利尿剤一覧と特徴
利尿剤は腎臓の異なる部位に作用し、体内の余分な水分や塩分を尿として排出させる薬剤群です。浮腫性疾患の治療において中心的な役割を果たしており、作用機序により5つの主要カテゴリーに分類されます。
利尿剤ループ系の作用機序と特徴
ループ利尿薬は、ヘンレループの太い上行脚に存在するNa-K-2Cl輸送系(NKCC2)を阻害することで強力な利尿効果を発揮します。この分類に含まれる主要薬剤は以下の通りです。
先発医薬品
後発医薬品
- フロセミド
- アゾセミド
- トラセミド
フロセミドは最も汎用される薬剤で、経口薬と静注薬の両剤型が利用可能です。経口投与では服用から1時間以内に効果が現れ、約6時間持続します。静注薬は急性心不全や重篤な浮腫において20mg/回から開始し、効果に応じて80mg/回まで増量可能です。
ブメタニドは経口薬・静注薬ともに利用でき、静注では1mgを投与します。トラセミドは本邦では経口薬のみが承認されており、アゾセミドは長時間作用型として位置づけられています。
主要な副作用
うっ血性心不全では利尿効果を発する閾値が増加し、最大効果も低下するため、しばしば静注が必要となり投与量も多くする必要があります。
利尿剤サイアザイド系の効果と使い方
サイアザイド系およびサイアザイド系類似利尿薬は、ループ利尿薬よりも遠位部の遠位尿細管におけるNaCl共輸送体(NCC)を阻害して利尿効果を発揮します。利尿作用はループ利尿薬と比べてマイルドですが、持続時間が12-24時間と長いことが特徴です。
サイアザイド系薬剤
- トリクロルメチアジド
- ヒドロクロロチアジド
サイアザイド系類似薬剤
- インダパミド
- トリパミド
- メフルシド
これらの薬剤は経口摂取による吸収が良好で、蛋白と結合して運搬され、近位尿細管から排泄されます。半減期はGFRの低下および高齢で延長し、利尿効果は減弱する傾向があります。
食塩感受性高血圧症に良好な適応となっており、降圧作用が強いため血圧改善効果も期待できます。しかし、浮腫性疾患に対しては単独で使用されることは少なく、通常はループ利尿薬との併用で用いられます。
理論的にはGFRを低下させるため、通常はステージG3以降では投与しませんが、難治性の浮腫でループ利尿薬の効果が減じている場合、サイアザイドの併用が有効な場合があります。
主要な副作用
低用量で使用する限り副作用の頻度は低く、もし副作用が発生した場合は薬剤中止または減量により速やかに改善することがほとんどです。
利尿剤カリウム保持性の副作用対策
カリウム保持性利尿薬は、ミネラルコルチコイド受容体アンタゴニストとNaチャネル遮断薬に分類され、いずれも遠位部ネフロンに作用します。他の利尿薬と異なり、K+排泄や酸排泄を促進せず、Ca2+、Mg2+排泄も増加させない特徴があります。
主要薬剤
スピロノラクトンは集合管のアルドステロン受容体においてアルドステロンと拮抗し、アルドステロンによるNa+再吸収を抑制します。肝硬変による腹水治療では第一選択薬として位置づけられ、左室収縮能不全による心不全にも神経内分泌学的改善効果を示します。
アミロライドはアルドステロンとは無関係にNa+チャネルを直接阻害し、Na+排泄で管腔内のマイナス電荷が減少することで二次的にK+排泄が減少します。
肝硬変の治療プロトコール
AASLDガイドラインでは以下の投与法が推奨されています。
- 軽症例:スピロノラクトン25-50mg/日から開始
- 重症例:フロセミド40mg + スピロノラクトン100mgから開始
- 最高用量:フロセミド160mg + スピロノラクトン400mgまで併用可能
副作用と注意点
利尿作用は他の利尿剤と比べて緩やかですが、カリウムの排出を抑えるため低カリウム血症のリスクが著しく低く、急激な利尿作用がないため外出先でも安心して服用できる利点があります。
利尿剤トルバプタンの独自機序
トルバプタン(サムスカ®)は、バソプレシンV2受容体選択的アンタゴニストとして2010年以降、本邦でも「その他の利尿薬が効果的でない体液貯留を伴う心不全と肝硬変」に適応されています。
集合管のV2受容体を選択的に拮抗し、水チャネルAQP2の誘導を阻害して水再吸収を選択的に抑制します。他の利尿薬と根本的に異なる点は、水を選択的に排泄促進し、電解質の尿中喪失が少ないことです。
投与法と適応
作用の特徴
- 自由水利尿による血清Na濃度の改善
- 電解質バランスへの影響が最小限
- 発現時間:0-2時間
- 持続時間:12-24時間
急性心不全では、カルペリチド(0.1~0.2μg/kg/分)との併用も検討されます。低Na血症がある場合はトルバプタンの良い適応となりますが、高Na血症に注意が必要です。
重要な副作用
- 脱水症状と電解質異常
- 肝機能障害
- 口渇感や多尿
- 頭痛やめまい
水利尿作用が強いため、排出される尿量が著しく増加し、体内の水分と電解質が不足して脱水症状を起こす可能性があります。めまい、倦怠感、筋力低下などが見られた場合は医師への相談が必要です。
利尿剤選択の臨床判断基準
臨床現場での利尿剤選択は、患者の病態、腎機能、電解質バランス、併存疾患を総合的に評価して決定する必要があります。以下に主要な判断基準を示します。
病態別選択基準
急性心不全
腎機能による投与調整
GFR低下に伴い利尿薬の効果は減弱するため、腎機能に応じた投与量調整が必要です。特にサイアザイド系は理論的にGFRを低下させるため、通常ステージG3以降では慎重投与となります。
電解質モニタリング
利尿薬開始・増量時には2週間を目安とした血液検査が推奨されます。特に以下の項目の監視が重要です。
併用療法の考慮
単剤で効果不十分な場合、作用機序の異なる利尿薬の併用が有効です。ループ利尿薬とサイアザイド系の併用、またはカリウム保持性利尿薬との組み合わせにより、相乗効果と副作用軽減を図ることができます。
利尿薬治療における成功の鍵は、患者個々の病態に応じた適切な薬剤選択と、継続的なモニタリングによる安全性の確保にあります。