リソソームとオートファジーの関係と役割

リソソームとオートファジー

この記事の重要ポイント
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オートファジーの基本機構

細胞質成分をリソソームで分解する自己消化システム

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リソソームとの融合過程

オートファゴソームとリソソームが融合してオートリソソームを形成

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疾患との関連性

神経変性疾患やがんなど様々な病態に深く関与

リソソームによるオートファジーの分解機構

オートファジーは、細胞内の成分をリソソームに運んで分解する真核生物に広く保存された細胞内システムです。リソソーム内部はpH5前後の酸性環境に保たれており、約60種類の加水分解酵素が存在します。これらの酵素には、プロテアーゼ、グリコシダーゼ、リパーゼ、ホスファターゼ、ヌクレアーゼなどが含まれ、生体高分子をアミノ酸、糖、核酸などの構成単位にまで分解できます。

参考)https://resou.osaka-u.ac.jp/ja/research/2022/20220915_2


オートファジーの過程では、まず細胞質の一部が隔離膜(ファゴフォア)と呼ばれる扁平な膜小胞に囲まれます。この隔離膜が伸長・弯曲しながら細胞質成分を取り囲み、最終的に閉じることで二重膜構造を持つオートファゴソームが形成されます。完成したオートファゴソームの外膜はリソソーム膜と融合し、オートリソソームと呼ばれる構造になります。この融合過程において、SNARE タンパク質ファミリーに属するSyntaxin 17がオートファゴソーム外膜に局在し、膜融合を引き起こす重要な役割を果たしています。

参考)https://molbiolut.jp/ja/research/forexperts/


オートリソソーム内では、リソソームが持つ酸性加水分解酵素によってオートファゴソームの内膜とともに内容物が完全に分解されます。分解で生じたアミノ酸などの代謝産物は細胞内で再利用され、細胞の恒常性維持やエネルギー産生に貢献します。

参考)Journal of Japanese Biochemica…

リソソームオートファジーの種類と特徴

オートファジーには主に3つの種類が存在し、それぞれリソソームへの基質輸送方法が異なります。最も主要なマクロオートファジーは、二重膜構造のオートファゴソームが細胞内容物やオルガネラを取り込み、リソソームと融合して内容物を分解する経路です。この過程は約1μmの領域をランダムに包み込むため、基質は主に非選択的に隔離・分解されますが、一部の基質は選択的に取り込まれることも知られています。

参考)オートファジー – 脳科学辞典


ミクロオートファジーは、リソソーム膜が直接陥入して細胞質の物質を取り込む経路です。この方式では、オートファゴソームの形成を経ずに、リソソーム膜が直接細胞質のカーゴと融合します。シャペロン介在性オートファジーでは、細胞質内のシャペロンタンパク質が標的タンパク質をリソソームへ直接輸送する機構が働きます。

参考)オートファジーとは – 吉森研究室


マクロオートファジーの中でも、損傷したミトコンドリアを選択的に分解するマイトファジーや、損傷を受けたリソソーム自体を除去するリソファジーなど、特定の基質を認識して選択的に分解する様々な形態が報告されています。これらの選択的オートファジーは、細胞の品質管理において極めて重要な役割を担っています。

参考)https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC10807193/

mTORによるリソソームオートファジー制御

mTOR(mechanistic target of rapamycin)は、オートファジーの主要な制御因子として機能するタンパク質リン酸化酵素です。栄養が豊富な状態では、mTORC1(mTOR複合体1)が活性化され、オートファジーの開始複合体であるULK複合体をリン酸化することでオートファジーを負に制御しています。

参考)mTORによるオートファジー制御 (細胞工学 31巻12号)…


一方、飢餓状態や栄養欠乏時には、mTORC1が不活化されることによってオートファジーが誘導されます。ULK複合体(哺乳類ではULK-Atg13-FIP200-Atg101で構成)は、mTORから外れることで活性化し、小胞体膜上に局在化します。このULK複合体の活性化により、下流のクラスIII PI3キナーゼ複合体(Beclin1-Atg14-Vps15-Vps34で構成)が小胞体膜上へ移動し、ホスファチジルイノシトール3-リン酸(PI(3)P)を産生します。

