ラコール エンシュア違い と 特徴
経腸栄養剤は、様々な理由で通常の食事摂取が困難な患者さんにとって重要な栄養補給手段です。特に医療現場でよく使用されるラコールとエンシュアは、それぞれ特徴的な性質を持っており、患者さんの状態に合わせた選択が求められます。
両製品とも半消化態栄養剤に分類され、消化管を通して効率的に栄養を摂取できるよう設計されています。消化吸収が容易で、バランスの取れた栄養素配合が特徴です。経口摂取が困難な方や、手術後の栄養管理、消化吸収障害のある患者さんなど、幅広いケースで使用されています。
医薬品として薬価収載されているため、医師の処方箋があれば保険適用となり、患者さんの経済的負担を軽減できるのも大きなメリットです。ただし、単なる栄養補助目的での使用は保険適用外となる場合があるため、適応には注意が必要です。
ラコールとエンシュアの栄養成分比較
ラコールとエンシュアの最も大きな違いは、栄養素のバランスにあります。
【三大栄養素の比率(カロリー比)】
製品名 | 炭水化物 | タンパク質 | 脂質 |
---|---|---|---|
ラコールNF | 62.0% | 18.0% | 20.0% |
エンシュア・リキッド | 54.5% | 14.0% | 31.5% |
この比較から明らかなように、ラコールは脂質の割合が低く、炭水化物とタンパク質の比率が高めに設定されています。これは日本人の伝統的な食事パターンに近い栄養バランスとなっており、日本人患者に適していると言えるでしょう。
また、タンパク質の供給源にも違いがあります。ラコールは植物性タンパク質の比率が高めに設計されており、これも大豆製品などの植物性タンパク質摂取が多い日本人の食習慣に合わせた特徴です。
エンシュアは脂質の割合が比較的高く設定されており、欧米型の食事パターンに近い栄養バランスとなっています。高エネルギー密度が必要な患者さんや、脂質の消化吸収に問題がない患者さんに適しているでしょう。
ラコールとエンシュアの形状と容量の違い
両製品は提供形態と容量にも違いがあります。
【形状と容量の比較】
製品名 | 容器タイプ | 1本あたりの容量 | 1本あたりのカロリー | 薬価(2025年3月現在) |
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ラコールNF | パウチ(アルミ袋) | 200mL | 200kcal | 約146円 |
エンシュア・リキッド | 缶 | 250mL | 250kcal | 約135円 |
ラコールはパウチタイプの容器を採用しており、軽量でかさばらないため持ち運びや保管に便利です。特に在宅医療の現場では、この点が高く評価されています。一方、エンシュアは缶タイプで、やや重量感がありますが、安定性に優れています。
容量とカロリーの面では、エンシュアの方が1本あたりのカロリー量が多くなっています。しかし、カロリー単価で見るとラコールの方がやや高めです。患者さんの必要カロリー量や経済的な面も考慮して選択することが重要です。
また、ラコールには経腸用液体タイプの他に半固形剤もラインナップされており、胃食道逆流のリスクがある患者さんや、嚥下機能に問題がある患者さんに対して選択肢が広がります。
ラコールとエンシュアの微量栄養素と特殊成分
近年の栄養学の発展により、微量栄養素の重要性が再認識されています。この点においても両製品には違いがあります。
従来のエンシュア・リキッドには、セレン、クロム、モリブデンといった微量元素が含まれていませんでした。長期間の使用では、これらの微量元素の欠乏が懸念されることがあります。
一方、ラコールNFにはセレンが含まれていますが、クロムやモリブデンは含まれていません。これらの微量元素は以下のような重要な役割を担っています:
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セレン:抗酸化作用を持つグルタチオンペルオキシダーゼの補酵素として機能し、免疫機能の維持に重要です。欠乏すると爪の白色化や変形、筋肉痛などが現れることがあります。
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クロム:糖代謝に関与し、インスリンの働きを助ける役割があります。欠乏すると糖代謝異常を引き起こす可能性があります。
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モリブデン:キサンチンオキシダーゼなどの補酵素として機能します。欠乏すると頻脈、頻呼吸、頭痛などの症状が現れることがあります。
長期的な栄養管理が必要な患者さんでは、これらの微量元素の補給も考慮する必要があります。最近では、エネーボやイノラスといった新しい経腸栄養剤にはこれらの微量元素が含まれているため、長期使用が予想される場合はこれらの製品への切り替えも検討する価値があるでしょう。
ラコールとエンシュアの味と飲みやすさの比較
経口摂取が可能な患者さんにとって、栄養剤の味と飲みやすさは継続的な摂取を左右する重要な要素です。
ラコールNFは、ミルク、コーヒー、バナナ、コーン、抹茶の5種類のフレーバーがあり、バリエーションが豊富です。特に抹茶フレーバーは日本人の嗜好に合わせた特徴的な選択肢となっています。
一方、エンシュア・リキッドは、バニラ、コーヒー、ストロベリーの3種類のフレーバーが基本ラインナップです。エンシュアHというハイカロリータイプ(1.5kcal/mL)には、より多くの味のバリエーションがあります。
味の好みは個人差が大きいですが、一般的にラコールは脂質含有量が少ないため、口当たりがさっぱりしていると感じる方が多いようです。エンシュアは脂質含有量が多いため、まろやかで濃厚な味わいが特徴です。
また、水分含有量はどちらも約75〜85%程度ですが、粘度にはやや違いがあります。エンシュア・リキッドの粘度は約9mPa.s、ラコールNFは約6mPa.sと、ラコールの方がやや粘度が低く液体に近い性質を持っています。このため、経管栄養でのチューブ詰まりのリスクはラコールの方が低いと言えるでしょう。
