レセプト特記事項と負担区分の記載ルール
レセプト特記事項の役割と医療費負担との関連性
レセプト特記事項は、診療報酬請求書における患者の医療費負担に関する重要な情報を記載するための欄です。特に70歳以上の外来患者に対するレセプト作成では、特記事項の記入が法令により必須とされており、この記載漏れが発生すると保険者側での審査処理が滞る可能性があります。
レセプトの特記事項欄には、患者の所得区分を示す区分コード、公費負担医療の適用状況、高額長期疾病の該当有無、さらには先進医療の実施などといった、診療報酬の適切な計算に必要な情報が記載されます。これらの情報が正確に記載されていないと、保険者は患者の自己負担額を適切に判定できず、患者本人への請求額の計算誤りにつながるため、医療機関と保険者の双方に負担をかけることになります。
保険者側では、レセプト電算データの記載内容に基づいて診療報酬の支払額を決定するため、特記事項の記載は医療機関の診療報酬収入に直結する非常に重要な業務となっています。
後期高齢者医療制度における特記事項コード体系の全体像
後期高齢者医療制度に基づく特記事項コード体系は、患者の所得階級に応じて複数の区分コードに分かれており、2022年10月の診療報酬改定以降、コード体系が大きく変更されました。特に「一般所得者」の区分において、負担割合2割と1割の区別が導入され、従来の単一コード制から負担割合別の複数コード制へと移行しました。
現役並み所得者層では「26区ア」「27区イ」「28区ウ」が引き続き用いられ、「26区ア」は標準報酬月額83万円以上の患者に適用されます。一般所得者層では、令和4年10月診療分以降、負担割合2割患者には「41区カ」が、負担割合1割患者には「42区キ」が適用されるようになりました。これは従来の「29区エ」が廃止され、2つの新しいコードに置き換わったことを意味しており、レセプト作成担当者は患者の具体的な負担割合を確認した上で、適切なコードを選択する必要があります。
低所得者層では「30区オ」が継続して使用され、入院患者を含む全診療で記載が必要です。このように複雑に分岐したコード体系への対応は、医療事務職における実務知識の向上が欠かせない要素となっており、誤ったコード選択による査定のリスクが増大しています。
患者負担区分コードの詳細内容と記載ケーススタディ
後期高齢者医療制度の患者負担区分コード「26区ア」から「42区キ」までの詳細内容は、患者の標準報酬月額および課税所得金額に基づいて決定されます。「26区ア」は標準報酬月額83万円以上(現役並みⅢ)の患者に該当し、医療費の自己負担割合は3割となります。この層の患者は限度額適用認定証を提示しない場合に該当し、自己負担限度額は最も高く設定されます。
「27区イ」は標準報酬月額53万円~79万円の患者(現役並みⅡ)を対象とし、同じく3割負担ですが、自己負担限度額は「26区ア」より低くなります。「28区ウ」は標準報酬月額28万円~50万円の患者(現役並みⅠ)に適用され、この層も3割負担です。これら3つのコードは「現役並み所得者」として総括されます。
一般所得者層において、「41区カ」は負担割合2割患者を、「42区キ」は負担割合1割患者を示します。「41区カ」に該当する患者の自己負担限度額は月額18,000円を基本としていますが、「後期高齢2割の患者負担配慮措置」の対象となる場合は、「6,000円+(医療費-30,000円)×0.1」という特別な計算式が適用される場合があります。このように計算方法そのものが異なるケースもあり、医療事務職は単にコードを記載するだけでなく、その背景にある自己負担額の計算ルールまで理解しておくことが求められます。
特定疾患における多数回該当と特記事項「43多カ」「44多キ」の記載
難病法による特定医療および特定疾患治療研究事業に係る公費負担医療において、患者が直近12ヶ月間に4回以上の高額療養費支給を受けた場合、特定疾病給付対象療養高額療養費多数回該当が適用されます。この多数回該当に該当した場合、レセプトの特記事項には「31多ア」「32多イ」「33多ウ」「34多エ」といった従来のコードに代わり、2022年10月診療分以降は「43多カ」「44多キ」といった新しいコードが適用されるようになりました。
特記事項「43多カ」は、負担割合2割の患者が多数回該当要件を満たした場合に記載され、特記事項「44多キ」は、負担割合1割の患者が多数回該当要件を満たした場合に記載されます。これらのコードは入院患者に限定され、外来患者には適用されません。多数回該当の判定は、患者登録時に「保険番号958『特疾4回目』」や「保険番号945『肝治4回目』」といった公費登録がなされているかどうかで自動判断されるシステムになっており、レセプトコンピューターの設定が適切になされていることが重要です。
医療機関では、多数回該当に該当する患者について、レセプト作成時にこれらの新しいコードが自動記載される仕組みを確認し、設定の齟齬がないかを定期的に検証する必要があります。
配慮措置と特記事項「02長」に関する特殊な記載ルール
後期高齢2割患者に対する患者負担配慮措置が2022年10月から導入され、この制度の適用に伴い新たな特記事項記載ルールが発生しました。配慮措置は、後期高齢2割負担患者について、外来診療における自己負担額を一定水準に抑えるための制度であり、請求点数が3,000点以下の場合は高額療養費が発生しないため、レセプト保険欄の一部負担金欄に記載をしません。
しかし、配慮措置に関して後期高齢2割患者がマル長(保険番号972、高額長期疾病の略)を併用した保険組み合わせで算定した場合、請求点数の2割計算額がマル長の月上限額(通常は10,000円)以下であっても、特記事項欄に「02長」を記載する必要があります。この規定は、配慮措置の対象外となる患者を保険者側で識別するためのものであり、通常の高額長期疾病患者とは異なる特殊な記載ルールです。
実務上、この「02長」の記載漏れが頻繁に発生しており、保険者側からの返戻件数が増加しています。医療機関では、患者の保険組み合わせを事前に確認し、マル長との併用がある場合には配慮措置適用の有無を判定してから、適切に「02長」を記載するシステムを構築する必要があります。
公費負担医療と特記事項「01公」「13先進」の併記要件
公費負担医療制度の対象患者がレセプトに記載される場合、患者の個別状況に応じた複数の特記事項を同時に記載することが求められます。最も一般的なのは「01公」(公費負担医療の費用が規定を超える場合)であり、限度額適用認定証を提示した患者と公費受給者証の両者が対象となる場合があります。
特定医療費受給者証や特定疾患医療受給者証の提示があった場合、医療機関は患者の所得階級を把握し、「一般」「多エ」といった適用区分別のコードを記載する必要があります。例えば、70歳以上で標準報酬月額26万円以下(国民健康保険では課税所得145万円未満)の世帯に属する患者が特定医療費受給者証(適用区分Ⅲ)を提示した場合、特記事項に「一般」と記載します。一方、同じ所得階級であっても難病法による特定医療または特定疾患治療研究事業に係る入院診療で、直近12ヶ月間の高額療養費支給が4月目以上である場合には、「多エ」(または新しいコード「43多カ」「44多キ」)を記載することになります。
先進医療に関しては、特記事項「13先進」の記載が求められ、保険診療と先進医療を併行実施している患者のレセプトでは、診療内容の明確な区分が必須となります。これらの複数の特記事項を正確に組み合わせて記載することは、医療事務職の高度な実務知識を要する業務領域です。