サイバーナイフ(アキュレイ社)の機能
サイバーナイフのロボット機構と高精度照射技術
サイバーナイフシステムは、アキュレイ社(Accuray Inc.)が開発した画期的なロボット放射線治療装置です。この装置の最大の特徴は、工業用ロボットアームに6MV(メガボルト)の小型直線加速器(リニアック)を搭載していることです。
工業用ロボットアームの技術を医療分野に応用することで、従来の放射線治療装置では不可能だった柔軟で広範囲な照射方向の設定が可能となりました。このロボットアームは、0.1mm単位という極めて高い精度で動作や停止を行うことができ、自動車工場での組立などでも利用されている実績のある技術です。
サイバーナイフシステムは、標的を中心に360°球体で空間をとらえ、最大1200方向からの照射が可能です。この超多方向照射により、複雑な形状の腫瘍でも高いカバー率と原体一致性、急峻な線量勾配を実現できます。
■ 主要技術特性
- サブミリメートル(1mm未満)の照射精度
- ノンコプラナー照射による複雑な照射経路
- 治療時の自動位置補正機能
- フレームレス固定による患者負担軽減
サイバーナイフのSynchrony動体追尾システム
サイバーナイフシステムの革新的な機能の一つが「Synchrony」動体追尾システムです。この機能により、呼吸や体動による腫瘍の移動をリアルタイムで追尾し、常に正確な位置に照射することが可能となります。
Synchronyシステムは、患者体表面に装着したLEDマーカーの位置を赤外線カメラで監視して呼吸モデルを作成します。同時に、天井に設置した2台のX線撮影装置による透視画像で体内標的の位置変化を検出し、両者を組み合わせて相関モデルを作成します。
このシステムにより、従来必要だったゲーティング法や息止め法、侵襲的な固定具を使用せずに、呼吸性移動を伴う腫瘍の治療が可能になりました。患者は治療中も自然な呼吸を維持でき、身体的負担が大幅に軽減されます。
■ Synchrony追尾システムの種類
- Synchrony Skull Tracking:頭蓋骨の骨格構造を利用した頭部追尾
- Synchrony Fiducial Tracking:金マーカーを使用した肝臓・前立腺追尾
- Synchrony Spine Tracking:脊椎の骨格構造を利用した脊椎追尾
- Synchrony Lung Tracking:肺腫瘍そのものを直接追尾
サイバーナイフの画像照合システムと位置補正機能
サイバーナイフシステムの高精度照射を支える重要な機能が、画像照合システムと自動位置補正機能です。この機能により、治療開始時だけでなく、治療中も継続的に腫瘍の位置を監視し、必要に応じて照射位置を自動補正します。
システムは、治療前に撮影されたCT・MRI診断画像と、治療中に撮影されるライブX線画像を比較することで、照射方向・角度を自動補正します。治療中は通常1分ごとにX線撮影を行い、標的の位置を確認しますが、体動が多い場合は15秒に1回などより短い間隔で撮影し、補正頻度を上げて対応します。
この高度な画像照合技術により、腫瘍のわずかな並進・回転の動きも自動補正され、正常組織への照射を最小限に抑えながら、腫瘍への高線量照射を実現しています。
■ 画像照合システムの特徴
- DRR(Digitally Reconstructed Radiograph)画像との自動照合
- リアルタイムでの補正値算出
- ロボットマニピュレータの動きと連動した補正
- 治療部位に応じた最適な追尾方法の選択
サイバーナイフの治療適応拡大と臨床応用の革新性
サイバーナイフシステムは、当初頭蓋内・頭蓋底及び頭頸部腫瘍と脳・脊髄動静脈奇形の治療装置として開発されましたが、その後治療適応を大幅に拡大しています。現在では、肺・肝・腎・膵・前立腺や脊椎転移・オリゴ転移(少数転移)など体幹のさまざまな腫瘍への治療が可能です。
2022年10月からは、三叉神経痛治療への保険適用も開始され、従来の外科的治療に代わる低侵襲な治療選択肢として注目されています。三叉神経痛は「人間が感じる痛みの中でも最も痛い」とも言われる疾患で、発症率は10万人につき4~5人と報告されています。
治療効果の面では、定位放射線(手術)療法として外科手術に匹敵する効果を発揮します。通常の放射線治療が数週間を要するのに対し、サイバーナイフ治療は数日~1週間程度に短縮でき、通院負担も大幅に軽減されます。
■ 主要治療適応領域
- 頭蓋内良性・悪性腫瘍:脳転移、髄膜腫、聴神経鞘腫等
- 体幹部腫瘍:肺がん、肝がん、膵がん、前立腺がん等
- 脊椎転移:椎体転移、傍脊椎転移等
- 血管奇形:脳動静脈奇形、脊髄血管奇形等
- 機能性疾患:三叉神経痛、本態性振戦等
サイバーナイフの最新技術向上と治療効率化への取り組み
最新のサイバーナイフS7シリーズでは、従来機種の性能を大幅に向上させた技術革新が実現されています。特に注目すべきは、線量率が最大1000MU/分まで選択可能となったことで、より短時間での照射が可能になりました。
治療計画システムには「VOLO最適化アルゴリズム」が搭載され、複雑なピンポイント照射を実現する線量分布の作成と、計画立案時間・治療時間の両方を短縮することが実現されています。これにより、「Deliver more. Better. Faster.」(より多く、より良く、より速く)というアキュレイ社のコンセプトが具現化されています。
Xsight diaphragm tracking system(XDTS)などの新しい追尾システムも導入され、従来の金マーカー留置が困難な症例でも、横隔膜を利用した肝腫瘍の追尾が可能となりました。この技術により、侵襲的な金マーカー留置手術のリスクを回避しながら、高精度な治療を提供できます。
治療の実際では、患者は治療台の上に30~45分程度横になるだけで治療が完了し、痛みや麻酔は一切不要です。健康保険の適用により、3割負担の場合約19万円(一連の治療費)で治療を受けることができ、高額医療費制度の利用でさらに負担軽減が可能です。
■ S7シリーズの主な技術向上点
- 高線量率照射(1000MU/分)による治療時間短縮
- VOLO最適化アルゴリズムによる計画時間短縮
- 新しい追尾システムによる適応拡大
- 患者負担軽減と治療効率の両立