ルテチウム-177半減期と核医学治療
生物学的半減期は骨で3,500日、腎臓で10日と500倍以上差がある
ルテチウム-177の物理的半減期と核種特性
ルテチウム-177(Lu-177)は、原子番号71の希土類元素ルテチウムの放射性同位体で、現在がん治療の分野で注目されている核種です。物理的半減期は6.6457日で、軟部組織内の飛程が短いβ線(平均0.67mm、最大2.2mm)とγ線を放出します。
この物理的半減期の長さは核医学治療において絶妙なバランスを持っています。短すぎず長すぎないこの期間は、製造から輸送、投与までの実用的な時間を確保しながら、患者の体内での治療効果を十分に発揮できる期間となっています。約1週間という半減期は、はがきを横に3枚並べたくらいの期間(約20日×0.3)で放射能が10分の1以下になる計算です。
Lu-177は主にLu-176への中性子照射(n,γ反応)、またはYb-176への中性子照射後のβ-壊変によって製造されます。β線のエネルギーは0.498MeV(78.6%)、0.385MeV(9.1%)、0.176MeV(12.2%)が主なもので、組織中での飛程が短いため周辺の正常組織への影響を最小限に抑えられます。
これは爪の厚みの半分程度の距離です。
同時に放出されるγ線(113keV、208keV)は治療には直接寄与しませんが、SPECTイメージングによる体内分布の可視化を可能にします。つまり診断と治療を同時に行う「セラノスティクス」が実現できるのです。
実効線量率定数は0.00517~0.00627μSv・m²・MBq⁻¹・h⁻¹と比較的小さく、医療従事者の被ばく管理の面でも有利な特性を持っています。
日本核医学会によるルテチウム-177標識薬剤の治験適正使用マニュアルでは、物理的特性と安全管理の詳細が記載されています
ルテチウム-177の生物学的半減期と臓器別蓄積
物理的半減期だけでは患者の被ばく線量や治療効果を正確に評価できません。
ここで重要になるのが生物学的半減期です。
動物実験データによると、ルテチウムの無機化合物は体内に取り込まれた後、骨組織に60%、肝臓に2%、腎臓に0.5%が集積することが明らかになっています。
注目すべきは生物学的半減期の大きな差です。
骨と肝臓では3,500日(約9.6年)、腎臓では10日という驚くべき違いがあります。
500倍以上の差ですね。
この違いが意味するのは何でしょうか?
骨や肝臓に集積したルテチウムは物理的半減期(6.6日)よりも生物学的排泄がはるかに遅いため、実効半減期はほぼ物理的半減期と同じになります。一方、腎臓では生物学的半減期が10日と物理的半減期に近いため、実効半減期の計算式(1/T_eff = 1/T_phys + 1/T_biol)により、実効半減期は約4日となります。
体内からの排泄が早いということです。
ただし、これはルテチウムの無機化合物の話であり、実際の治療薬であるルタテラ(ルテチウムオキソドトレオチド)やプルヴィクト(ルテチウムビピボチドテトラキセタン)では、薬剤が結合する受容体や標的分子の違いにより体内動態が大きく異なります。ルタテラはソマトスタチン受容体に、プルヴィクトはPSMAに結合するため、それぞれ神経内分泌腫瘍や前立腺がんに選択的に集積します。
治療効果を最大化し副作用を最小化するには、この臓器別の実効半減期を正確に把握する必要があります。特に腎臓は線量制限臓器であり、アミノ酸製剤の併用により腎への集積を減らす工夫が行われています。
ルテチウム-177製剤における177mLu混入問題
ルテチウム-177治療の普及において、医療現場で大きな課題となっていたのが177mLu(ルテチウム-177m)の混入問題です。
従来の製造方法では、Lu-176(担体)に中性子を照射する際に、核異性体である177mLuが生成されてしまいます。この177mLuの物理的半減期は160.4日(約5.3ヶ月)と、Lu-177の6.6日と比べて24倍も長いのです。サッカーのワールドカップが始まってから終わるまでの期間くらいですね。
これは何を意味するのでしょうか?
患者に投与されたLu-177は約1ヶ月(半減期の5倍)で放射能が97%以上減衰しますが、混入した177mLuは同じ期間でも30%程度しか減衰しません。そのため、患者の排泄物や使用済みのリネン類などの放射性廃棄物を保管廃棄する際、177mLuの長い半減期のために保管期間が大幅に延びてしまうという問題が発生していました。
医療法施行規則では、放射性廃棄物は減衰を待って廃棄することが原則とされています。Lu-177単独であれば2~3ヶ月の保管で十分ですが、177mLuが混入していると半年以上の保管が必要になります。保管スペースの圧迫、管理コストの増大が医療機関にとって大きな負担でした。
この課題に対する解決策として、2025年5月に新しい製造方法が承認されました。イッテルビウム-176(Yb-176)を原料とする無担体製法です。この方法では原理的に177mLuは生成されず、代わりに半減期4.2日の175Ybが混入する可能性がありますが、こちらは短半減期なため廃棄物管理への影響は最小限に抑えられます。ルタテラ製剤では2025年7月以降、この新製法による製品が供給されています。
医療現場の放射性廃棄物管理の効率化が実現したということです。
富士フイルム富山化学による製造方法追加のお知らせでは、177mLu混入問題の解決について詳しく説明されています
ルテチウム-177治療薬の種類と投与間隔の違い
ルテチウム-177を用いた治療薬には、現在日本で承認されている主なものが2種類あります。それぞれ対象疾患、投与量、投与間隔が異なります。
まず、ルタテラ(ルテチウムオキソドトレオチド)は2021年6月に承認された神経内分泌腫瘍治療薬です。ソマトスタシンアナログにLu-177を結合させた薬剤で、ソマトスタチン受容体陽性の神経内分泌腫瘍に適応があります。投与量は1回7.4GBq、投与間隔は8週間で最大4回まで投与されます。
約2ヶ月に1回のペースです。
一方、プルヴィクト(ルテチウムビピボチドテトラキセタン)は2025年9月に承認され11月に薬価収載された前立腺がん治療薬です。PSMAに結合する分子にLu-177を結合させた薬剤で、PSMA陽性の遠隔転移を有する去勢抵抗性前立腺がんに適応があります。投与量は同じく1回7.4GBqですが、投与間隔は6週間で最大6回まで投与可能です。
こちらは約1.5ヶ月に1回のペースですね。
投与間隔の違いは何に基づいているのでしょうか?
