流行性耳下腺炎ワクチンと大人の接種
流行性耳下腺炎ワクチンの大人への接種対象者
流行性耳下腺炎(おたふくかぜ)ワクチンは任意接種のため接種対象者に規定はありませんが、ワクチン接種経験や感染経験がない場合、成人でも接種が推奨されています。特に子育て世代の大人は、子どもからウイルスをうつされるリスクが高いため、妊娠前にパートナーや家族と一緒にワクチンの2回接種を受けることが重要です。医療関係者においても、実習・勤務前に2回の予防接種記録の提出が原則とされており、職業上の安全性の観点からワクチン接種が求められています。
参考)https://www.semanticscholar.org/paper/6a40d529544f4a24438cf0df3c86609d4484eddc
流行性耳下腺炎に対して免疫が不十分な大人は、思春期以降にかかるとムンプス難聴のリスクが高くなるだけでなく、男性の精巣炎、女性の卵巣炎を合併する可能性もあります。日本では先進諸国で唯一おたふくかぜが定期接種になっていないため、4、5年ごとに流行を繰り返しており、これまでにかからなかった人は2回のワクチン接種で確実に予防する必要があります。
大人が流行性耳下腺炎にかかった場合の重症化と合併症
大人が流行性耳下腺炎に感染すると、小児より重症化しやすく、様々な合併症を引き起こすリスクが高まります。最も多い合併症は無菌性髄膜炎であり、その他にも脳炎、難聴、膵炎などを認める場合があります。特に思春期以降では睾丸炎や卵巣炎の合併にも注意が必要です。
ムンプス難聴は約1000人に1人の割合で発生し、治療法がなく改善しにくい深刻な合併症です。片側性の感音性難聴が多いですが、時に両側性になることもあり、言語習得期の子どもだけでなく大人にとっても生活の質に重大な影響を及ぼします。また、男性が感染した場合、20~30%が精巣炎を発症すると言われており、両側の精巣が炎症を起こした場合には不妊の原因となる可能性があります。
参考)おたふくかぜの症状や粒状時期について|大人がかかると重症化す…
合併症 | 発生頻度・特徴 | 影響 |
---|---|---|
ムンプス難聴 | 約1000人に1人、片側性が多い | 治療法なし、永続的な聴力低下 |
精巣炎 | 成人男性の20~30% | 両側性の場合、不妊リスクあり |
無菌性髄膜炎 | 最も頻度が高い合併症 | 頭痛、発熱、嘔吐などの症状 |
卵巣炎 | 成人女性で発生 | 下腹部痛、発熱 |
流行性耳下腺炎ワクチンの接種スケジュールと費用
流行性耳下腺炎ワクチンの接種回数は、世界117か国中約94%の国で2回接種するプログラムが設けられています。日本小児科学会は、1回目を1歳になったら早めに、2回目を小学校入学前の1年間に接種することを推奨していますが、大人の場合は最低1回、できれば4~8週後に2回まで接種することが推奨されています。
1回接種により麻疹93%、風疹97%、おたふくかぜ78%、2回接種すると麻疹97%、おたふくかぜ88%の予防効果があると言われています。2回の接種まで完了していれば20~30年以上の有効期間が期待できます。ただし、生ワクチンのため妊娠中の接種はできず、ワクチン接種後は約2ヶ月間の避妊が必要です。
参考)https://idaten.clinic/blog/about-mmr-vaccine/
流行性耳下腺炎ワクチンは任意接種のため、接種費用は自己負担となります。一般的に1回あたり4,000~6,000円ほどで接種できる病院が多く、2回接種の場合は合計8,000~12,000円の費用がかかります。一部の自治体では助成制度があり、例えば長野市では1歳以上2歳未満のお子さんに対して3,000円の助成が行われています。
参考)おたふくかぜ(任意接種)の予防接種費助成 – 長野市公式ホー…
大人の流行性耳下腺炎ワクチン接種における副反応
流行性耳下腺炎ワクチンは生ワクチンであるため、接種後に体内でウイルスが増えることで副反応が起こる場合があります。接種後2~3週間後に一過性で発熱、耳下腺腫脹、嘔吐、咳、鼻汁などの症状を認めることがありますが、最も頻度の多い耳下腺の腫脹は小児では年齢が上がるほど発生頻度が高いことが報告されています。
参考)https://mhlw-grants.niph.go.jp/system/files/report_pdf/202019020A-buntan23.pdf
成人に対するワクチン接種の研究では、佐賀大学医学部学生63人に1回または2回の接種を実施した結果、接種後に重篤な有害事象の報告はありませんでした。接種直後から翌日には、発疹、微熱、軽度の耳下腺腫脹、接種部位の発赤や痛みが起きる場合がありますが、通常は軽度で自然に回復します。稀ではありますが、思春期以降の男性では接種後3週間前後で精巣腫脹がみられるという報告もあるものの、実態については十分な検討がなされていません。
参考)おたふくワクチン(渡航者向けワクチン予防接種)の予防接種なら…
流行性耳下腺炎ワクチンと抗体検査の必要性
流行性耳下腺炎に対する免疫の有無を確認するには、血液検査で抗体価を測定する方法があります。過去にウイルスに感染していた場合やワクチンを接種した場合に形成されるタンパク質(抗体)が血液中に存在するかを調べることができます。医療関係者の場合、勤務・実習前に2回の予防接種記録の提出が原則とされているため、既感染の有無や過去の接種による抗体保有状況にかかわらず、記録に基づいた接種が求められています。
抗体検査の結果、十分な免疫がないと判定された場合には予防接種が推奨されます。ただし、抗体価測定法については、補体結合試験(CF)法では接種後1年程度で陰転化するため、長期的な免疫の評価には他の測定法が用いられることもあります。年月が経つにつれて免疫力は下がることもあるため、定期的な抗体価の確認が重要です。
参考)https://www.kansensho.or.jp/sisetunai/kosyu/pdf/q070.pdf
成人におけるワクチン接種状況の調査では、医学部学生のうち2回接種が17.5%、1回接種が44.4%、未接種が38.1%という結果が報告されており、多くの成人が十分な免疫を持っていない可能性が示唆されています。抗体検査を行い、必要に応じてワクチン接種を受けることで、流行性耳下腺炎とその合併症を効果的に予防することができます。
オトナのVPD – おたふくかぜの予防と大人の接種について詳しい情報