リオナ錠とコーヒーの相互作用
リオナ錠の特徴と鉄吸収メカニズム
リオナ錠(クエン酸第二鉄水和物)は、慢性腎臓病患者における高リン血症治療薬として開発され、その後鉄欠乏性貧血の適応も追加された薬剤です。本剤の最大の特徴は、食事直後の服用により食事中のリンと結合して安定した複合体を形成し、胃や小腸などの消化管に到達する点にあります。この作用機序により、遊離鉄による消化管の刺激が少なく、悪心嘔吐などの消化器症状が従来の鉄剤と比較して軽減されることが知られています。
参考)鉄欠乏性貧血の治療薬、クエン酸第2鉄水和物「リオナ®錠」
クエン酸第二鉄は、消化管内で徐々に鉄を放出する特性を持ち、空腹時および食直後のいずれの投与方法においても血清鉄濃度の上昇が認められます。食直後単回投与では、投与4.0時間後に血清鉄濃度がピークに達し、投与24時間後には投与前値付近まで低下することが報告されています。
鉄の吸収は主に十二指腸および近端小腸で行われ、二価金属イオン転運蛋白1(DMT-1)を介して行われます。リオナ錠は、この生理学的な鉄吸収機構を利用しながら、消化管への刺激を最小限に抑える設計となっています。
コーヒー・緑茶に含まれるタンニンの影響
コーヒーや緑茶に含まれるタンニン(カテキン)は、鉄イオンと結合して難溶性の複合体を形成し、鉄の腸管吸収を阻害する可能性が指摘されています。粉末10gを熱湯150mLで浸出したコーヒーには約250mgのタンニンが含まれており、緑茶特に玉露においてはさらに高濃度のタンニンが含まれています。
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タンニンによる鉄吸収阻害の主なメカニズムは、タンニンが鉄と結合することで、鉄が腸管上皮細胞に取り込まれにくくなることです。特に植物性食品由来の非ヘム鉄はこの影響を受けやすく、動物性食品由来のヘム鉄は比較的影響を受けにくいとされています。
参考)サジーのフィネス
ただし、鳥居薬品の公式見解では「お茶やコーヒーで鉄剤を服用することは禁止されていませんが、推奨もされていないため、避けたほうが望ましい」という立場をとっています。これは、タンニンの影響が完全に明確化されていないことと、患者の服薬アドヒアランスを考慮した現実的な対応を示したものと考えられます。
リオナ錠服用時の推奨タイミングと飲料選択
リオナ錠の鉄欠乏性貧血に対する用法・用量は、通常成人にクエン酸第二鉄として1回500mg(250mg錠2錠)を1日1回食直後に経口投与し、効果不十分な場合は1回500mgを1日2回まで増量可能です。食直後投与が推奨される理由は、食事中のリンと結合することで最大薬効が発揮されると考えられているためです。
服薬時の飲料としては、水またはぬるま湯での服用が最も推奨されます。コーヒーや濃い緑茶、紅茶などのタンニンを多く含む飲料は、鉄の吸収を妨げる可能性があるため避けるべきです。一方、タンニン含有量の少ない麦茶やほうじ茶、薄めの緑茶であれば問題ないとされています。
医療従事者として患者指導を行う際は、食後30分~1時間程度経ってからコーヒーや緑茶を楽しむよう助言することで、鉄吸収への影響を最小限にしながら、患者のQOLを維持することが可能です。また、牛乳やカルシウム・マグネシウムを含む飲料・サプリメントも鉄剤との同時服用は避けるよう指導する必要があります。
リオナ錠の副作用と消化器症状への対策
リオナ錠の主な副作用は消化器症状であり、臨床試験では下痢が最も高頻度(約12~19%)に報告されています。その他、悪心(約10%)、便秘(約3~11%)、腹部不快感、嘔吐などが報告されています。これらの副作用は従来の鉄剤と比較すると発現率が低く、特に胃痛や嘔吐といった上部消化管症状が少ないことが特徴です。
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下痢が生じた場合、1日1錠(250mg)に減量することで改善することが多いと報告されています。また、リオナ錠は食直後の服用により遊離鉄による消化管刺激が少ないため、空腹時に服用した場合と比較して消化器症状の発現が抑えられます。
患者が「過去に鉄剤を服用した時に胃痛や便秘、下痢がひどかった」という既往がある場合、リオナ錠への変更により症状が改善する可能性が高く、医療従事者としては積極的に治療選択肢として提示することが推奨されます。服薬指導時には、大きめの錠剤であることを説明し、のどに錠剤がひっかからないよう十分な水で服用することを指導する必要があります。
参考)http://www.interq.or.jp/ox/dwm/se/se21/se2190033.html
他剤との相互作用と服薬指導上の注意点
リオナ錠は、キノロン系抗菌薬(レボフロキサシン、シプロキサシン等)やテトラサイクリン系抗生物質との併用により、これらの抗菌薬の腸管吸収を妨げる相互作用が報告されています。これは、鉄イオンがカルシウムと同様に難溶性の塩を生成し、抗生物質の吸収を抑制するためです。併用する場合には、リオナ錠服用後2時間以上間隔をあけるなどの注意が必要です。
参考)https://pins.japic.or.jp/pdf/newPINS/00070924.pdf
また、甲状腺治療薬のレボチロキシン(チラーヂン)との併用も注意が必要であり、吸収抑制により効果が減弱する可能性があります。赤血球造血刺激因子製剤(ESA製剤)との併用では過剰造血のリスクがあり、鉄イオン含有製剤との併用では鉄過剰症を引き起こす可能性があるため、慎重な投与が求められます。
参考)リオナ錠250mg – 基本情報(用法用量、効能・効果、副作…
リオナ錠は高リン血症治療薬としても使用されるため、他のリン吸着剤との併用や、CYP3A誘導剤との相互作用についても理解しておく必要があります。特に慢性腎臓病患者では複数の薬剤を併用していることが多いため、薬剤師による綿密な服薬指導と相互作用チェックが重要です。
継続服薬の重要性と貯蔵鉄回復までの期間
鉄欠乏性貧血の治療では、ヘモグロビン値の改善だけでなく、貯蔵鉄(フェリチン)の正常化まで治療を継続することが極めて重要です。リオナ錠による治療では、1~2週間で自覚症状の改善が見られることが多く、約3ヶ月でヘモグロビン値が正常化しますが、完治のためには貯蔵鉄を増やす必要があり、さらに約3ヶ月、合計約6ヶ月間の服用継続が推奨されます。
患者が自覚症状の改善により自己判断で服薬を中止してしまうケースが少なくないため、医療従事者は「症状がよくなっても医師の指示があるまで服用を続ける必要がある」ことを明確に説明する必要があります。フェリチン値のモニタリングを行い、治療終了の適切なタイミングを判断することが重要です。
また、鉄欠乏性貧血の原因疾患への対応も並行して行う必要があります。月経過多、消化管出血、妊娠・授乳による鉄需要増加など、鉄欠乏の原因を特定し、原因に対する治療や生活指導を行うことで、再発を防ぐことができます。医療従事者は、単に鉄剤を処方するだけでなく、原因の特定と包括的な治療アプローチを提供することが求められます。
参考)https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC8515119/
鳥居薬品リオナよくあるご質問:コーヒー・お茶との飲み合わせに関する公式見解
リオナ錠の食事の影響と血清鉄濃度推移の詳細データ
ファーマスタイルWEB:鉄欠乏性貧血を知る – リオナ錠の作用機序と他剤との比較
ファーマシスタ:鉄欠乏性貧血と治療薬・服薬指導のポイント

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