療養病棟の基準と役割
療養病棟の医療区分とADL区分の仕組み
療養病棟では、患者の状態を「医療区分」と「ADL区分」という2つの指標で評価しています。これらの区分に基づいて入院基本料が決定され、医療サービスの提供内容も変わってきます。
医療区分は患者の医療依存度を示す指標で、区分1から区分3まであります。区分3が最も医療依存度が高く、24時間持続点滴、中心静脈栄養、人工呼吸器使用などの医療処置が必要な患者や、スモンなどの特定疾患の患者が該当します。区分2は、酸素療法が必要な患者や、筋ジストロフィー、多発性硬化症、パーキンソン病関連疾患などの難病患者が該当します。区分1は医療依存度が比較的低い患者です。
一方、ADL区分は日常生活動作の自立度を示す指標で、区分1から区分3まであります。区分3が最も介助が必要な状態です。
療養病棟入院基本料は、医療区分とADL区分の組み合わせによって決定されます。例えば、医療区分3・ADL区分3の患者の場合、最も高い入院基本料が算定されます。具体的な点数は、医療区分3・ADL区分3で1,642点、医療区分2・ADL区分1で785点などとなっています。
療養病棟における医療処置と対象疾患の特徴
療養病棟では、様々な医療処置が行われています。主な医療処置には以下のようなものがあります。
- 24時間持続点滴
- 中心静脈栄養
- 人工呼吸器使用
- ドレーン法
- 胸腹腔洗浄
- 気管切開、気管内挿管(発熱を伴う場合)
- 感染隔離室における管理
- 酸素療法
これらの医療処置は、医療区分3に該当する高度な医療依存度を示すものです。また、療養病棟で対応する主な疾患・状態には以下のようなものがあります。
- 神経難病関連
- 筋ジストロフィー
- 多発性硬化症
- 筋萎縮性側索硬化症(ALS)
- パーキンソン病関連疾患
- 脊髄小脳変性症
- 多系統萎縮症
- その他の疾患・状態
これらの疾患・状態に対して、医師や看護師による常時監視・管理が実施されています。特に神経難病患者は長期的な医療ケアが必要となるため、療養病棟での対応が適しています。
療養病棟の種類と特徴的な施設基準
療養病棟には大きく分けて「医療療養病床」と「介護療養病床」の2種類があります。それぞれの特徴を比較してみましょう。
【医療療養病床】
- 適用保険:医療保険
- 入院目的:早期退院に向けた経過的な医療措置
- 入院条件:「慢性期」の病状である
- 入院期間の目安:原則として3カ月間
- 年齢制限:なし
- 提供サービス:医療措置、機能訓練(リハビリなど)
- スタッフ体制:医療行為は看護師、介助は看護補助者やケアワーカーが担当
- 月額費用の目安:15万〜30万円(医療およびADL区分や年齢により異なる)
【介護療養病床】
- 適用保険:介護保険
- 入院目的:ADLや生活の質(QOL)の向上
- 入院条件:要介護認定を受けていて(要介護1以上)医療措置が必要
- 入院期間の目安:1年間
- 年齢制限:原則として65歳以上(65歳未満でも受け入れる場合あり)
- 提供サービス:医療措置、機能訓練(リハビリなど)
- スタッフ体制:介護福祉士を中心とするケアスタッフが介助
- 月額費用の目安:15万円前後(介護度により異なる)
施設基準としては、「療養病棟入院基本料1」と「療養病棟入院基本料2」があります。基本料1は医療区分2・3患者割合が80%以上、基本料2は医療区分2・3患者割合が50%以上という基準があります。これにより、医療必要度の高い患者を多く受け入れている施設ほど高い診療報酬を得られる仕組みになっています。
療養病棟から慢性期治療病棟への発展と今後の展望
療養病棟は現在、「慢性期治療病棟」へと発展していくべきという考え方が強まっています。これは、単なる長期療養の場ではなく、改善・治療が可能な慢性期疾患に適切に対応し、自宅等への復帰を促す機能を持つ病棟を目指すものです。
慢性期治療病棟で対応すべき6つの主要な病態として、以下が挙げられています。
- 経鼻胃管や胃瘻等の経腸栄養が行われている状態
- 感染症の治療の必要性から隔離室での管理を実施している状態
- 脱水に対する治療を実施している状態
- 褥瘡に対する治療を実施している状態(皮膚層の部分的喪失が認められる場合)
- 肺炎に対する治療を実施している状態
