レテルモビル作用機序とターミナーゼ阻害
レテルモビルは骨髄毒性が少ないという理由で選択しても、薬物相互作用で併用薬の血中濃度が数倍に上昇するリスクがあります。
レテルモビルのCMV増殖サイクルへの作用点
レテルモビルはサイトメガロウイルス(CMV)の増殖サイクルにおいて、DNA複製よりも後期の段階に作用します。CMVが宿主細胞に感染すると、ウイルスDNAの複製と転写が進行し、複製されたDNAは連結した長いコンカテマー構造を形成します。msdconnect+2
このコンカテマーDNAを一単位長のゲノムサイズに切断し、カプシド(ウイルス外殻の内部構造)に格納する役割を担うのが、UL56、UL89、UL51などのサブユニットから構成されるDNAターミナーゼ複合体です。レテルモビルはこのターミナーゼ複合体を選択的に阻害することで、DNAのパッケージングを妨げ、成熟したウイルス粒子の産生を停止させます。passmed.co+2
つまりDNA複製そのものではなく、その後の組み立て工程を標的にする点が特徴です。
参考)https://www.jstage.jst.go.jp/article/fpj/153/4/153_192/_pdf
感染後57時間までの添加で増殖がほぼ完全に阻害される一方、それ以降の添加では効果が急激に減弱することから、1複製サイクル後期に限定的に作用することが実験的に確認されています。
レテルモビルとガンシクロビルの作用機序の違い
既存の抗CMV薬であるガンシクロビルやバルガンシクロビルは、ウイルスのDNAポリメラーゼを阻害してDNA複製自体を停止させます。これに対しレテルモビルはDNA複製や転写には影響せず、複製後のDNA切断とパッケージング段階のみを阻害します。jstage.jst.go+2
作用点が異なるため、既存のDNAポリメラーゼ阻害薬に耐性を示すCMV株に対してもレテルモビルは活性を保持します。
交差耐性が認められない点は重要です。
pmda.go+1
DNAポリメラーゼ阻害薬は感染後33時間までの添加で効果が高く、その後経時的に減弱するのに対し、レテルモビルは感染後57時間まで効果が維持されます。これはガンシクロビルが複製サイクルの早期に、レテルモビルが後期に作用することを示しています。
作用時期が異なることで、併用療法の可能性や既存薬無効例への代替手段としての価値が生まれます。
レテルモビルの選択毒性と副作用プロファイル
DNAターミナーゼはCMVを含むヘルペスウイルス科に特異的な酵素であり、ヒト細胞には存在しません。そのためレテルモビルはヒト細胞に対する毒性が低く、選択的に抗ウイルス作用を発揮します。
参考)https://passmed.co.jp/di/archives/220
既存の抗CMV薬で問題となる骨髄抑制(好中球減少など)や腎毒性のリスクが大幅に低減されています。同種造血幹細胞移植(allo-HSCT)後の患者を対象とした第III相国際共同試験では、骨髄毒性及び腎毒性を示唆する傾向は認められず、忍容性が良好でした。cir.nii.ac+2
細胞培養系でのCMV臨床分離株に対する50%作用濃度(EC50)はナノモル濃度であり、低濃度で抗ウイルス活性を示します。一方で、CMV以外の主要な病原ウイルス(他のヘルペスウイルス科を含む)に対しては活性を示さず、高い選択性を有します。cir.nii.ac+1
ただし注意すべき点があります。レテルモビルはCYP3Aの時間依存的阻害作用、OATP1B1/3やP-糖蛋白の阻害作用を有するため、併用薬の血中濃度が上昇し副作用が増強される可能性があります。pins.japic.or+1
レテルモビル耐性変異とUL56遺伝子の役割
レテルモビルに対する耐性は、主にターミナーゼ複合体のサブユニットであるUL56遺伝子の変異によって生じます。臨床試験や実臨床で報告されている主な耐性変異には、UL56のV236M、C325Y、C325Wなどがあります。pmc.ncbi.nlm.nih+1
これらの変異はアミノ酸230~370番付近の「レテルモビル耐性関連領域」に集中しており、高度耐性を付与します。例えば急性骨髄性白貧患者での移植後、プレドニゾロン投与による免疫抑制強化中にウイルス量が41万コピー/mLまで増加し、UL56 C325Y変異が検出された症例が報告されています。pmc.ncbi.nlm.nih+1
耐性変異はUL56領域の変異のみでレテルモビル耐性化に必要十分であり、この事実はレテルモビルの作用点がDNAターミナーゼであることの直接的証拠となっています。第III相試験では、予防失敗例28例のうち2例でUL56 V236MまたはC325W変異が確認されました。pmc.ncbi.nlm.nih+1
長期の低レベルウイルス血症が持続する状況では、耐性ウイルスが選択される可能性が高まります。プレドニゾロンなどの追加免疫抑制剤投与時は特に注意が必要です。
参考)https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC6328044/
レテルモビル投与時の薬物相互作用管理の実際
レテルモビルは複数の薬物代謝酵素とトランスポーターに影響を与えるため、併用薬との相互作用を慎重に評価する必要があります。レテルモビル自体はOATP1B1/3、P-gp、UGT1A1/3の基質であり、これらの阻害薬と併用すると血中濃度が上昇します。
参考)https://pins.japic.or.jp/pdf/newPINS/00071656.pdf
逆にレテルモビルはCYP3Aの時間依存的阻害、BCRP及びOATP1B1/3の阻害作用を有するため、これらの経路で代謝・輸送される薬剤の血中濃度を上昇させます。タクロリムスやシクロスポリンなどの免疫抑制剤は特に注意が必要です。pins.japic+1
さらにレテルモビルはCYP2C9及びCYP2C19の誘導作用も有するため、これらの酵素で代謝される薬剤の血中濃度が低下する可能性があります。
臓器移植患者では腎移植以外の肝移植・心移植などでも、作用機序と薬物動態から同様の有効性が期待されています。ただし複数の免疫抑制剤や抗真菌薬などを併用することが多いため、投与前に薬物相互作用を確認し、必要に応じて併用薬の用量調整やモニタリング強化を行うことが推奨されます。
参考)抗サイトメガロウイルス化学療法剤「プレバイミス®錠240mg…
添付文書及び相互作用データベースを参照し、個別に対応することが不可欠です。
レテルモビルのターミナーゼ複合体阻害メカニズムとCMV複製サイクルへの影響が図解されています。
in vitro・in vivo抗ウイルス作用、耐性ウイルスの発現、臨床試験成績が学術的に解説されています。