扱いに関しては、専門的なマニュアルが整備されており、適切な防護措置が求められます。
参考)https://www.semanticscholar.org/paper/5f12a173d9759d723ded81813ba016838fe966b8
取り扱いにおける重要な注意点:
- 暴露経路の管理:細胞毒性医薬品は皮膚吸収、吸入、経口摂取などの経路で人体に影響を与える可能性があります
参考)https://www.jstage.jst.go.jp/article/safety/37/6/37_417/_pdf/-char/ja
- 適切な防護具の使用:調剤時には手袋、ガウン、マスクなどの個人防護具を着用する必要があります
参考)https://www.jshp.or.jp/content/2006/19951001.pdf
- 調剤環境の整備:安全キャビネットなどの適切な設備を使用して、薬剤の飛散を防ぐことが重要です
- 廃棄物の適切な処理:細胞毒性医薬品やその容器は、専用の廃棄ルートで処理する必要があります
- 教育訓練の実施:取り扱う医療職員に対して、定期的な安全教育と訓練を実施することが推奨されます
特に妊娠中の医療従事者は、細胞毒性医薬品への暴露を避けるべきとされています。多くの抗がん薬は変異原性を有し、遺伝子に変異を引き起こす性質や発がん性を持つため、取り扱いには細心の注意が必要です。
国立がん研究センター中央病院では、がん種別に使用する抗がん剤とその副作用について詳しい情報を提供しており、患者さんへの説明資料としても活用されています。
日本病院薬剤師会「細胞毒性(変異原性)医薬品の取扱いマニュアル」
細胞毒性医薬品の安全な取り扱い方法について詳細な基準が記載されており、医療機関での安全管理の参考資料として有用です。