- 尿路感染症に対する治療を実施している状態
これらの病態に対して適切な治療を行い、患者の状態改善と在宅復帰を目指すことが、今後の療養病棟の重要な役割となっています。また、慢性期患者の救急対応なども行う機能を持つことが期待されています。
さらに、2017年度末に介護療養病床の廃止が決定し、その受け皿として3つの新施設(Ⅰ型、Ⅱ型、医療外付け型)が設けられることになりました。これにより、患者の状態に応じた適切なケア提供体制の構築が進められています。
療養病棟のリハビリテーション体制と在宅復帰支援
療養病棟では、患者の状態改善と在宅復帰を目指したリハビリテーションが重要な役割を担っています。多くの療養病棟では、理学療法士、作業療法士、言語聴覚士などのリハビリスタッフを配置し、患者の状態に応じた多様なリハビリプログラムを提供しています。
例えば、ある療養病棟では47名のリハビリスタッフを有し、最大週6回、一日2時間の臨床を行っています。提供されるリハビリテーションの内容は多岐にわたり、以下のようなものがあります。
- リラクゼーション
- 基本動作訓練
- 認知機能訓練
- 日常生活活動訓練
- 歩行訓練
これらのリハビリテーションを通じて、患者のADL(日常生活動作)の向上を図り、施設や家庭への復帰を目指しています。特に、医療保険制度の範囲内で最大限のリハビリサービスを提供することが重要です。
また、在宅復帰支援においては、医療ソーシャルワーカーやケースワーカーが中心となり、患者やその家族の状況を詳細に把握した上で、適切な退院支援計画を立てています。退院前には、在宅での生活を想定した訓練や、必要な医療機器・福祉用具の選定、在宅医療・介護サービスの調整なども行われます。
さらに、短期入院(レスパイト入院)の受け入れなど、家族の介護負担軽減を目的としたサービスも提供されており、在宅療養を継続するための支援体制も整えられています。
療養病棟における終末期ケアと医療従事者の役割
療養病棟では、終末期(ターミナル)患者のケアも重要な役割の一つとなっています。医療依存度の高い終末期患者に対して、適切な医療ケアと緩和ケアを提供することが求められています。
終末期ケアにおいては、患者の身体的苦痛の緩和だけでなく、精神的・社会的・スピリチュアルな側面も含めた全人的なケアが重要です。そのため、医師、看護師だけでなく、リハビリスタッフ、栄養士、薬剤師、医療ソーシャルワーカーなど多職種によるチームアプローチが行われています。
医療従事者の具体的な役割としては、以下のようなものがあります。
【医師】
- 患者の全身状態の管理
- 疼痛コントロールなどの症状緩和
- 治療方針の決定と説明
- 看取りの際の対応
【看護師】
- 日常的な医療ケアの提供
- 患者の状態観察と変化の早期発見
- 患者・家族の精神的サポート
- 多職種間の連携調整
【リハビリスタッフ】
- 残存機能の維持・向上
- 安楽な姿勢保持の支援
- 呼吸リハビリテーション
- 家族への介助方法指導
【栄養士】
- 患者の嗜好や嚥下状態に合わせた食事提供
- 経管栄養の管理
- 栄養状態の評価と改善
【医療ソーシャルワーカー】
- 患者・家族の心理社会的支援
- 社会資源の活用支援
- 退院調整(在宅療養や他施設への移行支援)
終末期ケアにおいては、患者の意思を尊重した医療・ケアの提供が基本となります。そのため、アドバンス・ケア・プランニング(ACP)の実践も重要です。患者が意思表示できる段階で、今後の治療やケアについての希望を確認し、記録しておくことで、患者の意思に沿った終末期ケアを提供することができます。
療養病棟での終末期ケアは、急性期病棟とは異なり、より長期的な視点でのケア提供が可能です。そのため、患者・家族との信頼関係構築や、その人らしい最期を迎えるための支援において、重要な役割を果たしています。
医療従事者には、終末期ケアに関する専門的知識と技術の習得、そして患者・家族に寄り添う姿勢が求められています。定期的な事例検討会やデスカンファレンスを通じて、ケアの質向上に取り組んでいる施設も多くあります。
療養病棟における終末期ケアの充実は、患者のQOL向上だけでなく、家族の満足度にも大きく影響します。医療従事者一人ひとりが自身の役割を理解し、チームとして協働することで、質の高い終末期ケアを提供することができるのです。