参考)新学術領域研究「修飾シグナル病」岡田雅人


PI(3)Pの産生は、オートファゴソームの前駆体である隔離膜の形成に必須であり、PI(3)P結合タンパク質であるWIPIなどのオートファゴソーム形成起点への局在化を促進します。インスリン刺激などによって活性化されるAkt経路を介してもmTORC1は活性化され、細胞の栄養状態とエネルギーバランスに応じてオートファジーを精密に調節しています。​

リソソームオートファジーと神経変性疾患

オートファジーの異常は、パーキンソン病アルツハイマー病筋萎縮性側索硬化症(ALS)などの神経変性疾患と深い関連があることが明らかになっています。神経細胞では、オートファジーによるタンパク質分解が常時行われることで異常タンパク質の蓄積が防がれ、神経細胞の健全性が維持されています。実際に、人工的にオートファジーが起こらないようにした神経細胞では、これらの神経難病で見られるのと類似した異常な蛋白凝集が観察されます。

参考)研究実績


脳内鉄沈着神経変性症(SENDA)は、オートファジー開始障害による疾患として知られており、新規オートファジーの変調が神経変性疾患の原因となることが報告されています。東京医科歯科大学の研究グループは、従来型のAtg5やAtg7に依存しない第二のオートファジー機構を発見し、その実行分子を脳特異的に欠損させたマウスでは神経変性が生じることを明らかにしました。

参考)「新規オートファジーの変調は神経変性疾患の原因となる」【清水…


神経軸索中で活性化されたオートファジーは、神経傷害後の変化において重要な役割を果たします。GSK3Bを介したMCL1のリン酸化が軸索オートファジーを調節し、ワーラー変性を促進することが解明されており、オートファジーが神経の変性を促進する仕組みの一端が明らかになっています。これらの基礎研究の成果は、オートファジーを標的とした神経変性疾患の新規治療法開発への応用が期待されています。

参考)https://jkpum.com/wp-content/themes/kpu-journal/assets/pdf/131-2-03%E7%89%B9%E9%9B%86%E6%B8%A1%E9%82%8A%E5%85%88%E7%94%9F.pdf


<参考リンク>大阪大学によるリソソーム損傷の認識と除去機構の詳細な解説
https://resou.osaka-u.ac.jp/ja/research/2022/20220915_2

リソソームの生合成とオートファジー後の膜再生

オートファジーが持続的に機能するためには、リソソームの恒常性維持が不可欠です。オートファゴソームとリソソームの融合によってオートリソソームが形成された後、リソソームの再生成が必要になります。この過程は「オートファジックリソソーム再形成(ALR: Autophagic Lysosome Reformation)」と呼ばれ、過去10年間で大きな進展がありました。

参考)https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC10240999/


リソソームの生合成は、リソソーム内の酵素と膜タンパク質の合成から始まります。リソソーム酵素は小胞体で合成された後、マンノース-6-リン酸修飾を受け、トランスゴルジ網からリソソームへ輸送されます。この輸送過程における異常は、リソソーム病と呼ばれる遺伝性代謝疾患を引き起こすことが知られています。

参考)Journal of Japanese Biochemica…


オートファジー完了後のリソソーム再生成は、細胞がオートファジーを継続的に実行する能力を保証する重要なプロセスです。リソソームの数と機能が適切に維持されなければ、オートファジーは進行できず、細胞の恒常性維持や疾患防御機能が損なわれます。最近の研究では、試験管内でオートファジーの初期過程を再現することに成功し、タンパク質液滴が酵素反応を促進してオートファゴソームの種となる膜小胞を集める仕組みが解明されています。

参考)試験管内でオートファジーの初期過程を再現することに成功


このように、リソソームとオートファジーの相互作用は、細胞の生存、栄養応答、疾患予防において中心的な役割を果たしており、その分子機構の解明は医療応用への重要な基盤となっています。

参考)https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC9119670/