リポタンパク質の種類
カイロミクロンの特徴
カイロミクロンは最も比重が軽く(0.95g/ml以下)、直径100nm以上の大きな粒子です 。食事から摂取された脂質を小腸から肝臓へ運搬する外因性脂質輸送の主役を担います 。構成成分の約90%が中性脂肪で占められ、コレステロールはわずかにしか含まれていません 。
参考)リポタンパク質
小腸上皮細胞の滑面小胞体で形成されたカイロミクロンは、リンパ管を経由して血液循環に入ります 。血液中では、脂肪組織や筋肉の毛細血管内皮に存在するリポタンパク質リパーゼ(LPL)の作用により中性脂肪が分解され、遊離脂肪酸とグリセロールが末梢組織に供給されます 。
参考)https://www.pharm.or.jp/words/word00598.html
この過程でカイロミクロンは段階的に小さくなり、最終的にカイロミクロンレムナントとして肝臓に取り込まれます 。カイロミクロンの構造維持タンパク質はアポB-48であり、これが小腸特有のリポタンパク質であることを示しています 。
VLDLの代謝と機能
超低比重リポタンパク質(VLDL)は肝臓で合成される内因性リポタンパク質で、高濃度の中性脂肪(約50%以上)と中等量のコレステロールを含んでいます 。VLDLの主要な機能は、肝臓で合成された脂質を末梢組織に輸送することです 。
VLDLも血液中でリポタンパク質リパーゼの作用を受け、中性脂肪が分解されて末梢組織にエネルギーを供給します 。この分解過程において、VLDLは段階的に小さくなり、中性脂肪の割合が減少してコレステロールの割合が増加します 。
参考)脂質異常症|麻布十番内科ブリッジヒルクリニック|LDL HD…
最新の研究では、VLDLに結合したリポタンパク質リパーゼがヘパリンとの結合により活性化されることが明らかになっています 。この活性化により、VLDLは時間をかけてIDLやLDL、さらにはHDLサイズの粒子に段階的に変換されることが判明しています 。
参考)https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC8595799/
IDLとLDLの変換機構
中間比重リポタンパク質(IDL)は、VLDLやカイロミクロンがリポタンパク質リパーゼで分解される過程で生成される中間代謝産物です 。IDLでは中性脂肪の割合が約40%まで減少し、コレステロールが約35%を占めるようになります 。
IDLは肝性トリグリセリドリパーゼ(HTGL)の作用により、アポB-100を保持したままLDLへと迅速に変換されます 。この変換過程は、アポリポタンパク質Eの存在下で促進されます 。
低比重リポタンパク質(LDL)は、VLDLとIDLの最終代謝産物であり、全リポタンパク質中で最もコレステロールに富んでいます(構成成分の約60%)。LDLの主要な機能は、末梢細胞にコレステロールを供給することです 。LDLは構成タンパク質であるアポB-100をリガンドとして、LDLレセプターにより肝臓や末梢組織に取り込まれます 。
参考)高脂血症について(2)
HDLの逆転送機能
高比重リポタンパク質(HDL)は、肝臓や小腸で合成される最も小さく密度の高いリポタンパク質です 。HDLは構成成分の約半分がタンパク質で占められ、コレステロールは約35%、中性脂肪は約15%程度と、他のリポタンパク質とは大きく異なる組成を示します 。
参考)https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC11004979/
HDLの最も重要な機能は、コレステロール逆転送系(RCT: Reverse Cholesterol Transport)です 。これは末梢組織の細胞から過剰なコレステロールを回収し、肝臓に運んでリサイクルする機構です 。
参考)https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC7699323/
HDLの主要構成タンパク質であるアポリポタンパク質A-I(アポA-I)は、レシチンコレステロールアシルトランスフェラーゼ(LCAT)の活性化作用を有します 。LCATによりHDL表面の遊離コレステロールがエステル化され、HDL粒子内部に蓄積されることで、継続的にコレステロールを回収できます 。
参考)https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC3253707/
興味深いことに、HDLは集めたコレステロールを直接肝臓に運ぶだけでなく、コレステロールエステル転送タンパク質(CETP)を介してVLDLやカイロミクロンにコレステロールを転送し、これらのリポタンパク質に代わりに肝臓への輸送を任せることもあります 。
参考)コレステリルエステル転送蛋白(CETP) (検査と技術 21…
リポタンパク質の病態生理学的意義
リポタンパク質の異常は動脈硬化性疾患の主要な危険因子となります。特に動脈硬化惹起性リポタンパク質として、酸化LDL、糖化LDL、small dense LDL、レムナントリポタンパク質、リポタンパク質(a)などが注目されています 。
参考)https://www.jstage.jst.go.jp/article/naika/108/9/108_1685/_pdf
Small dense LDLは通常のLDLと比較して、血管壁透過性が高く、酸化されやすい特徴を持ちます 。粒子内の抗酸化ビタミン含有量が少なく、化学的酸化反応の進行が早いため、動脈硬化の主因である酸化LDLの原料となりやすい性質があります 。
参考)https://www.jstage.jst.go.jp/article/shinzo/43/4/43_444/_pdf
リポタンパク質(a) [Lp(a)]は、LDL様粒子にアポリポタンパク質(a)が結合した構造を持ち、遺伝的に決定される独立した心血管疾患危険因子です 。Lp(a)は酸化リン脂質の運搬体として機能し、血管炎症、動脈硬化病変の進行、血栓形成を促進することが明らかになっています 。
参考)https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC9918959/
最新の研究では、リポタンパク質関連酵素に対する自己抗体も注目されています。抗リポタンパク質リパーゼ抗体は、冠動脈疾患患者のプラーク脆弱性マーカーとしての有用性が報告されています 。また、マクロファージのM2cサブタイプにおけるリゾホスファチジルグルコシド/GPR55シグナル経路が泡沫細胞形成を促進することも発見されており、動脈硬化の分子機構解明が進んでいます 。