酪酸と短鎖脂肪酸
酪酸を含む短鎖脂肪酸の種類と特徴
短鎖脂肪酸は、炭素数が6個以下の脂肪酸の総称であり、油脂を構成する成分の一つです。複数の炭素が鎖のように連なった化学構造をしており、人の腸内で腸内細菌によって産生される主要なものには3種類があります。
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最も多く産生されるのは炭素が2つの「酢酸」で、短鎖脂肪酸全体の約60%を占めています。次いで炭素が3つの「プロピオン酸」が20~30%、炭素が4つの「酪酸」が約10~20%の割合で産生されます。これらの短鎖脂肪酸は、それぞれが異なる働きを持ち、私たちの健康維持に重要な役割を果たしています。
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短鎖脂肪酸は、食物繊維やオリゴ糖などの大腸で消化しにくい難消化性炭水化物を摂取したときに、腸内で善玉菌によって分解される際に生み出されます。特にレジスタントスターチ(でん粉性の食物繊維)は酪酸を比較的多く作る傾向があり、一方でフラクトオリゴ糖は酢酸を多く作る傾向があることがわかっています。
酪酸の腸内環境における役割
酪酸は大腸上皮細胞の主要なエネルギー源であり、大腸が正常に機能するために欠かせない物質です。大腸の粘膜上皮細胞の代謝を促進し、酸素を消費することで大腸内をビフィズス菌などの善玉菌が住みやすい環境に整えます。
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さらに酪酸には、腸内の粘液の産生を促進させて、大腸の分厚い粘液層(大腸バリア)が保たれるのを助ける重要な役割があります。この粘液層は、有害な菌や物質から腸を守るバリア機能を担っており、腸の健康維持に不可欠です。
酪酸を産生する酪酸菌は、自ら酪酸を作り出すだけでなく、乳酸菌が作った乳酸を利用して酪酸を産生することもできます。このように、腸内では様々な善玉菌が協力し合いながら、短鎖脂肪酸の産生を通じて腸内環境を整えているのです。
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酪酸と他の短鎖脂肪酸の健康効果の違い
酢酸、プロピオン酸、酪酸という3種類の主要な短鎖脂肪酸は、それぞれ異なる健康効果を持っています。酢酸は約60%が産生され、約15%が大腸上皮細胞でエネルギー源となり、残りの半分ずつが肝臓と末梢組織における脂肪合成の基質として利用されます。
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プロピオン酸は短鎖脂肪酸全体の2~3割を占め、およそ半分が大腸上皮細胞でエネルギー源となり、残り半分は肝臓において糖新生に利用され、血糖値の調整に役立つことが特徴です。研究では、肥満のヒトにプロピオン酸を投与すると、体重や脂肪重量の増加が有意に抑えられたという報告があります。
酪酸は、アレルギーや炎症といった過剰な免疫反応を抑える「制御性T細胞」という免疫細胞を増やすことに加え、長寿に影響することも報告されています。また、酪酸には免疫応答を抑制する細胞を増やしたり、炎症の原因となる物質の産生を抑制する働きがあり、これらの作用は腸だけでなく全身の免疫細胞に影響を及ぼします。
参考)短鎖脂肪酸普及協会
酪酸の免疫調整と炎症抑制効果
酪酸は免疫システムにおいて重要な調整役を担っています。近年の研究により、短鎖脂肪酸には免疫細胞であるマスト細胞のはたらきを調節し、アレルギー反応を抑制する機能があることが明らかになりました。特に酪酸は、免疫応答を抑制する制御性T細胞を増やす作用があり、過剰な免疫反応を防ぐ役割を果たしています。
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さらに、酪酸には炎症性物質の産生を抑制する働きもあります。動物実験では、βヒドロキシ酪酸(酪酸の一種)に抗うつ作用があることが発見され、ストレス時の脳内の炎症性物質インターロイキン-1βの増加を抑えることが示されました。これは、酪酸が炎症を抑える作用を通じて、脳の健康にも寄与する可能性を示唆しています。
日本人を対象とした2023年の研究では、酪酸の産生に関わる腸内細菌(アリスティペス、ブラウティア、コプロコッカス、ドレア、フィーカリバクテリウム、オシリバクター)がうつ病患者で少ないことが示され、腸内フローラが酪酸産生を介して宿主のうつ病状態に影響を与える可能性が指摘されています。このように、酪酸は腸と脳をつなぐ「腸脳相関」においても重要な役割を担っていると考えられています。
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酪酸を増やすための食生活と腸内細菌の育て方
酪酸を含む短鎖脂肪酸を増やすためには、腸内細菌のエサとなる食物繊維やオリゴ糖を十分に摂取することが重要です。食物繊維の中でも、レジスタントスターチ(難消化性でん粉)は酪酸を比較的多く産生する傾向があります。レジスタントスターチは、冷やしたご飯や芋類、豆類などに多く含まれています。
発酵食品の摂取も効果的です。ヨーグルト、乳酸菌飲料、納豆、漬物、味噌といった発酵食品には乳酸菌や酪酸菌が含まれており、これらの善玉菌が腸内で短鎖脂肪酸の産生を促進します。特に酪酸菌は、自ら酪酸を産生するだけでなく、乳酸菌が作った乳酸を利用して酪酸を作ることもできるため、発酵食品と食物繊維を組み合わせて摂取することが推奨されます。
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具体的な食材としては、以下のものが効果的です。
✅ 食物繊維が豊富な食品:野菜、果物、海藻類、きのこ類、豆類、全粒穀物
✅ レジスタントスターチを含む食品:冷やしたご飯、じゃがいも、バナナ、オートミール
✅ 発酵食品:納豆、味噌、ぬか漬け、キムチ、ヨーグルト
✅ オリゴ糖を含む食品:玉ねぎ、ごぼう、バナナ、大豆製品
これらの食品をバランスよく日々の食事に取り入れることで、腸内細菌の多様性が高まり、酪酸をはじめとする短鎖脂肪酸の産生が促進されます。また、これらの栄養素を含む食品を継続的に摂取することで、腸内環境が改善され、全身の健康維持につながると考えられています。
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