臨床試験費用と参加者負担軽減
臨床試験費用の全体構造と企業負担
臨床試験の実施には莫大な費用が必要で、特に医薬品の治験では1試験あたり平均4億円規模に達します 。企業治験における費用構造は、治験依頼者(製薬企業)が主要な医療費を負担する仕組みとなっています 。
企業治験では、治験薬投与期間中の以下の費用が治験依頼者の負担となります。
- 全ての検査料、画像診断料(治験と無関係の疾病も含む)
- 治験薬と同種同効薬の投薬・注射費用
- 治験薬そのもの
一方で、基本診療料(初診料・再診料)、処置料、手術料、治験薬と同種同効でない投薬・注射については、従来通り保険給付と患者負担の組み合わせとなります 。
参考)治験に係る保険外併用療養費(その1)|シミックヘルスケア・イ…
臨床試験実施機関への費用算定とポイント制
治験実施医療機関への費用算定は、各施設によって大きなばらつきがあることが問題となっています 。同じ治験実施計画書を用いた場合でも、症例単価は最大4.6倍の差が生じており、適正化が課題となっています。
参考)https://www.jpma.or.jp/information/evaluation/results/allotment/lofurc0000005kl5-att/fmv.pdf
東京科学大学病院の例では、以下のような費用算定基準が設けられています :
参考)費用算定・請求について
- 治験等準備費用:50,000円/実施計画書
- 審査費用:200,000円/実施計画書
- 治験実施研究費:6,000円×研究費ポイント数×登録症例数
- 治験実施支援費用:12,500円×契約月数×登録症例数×支援人数
多くの医療機関では、6,000円を基準単価とした研究費ポイント制を採用しており、治験の複雑さや検査項目数に応じてポイントが設定されます 。
参考)https://www.tmd-ac.jp/download/info201711.pdf
臨床試験参加者への負担軽減費制度
治験参加者には「負担軽減費」が支給される制度があります 。これは治験参加に伴う物心両面の種々の負担を勘案し、社会的常識の範囲内で被験者の負担を軽減する目的で導入されました。
参考)https://www.efpia.jp/link/Compensation_for_cooperating_in_a_clinical_trial.pdf
負担軽減費の相場は以下の通りです :
参考)治験の負担軽減費について
- 事前健診:2,000~3,000円程度
- 通院1回:7,000~10,000円
- 入院:1泊10,000~20,000円程度
国立病院・療養所では「当面、7,000円を標準とする」との指針が示されており 、多くの医療機関でこの金額を基準に設定しています。支払い方法は一括または分割、手渡しまたは振込から選択され、治験の種類や施設によって異なります。
臨床試験における医師主導治験の費用構造
医師主導治験では企業治験とは異なる費用構造となります。がん領域の医師主導治験では、15症例・10施設規模で総額約1億8,700万円が必要とされています 。
参考)https://www.env.go.jp/council/content/05hoken04/000083651.pdf
主な費用内訳は以下の通りです。
- 治験調整事務局:63,940,000円
- モニタリング業務:42,060,000円
- データマネジメント:17,030,000円
- 統計解析:12,240,000円
- 研究費(90万円/例):13,500,000円
CRO(医薬品開発業務受託機関)への委託費用が全体の約6割を占めており、これには治験計画立案支援、データマネジメント、安全性情報管理、統計解析、監査、総括報告書作成などが含まれます 。
参考)なぜ基礎研究から治験終了まで3億円もかかるのか?|NIPPカ…
臨床試験費用の国際比較と効率化への取り組み
日本の治験費用は国際的に見て高額とされており、1症例あたりの費用は海外と比較して割高な傾向があります 。医療機器治験では、国内の1症例あたり平均1,260万円に対し、海外では960万円となっており、日本の治験規模の割には費用が高い状況です。
費用適正化に向けて、製薬協では Fair Market Value(FMV)に基づいたベンチマーク型コスト算定の導入を提案しています 。これは国際標準に基づく適正な費用算定方法で、治験の業務内容に応じた明確なプロセスでの算定・請求を目指しています。
また、タスクベース型の費用算定を導入する当事者が増えることで、日本の実態をより適切に反映した費用設定が可能になると期待されています 。治験費用の透明化と適正化は、日本における臨床研究の推進にとって重要な課題となっています。