ラコールとエンシュアの臨床的使い分けのポイント
臨床現場では、患者さんの状態や目的に応じて適切な栄養剤を選択することが重要です。以下に、両製品の使い分けのポイントをまとめます。
【ラコールが適している患者さん】
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日本人の食事パターンに近い栄養バランスを望む場合
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脂質の消化吸収に問題がある患者さん
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脂質制限が必要な肝疾患や胆道疾患の患者さん
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植物性タンパク質の割合が高い食事に慣れている患者さん
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経管栄養でチューブ詰まりのリスクを減らしたい場合
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持ち運びや保管のしやすさを重視する在宅患者さん
【エンシュアが適している患者さん】
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高エネルギー密度を必要とする患者さん
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脂質の消化吸収に問題がない患者さん
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コスト効率を重視する場合(カロリー単価が比較的安価)
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濃厚でまろやかな味わいを好む患者さん
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安定した容器形状を好む患者さん
また、長期的な栄養管理が必要な患者さんでは、微量栄養素の補給も考慮する必要があります。従来のラコールやエンシュアでは不足する可能性のある微量元素(セレン、クロム、モリブデン)については、最新の経腸栄養剤であるエネーボやイノラスへの切り替えや、サプリメントでの補給を検討することも一案です。
これらの特徴を理解し、患者さん一人ひとりの状態や嗜好、生活環境に合わせた最適な栄養剤を選択することが、栄養管理の成功につながります。
経腸栄養剤の選択は、単に栄養素の配合だけでなく、患者さんのQOL(生活の質)にも大きく影響します。特に在宅医療の現場では、患者さんやご家族が使いやすく、継続的に摂取できる製品を選ぶことが重要です。医療従事者は、これらの製品特性を十分に理解し、患者さんに最適な選択をサポートすることが求められています。
ラコールとエンシュアの最新の製品展開と今後の動向
経腸栄養剤市場は常に進化しており、両メーカーとも製品の改良や新製品の開発を続けています。
ラコールを製造・販売するEN大塚製薬は、近年「イノラス配合経腸用液」という新製品を発売しました。イノラスは1.6kcal/mLという高濃度設計で、少量で効率的にカロリー摂取が可能な製品です。また、セレン、クロム、モリブデンといった微量元素も含有しており、長期栄養管理における微量栄養素の欠乏リスクに対応しています。さらに、2020年8月にはコーヒーフレーバーといちごフレーバーも追加され、味のバリエーションも充実してきています。
一方、エンシュアを製造・販売するアボット社も「エネーボ配合経腸用液」を発売しています。エネーボは1.2kcal/mLの濃度で、微量栄養素を強化した製品です。特に、従来のエンシュアでは含まれていなかったセレン、クロム、モリブデンを含有している点が特徴的です。
これらの新製品は、従来のラコールやエンシュアの弱点を補完する形で開発されており、栄養管理の選択肢を広げています。特に長期的な栄養管理が必要な患者さんでは、これらの新製品への切り替えも検討する価値があるでしょう。
また、近年の傾向として、半固形タイプの経腸栄養剤の需要が増加しています。ラコールNF半固形剤はこの需要に応える製品で、特に胃食道逆流のリスクがある患者さんや、嚥下機能に問題がある患者さんに適しています。
今後は、さらに個別化された栄養管理のニーズに応える製品開発が進むと予想されます。例えば、特定の疾患や状態に特化した栄養組成の製品や、より飲みやすく、使いやすい剤形の開発などが期待されています。
医療従事者は、これらの新しい製品情報を常にアップデートし、患者さんに最適な栄養管理を提供できるよう努めることが重要です。
経腸栄養剤の種類と特徴に関する詳細な解説(チクバ外科・胃腸科・肛門科病院NSTによる資料)
ラコールとエンシュアの水分バランスと浸透圧への影響
栄養剤の選択において、水分バランスと浸透圧は重要な考慮点です。特に脱水リスクのある高齢患者さんや、腎機能に問題がある患者さんでは注意が必要です。
ラコールとエンシュアはともに水分含有量が約75〜85%と高く、基本的な水分補給源としても機能します。しかし、高カロリータイプの製品(エンシュアHやイノラスなど)では水分含有量が相対的に少なくなるため、追加の水分補給が必要になる場合があります。
浸透圧についても両製品には違いがあります。浸透圧が高すぎると、消化管への負担が増加し、下痢などの消化器症状を引き起こすリスクが高まります。一般的に、ラコールの方がエンシュアよりも浸透圧がやや低い傾向にあり、消化管への負担が少ないとされています。
特に注意が必要なのは、高濃度タイプの栄養剤です。例えば、イノラスの浸透圧は約670