ロービジョンケアと視能訓練士の役割と業務

ロービジョンケアにおける視能訓練士の業務

ロービジョンケアの包括的支援体制
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視機能評価と検査

残存視機能の詳細な測定と評価を実施

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視覚補助具の選定

患者に最適な補助具の選択と指導を提供

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リハビリテーション訓練

日常生活動作の訓練と視覚的技能の向上支援

ロービジョンケアの基本概念と視能訓練士の位置づけ

ロービジョンケアとは、視機能に何らかの障害があり、日常生活や社会活動に支障をきたしている方に対する包括的な支援のことです。日本では、視力・視野のみでなく、視覚障害のために日常生活に不自由のある状態を「ロービジョン」と総称しており、WHO基準の矯正視力0.05以上0.3未満という定義よりも広い概念として捉えられています。

参考)https://low-vision.jp/about-low-vision-care/

視能訓練士は、眼科医師、看護師と並んでロービジョンケアの中核を担う医療従事者です。その役割は、視機能検査、視能矯正、検診業務、そしてロービジョンケアの4つの主要業務に大別されます。特にロービジョンケア領域では、視機能の詳細な評価から具体的な支援の実践まで、専門的な知識と技能を活用した幅広い業務を担当しています。

参考)https://www.minkou.jp/vcollege/shigoto/3/2025/shikaku/

日本眼科医会のロービジョンケア概要 – ロービジョンの定義と支援内容

ロービジョンケアにおける視能訓練士の具体的検査業務

視能訓練士によるロービジョンケアの検査業務は、従来の一般的な視機能検査とは異なる専門的なアプローチが求められます。まず、残存視機能の詳細な評価として、視力検査では単に数値を測定するだけでなく、患者がどのような条件下で最も見やすいかを検討します。照明条件、コントラスト、文字サイズなどを様々に変更し、個々の患者に最適な視覚環境を探る作業が重要です。

参考)https://www.frontiersin.org/articles/10.3389/fnsys.2017.00082/pdf

視野検査においても、通常の静的視野検査に加えて、日常生活での実用視野を評価することが特徴的です。歩行時の安全確保や読書時の文字追跡能力など、具体的な生活場面での視野活用状況を詳細に調べることで、より実践的な支援計画を立てることが可能になります。

参考)https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC5671942/

さらに、コントラスト感度検査や色覚検査、眩しさ(グレア)への対応能力など、数値では表現しにくい視覚の質的側面も総合的に評価します。これらの検査結果を統合して、患者の視覚的ニーズと残存機能を正確に把握することが、効果的なロービジョンケアの出発点となります。

参考)https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC6024512/

ロービジョンケア用視覚補助具の選定指導技術

視能訓練士は、ロービジョンケアにおいて視覚補助具の選定と使用指導において中心的な役割を果たします。光学的補助具として、ルーペ、拡大鏡、単眼鏡、遠用眼鏡などがあり、それぞれの特性を理解した上で患者の生活スタイルに最適なものを選定します。例えば、読書を主目的とする場合は据置型の拡大読書器、外出時の看板確認には携帯用の単眼鏡といった具合に、使用場面を具体的に想定した選択が重要です。

参考)https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC1705708/

非光学的補助具の指導も視能訓練士の重要な業務です。書見台、照明器具、遮光眼鏡、コントラストを高める下敷きなど、日常生活の質を向上させる様々な工夫を患者に提案します。特に照明については、患者の疾患特性に応じて最適な光量や光の質を見極める専門的な判断が求められます。

参考)https://avehjournal.org/index.php/aveh/article/download/197/166

最近では、RETISSA DisplayⅡのような先進的な電子機器も登場しており、半導体レーザー技術を用いて網膜に直接画像を投影する革新的な視覚支援装置の活用も視能訓練士の新しい業務領域となっています。これらの新技術を適切に評価し、患者に紹介する能力も現代の視能訓練士に求められる重要なスキルです。

参考)https://www.megane-itagaki.co.jp/column/retissa-display2

ロービジョンリハビリテーション訓練の実践方法

視能訓練士が行うロービジョンリハビリテーション訓練は、患者の残存視機能を最大限に活用できるよう支援する専門的な訓練プログラムです。視覚的注意力の向上、効率的な視線移動の習得、中心視野欠損患者における偏心視訓練など、疾患特性に応じた個別化された訓練内容を提供します。

参考)https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC6517854/

日常生活動作訓練では、読書技能、書字技能、移動技能の向上を目指します。読書訓練では、文字を追いやすい読み方の習得、適切な読書距離の維持、疲労軽減のための休憩の取り方などを指導します。書字訓練では、罫線の活用方法、適切な筆記用具の選択、読みやすい文字を書くコツなどを練習します。
心理的支援も視能訓練士の重要な役割です。視機能低下による不安や抑うつ状態に対して、段階的な目標設定による達成感の獲得、同じ境遇の患者同士の交流促進、家族への理解促進などを通じて、患者の心理的適応を支援します。特に新しい補助具の使用に際しては、最初の抵抗感を克服するための丁寧な指導と継続的な支援が不可欠です。

特別支援教育におけるロービジョンケア連携体制

視能訓練士は特別支援学校や通常学級に在籍する視覚障害児童・生徒のロービジョンケアにも深く関わっています。学校現場では、教育的ニーズに応じた視覚支援機器の選定、使用方法の指導、定期的な視機能評価などを通じて、子どもたちの学習環境の最適化を支援します。

参考)https://www.dinf.ne.jp/doc/japanese/resource/jiritsu-report-DB/db/20/142/report/report19.html

教員との連携においては、児童・生徒の見え方の特徴を具体的に説明し、教室環境の調整方法、教材の工夫、座席配置の配慮などについて専門的な助言を提供します。また、学習用拡大読書器やタブレット端末を活用した視覚支援技術の導入に際して、機器の選定から操作指導まで包括的にサポートします。

保護者への支援も重要な業務です。家庭での学習環境の整備、視覚補助具の日常的な管理方法、進路選択に関する情報提供などを通じて、子どもの健全な発達を多角的に支援します。特に思春期の児童・生徒に対しては、自立に向けた視覚活用スキルの習得と心理的サポートを両立させた指導が求められます。