これは臨床試験での有効性・安全性データに基づいて設定されています。Lu-177の物理的半減期が6.6日であることから、投与後約1ヶ月で放射能はほぼ消失します。その後、正常組織の回復期間を考慮して次回投与までの間隔が決められています。プルヴィクトの方が投与回数が多く間隔が短いのは、前立腺がんの進行速度や治療反応性を考慮した設計と考えられます。
両薬剤ともに30分かけて点滴静注されますが、ルタテラでは腎保護のためライザケア(アミノ酸製剤)を4時間かけて併用投与します。プルヴィクトでもアミノ酸製剤やクーリングなどの腎保護処置が推奨されています。半減期が同じでも、薬剤の特性により臨床使用法が異なるということです。
ルテチウム-177治療における退出基準と実効半減期の計算
放射性医薬品を投与された患者が病院から退出する際の基準は、医薬安発第70号通知で定められています。この基準は患者のQOLと公衆・介護者の安全確保のバランスを取るものです。
基本原則は、公衆の被ばく線量を年間1mSv以下、介護者は1件あたり5mSv以下に抑えることです。ルテチウム-177製剤の場合、投与量7.4GBqを投与された患者は、一定の条件下で比較的早期に退出が可能となります。
退出基準の評価には3つの方法があります。投与量に基づく基準、測定線量率に基づく基準、患者毎の積算線量計算に基づく基準です。ルテチウム-177製剤では通常、患者毎の積算線量計算が用いられます。
ここで実効半減期が重要になります。実効半減期は、物理的半減期と生物学的半減期の両方を考慮した値で、実際に患者体内の放射能が減少する速度を表します。ルタテラの添付文書によると、腎臓への分布はα相で半減期49分、β相で半減期7.5日という二相性を示します。全身からの排泄を考慮すると、実効半減期は投与後の時間経過とともに変化します。
患者の体表面から1mの点における線量率を測定し、実効半減期を用いて将来の積算線量を計算します。計算式は「積算線量 = 初期線量率 × 1.44 × 実効半減期」で概算できます。たとえば、退出時の線量率が20μSv/hで実効半減期が3日の場合、積算線量は約2.1mSvとなり、介護者の基準5mSvを下回ります。
実際には、患者の生活状況(同居家族の有無、小児・妊婦との接触頻度)を考慮して、個別に退出後の注意事項が指導されます。下水道や水洗トイレの完備、小児・妊婦との距離確保などの条件も評価されます。
医療機関では、退出時の線量率測定、実効半減期の推定、積算線量計算の記録を保存する必要があります。これらの記録は放射線安全管理の観点から極めて重要です。
ルテチウム-177治療における職員被ばく管理と半減期の関係
医療従事者の被ばく管理において、ルテチウム-177の半減期特性を理解することは作業計画の立案に不可欠です。
投与時の作業では、7.4GBqという比較的高い放射能を取り扱います。ただし、Lu-177の実効線量率定数が小さいため、1m離れた位置での線量率は約40μSv/h程度です。30分の投与作業で近接して作業した場合でも、被ばく線量は数十μSv程度に抑えられます。年間の線量限度20mSvに対して、日常的な運用が十分可能な範囲ですね。
一方、患者のケアや病室管理では、投与後の時間経過による線量率の変化を把握することが重要です。物理的半減期6.6日により、投与後1日で約90%、3日で約70%、1週間で約50%の放射能が残存します。これに生物学的排泄が加わるため、実際にはもう少し早く線量率が低下します。
病室の清掃や排泄物処理では、投与直後よりも数日後の方が職員の被ばくを低減できます。可能であれば、緊急性のない作業は時間をおいて実施する戦略が有効です。ただし、患者のケアを優先しつつ、時間・距離・遮へいの3原則を適用します。
特に排泄物の取り扱いでは注意が必要です。投与後48時間で投与量の約20%が尿中に排泄されるため、トイレ使用後の手洗い、便器周辺の清掃が重要となります。排泄物中の放射能も半減期に従って減衰するため、投与後1週間を過ぎれば通常の取り扱いに近づきます。
放射性廃棄物の管理では、Lu-177単独であれば物理的半減期の10倍(約2ヶ月)の保管でほぼバックグラウンドレベルまで減衰します。前述の177mLu混入問題が解決したことで、保管期間の短縮が実現し、廃棄物管理スペースの効率化につながっています。
線量計による個人被ばく管理と作業記録の保存により、医療従事者の安全が確保されます。半減期を考慮した作業計画が、被ばく低減の鍵となるということです。

Effectiveness of LU-177-dotatate after selective catheterization of the hepatic artery in inoperable metastasized liver tumors