レム睡眠行動障害の症状と診断
レム睡眠行動障害の主要症状
レム睡眠行動障害(RBD)は、レム睡眠中に通常生じる筋弛緩が起こらず、夢の内容に応じて体が動いてしまう睡眠障害なんです。脳幹の神経核障害が原因とされ、50歳以降に発症することが多いとされています。
参考)REM睡眠行動障害 (れむすいみんこうどうしょうがい)とは
典型的な症状として、激しい寝言や叫び声、殴る・蹴るといった暴力的行動が挙げられます。患者さんは「襲われる」「喧嘩をする」など攻撃的で物騒な夢を見ることが多く、その内容と異常行動が一致するのが特徴です。起き上がって歩き出したり、ベッドから転落してケガをするケースも報告されています。
参考)レム睡眠行動障害チェック|淀川区(大阪市)の十三メンタルクリ…
済生会のREM睡眠行動障害の解説では、慢性硬膜下血腫の原因になることもあると注意喚起されています。
注目すべき点として、女性患者では男性に比べて攻撃的動作が目立たない傾向があり、ぶつぶつと寝言を言う程度のこともあるんです。また、覚醒すると症状が消失するため、覚醒のタイミングによって異常行動の記憶の有無が変わります。
参考)レム睡眠行動障害外来 – 筑波大学 神経内科(脳神経内科)筑…
レム睡眠行動障害の鑑別診断と検査方法
確定診断にはビデオ監視下での終夜睡眠ポリグラフィ検査(PSG)が必須となります。この検査では、レム睡眠中のオトガイ筋や四肢筋において筋電図の上昇が認められ、筋肉が弛緩していないことを確認します。
レム睡眠の27%を超えてRWA(REM sleep without atonia)が出現する場合、レム睡眠行動障害の可能性が高いとされています。脳科学辞典のレム睡眠行動異常症の解説によると、RBD screening questionnaire(RBDSQ)という質問紙票も開発されており、日本語版はカットオフ4.5点で感度89%、特異度98%の精度を持っているそうです。
鑑別が必要な疾患として、睡眠時無呼吸症候群、夜驚症、睡眠時遊行症、睡眠時てんかんなどが挙げられます。睡眠時無呼吸症候群ではレム期の呼吸イベントからの覚醒後にRBD様の異常行動を呈することがあり、診断には注意が必要なんです。
参考)https://www.neurology-jp.org/Journal/public_pdf/057020063.pdf
補助検査として、嗅覚検査やMIBG心筋シンチグラフィなどの心臓交感神経系検査も有用とされています。これらの検査で異常が認められる場合、パーキンソン病やレビー小体型認知症への進行に特に注意が必要です。
参考)臨床研究 – 筑波大学 神経内科(脳神経内科)筑波大学 神経…
レム睡眠行動障害とパーキンソン病の関連性
レム睡眠行動障害は、パーキンソン病の前駆症状として医学界で注目されているんです。筑波大学附属病院のレム睡眠行動障害外来の情報によると、RBD患者の50%が10年以内にパーキンソン病に移行し、最終的には81-90%が神経変性疾患に進展すると報告されています。
50歳以上のRBD患者を対象にした調査では、約38%が平均12.7年でパーキンソン病を発症したというデータもあります。このメカニズムとして、レム睡眠誘導神経細胞の減少が関与していることが明らかになってきました。
参考)レム睡眠を誘導する神経回路を解明し「夢を演じる病」の原因を特…
2024年10月にAMEDが発表した研究によれば、パーキンソン病を併発したRBD患者の死後脳では、橋のレム睡眠誘導神経細胞が激減し、凝集αシヌクレインという異常タンパク質を蓄積していたそうです。AMEDのプレスリリースでは、この発見がパーキンソン病の予防・治療法開発につながる可能性が示唆されています。
非運動症状として、便秘、嗅覚障害、レム睡眠行動障害は運動症状の発現前または発症後早期から見られます。RBD患者では、運動症状が出ていない段階でも、腸管の自律神経系や青斑核の機能低下が認められることが報告されているんです。
レム睡眠行動障害の治療選択肢
薬物療法としては、クロナゼパムが第一選択薬となっており、9割近くの患者で症状改善が得られると報告されています。クロナゼパムは抗けいれん薬に分類され、レム睡眠を抑制したり筋肉の緊張を緩める作用があるんです。
参考)レム睡眠行動障害について|名古屋駅の心療内科|ひだまりこころ…
ただし、眠気やふらつきなどの副作用に注意が必要で、睡眠時無呼吸症候群がある場合には無呼吸が重症化するリスクもあります。クロナゼパムが使用できない場合の代替薬として、プラミペキソール塩酸塩水和物、メラトニン、漢方薬の抑肝散などが選択されます。
名古屋駅の心療内科クリニックの解説では、薬物療法と生活習慣の改善や精神療法を併用するとより効果的だと述べられています。
環境調整も重要な治療の一環です。ケガ予防のため、ベッドの周りに物を置かない、窓や階段からベッドを離す、ベッドの高さを低くする、畳に布団を敷くといった工夫が推奨されています。症状が安定するまでパートナーに別室で就寝してもらうことも検討すべきでしょう。
飲酒が症状に影響することも知られており、節酒や禁酒で行動が目立たなくなるケースがあります。また、抗うつ薬の服用がRBDの出現に関与することもあるため、処方医と相談の上で薬剤の漸減・中止を検討することも必要です。
医療従事者が知るべき看護観察ポイント
看護・介護場面での観察ポイントとして、睡眠パターンの把握が最も重要です。全く眠らないのか、浅い睡眠を繰り返すのか、深く眠る時間帯があるのかを観察する必要があります。
国立病院機構菊池病院のケアのポイントによれば、RBD発作時には電気をつけて部屋を明るくしたり、懐中電灯を顔に当てたり、目覚まし時計を鳴らして覚醒を促すことが推奨されています。ただし、悪夢と現実が混同して混乱が増大する場合があるため、体をゆすって急に起こさないよう注意が必要なんです。
参考)ケアのポイント – 独立行政法人国立病院機構 菊池病院
転落・転倒予防として、ベッド柵の取り付けが考えられますが、手足をぶつけてケガをするリスクもあるため、ベッド柵にカバーやクッションをつける工夫が求められます。周囲に危険なものを置かないことも基本的な安全対策です。
昼夜リズムの調整も看護介入の重要なポイントです。日中に活動できる環境を整え、長時間の昼寝を避け、本人の好きな趣味や熱中できるものを生活に取り入れることが推奨されています。デイサービスなどの利用も有効な選択肢となります。
レビー小体型認知症患者では症状の動揺があるため、しっかりしているときとボーッとしているときの状態把握が大切です。状態が悪いときはあまり働きかけをせず見守り、夕方から夜にかけて悪化しやすいため安心できる声かけを心がけることが求められます。
観察項目 | 具体的内容 | 注意点 | |
---|---|---|---|
睡眠パターン | 入眠時間、覚醒回数、深睡眠の時間帯 | 個人差が大きいため長期観察が必要 | |
異常行動の特徴 | 寝言の内容、暴力的動作の有無、夢との一致 | ビデオ記録が診断に有用 | |
覚醒時の状態 | 覚醒の容易さ、夢の記憶の有無 | すんなり目覚めるのがRBDの特徴 | |
ケガの有無 | 転落、打撲、他者への危害 | 起立性低血圧 | パーキンソン病の前駆症状の可能性 |
質問紙票としてRBD1Qという単一質問「睡眠中に夢の中の行動を実演していると言われたり自分で疑ったことがありますか」は、感度94%、特異度87%でスクリーニングに役立ちます。医療従事者が家族からの情報収集を行う際の有用なツールとなるでしょう。