プロテアソームとプロテアーゼの違い

プロテアソームとプロテアーゼの違い

プロテアソームとプロテアーゼの基本的な違い
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構造の複雑性

プロテアソームは巨大な多分子複合体、プロテアーゼは単一の酵素

分解機能

プロテアソームは特定基質を選択的分解、プロテアーゼは広範囲の切断

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制御システム

プロテアソームはユビキチン依存性、プロテアーゼは各種シグナル依存性

プロテアソームの構造と分子機構

プロテアソームは真核細胞に必須の巨大タンパク質複合体で、分子量約2.5MDaの26Sプロテアソームが代表的です。この構造は触媒ユニットである20Sプロテアソーム(コアパーティクル)と調節ユニットである19Sプロテアソーム(レギュラトリーパーティクル)から構成されています。
参考)https://www.jstage.jst.go.jp/article/biophys/55/1/55_019/_pdf
26Sプロテアソームは約66個のサブユニットで構成される複雑な構造を持ち、20Sコアパーティクルは筒状構造で内部にプロテアーゼ活性を有しています。また、20Sプロテアソームはα・βの二種類のサブユニットから構成され、αββαの順に筒状に積み重なった特殊な構造を持ちます。この構造的複雑性により、プロテアソームは単なる分解酵素を超えた高度な制御システムとして機能しています。
参考)プロテアソーム – 脳科学辞典

プロテアーゼの分類と特性

プロテアーゼは、その作用機序によってセリンプロテアーゼ、システインプロテアーゼ、アスパルテートプロテアーゼ、メタロプロテアーゼの4つの主要なグループに分類されます。セリンプロテアーゼはセリン残基を活性中心に含み、トリプシンやキモトリプシンなどの消化酵素が代表例です。システインプロテアーゼはシステイン残基が活性に関与し、アポトーシスに関わるカスパーゼなどが知られています。
各プロテアーゼは特定のペプチド結合を認識して作用する特異性を持っており、消化、血液凝固、免疫反応など多くの生物学的機能に関与しています。プロテアーゼはタンパク質のペプチド結合を加水分解により切断する酵素の総称で、比較的小さな分子量を持つ単一の酵素として機能します。
参考)化粧品用語集

プロテアソームのユビキチン依存性分解システム

プロテアソームの最大の特徴は、ユビキチン化されたタンパク質を選択的に認識・分解する高度に制御されたシステムです。ユビキチンは76個のアミノ酸からなる小さなタンパク質で、分解されるべき基質タンパク質に付加される「分解の目印」として機能します。
参考)https://www.cellsignal.jp/pathways/ubiquitin-proteasome-pathway
このシステムでは、E1(ユビキチン活性化酵素)、E2(ユビキチン結合酵素)、E3(ユビキチンリガーゼ)の3種類の酵素が協調的に働き、基質タンパク質をポリユビキチン化します。その後、26Sプロテアソームがポリユビキチン化された基質を認識し、ATP依存的に基質を展開して20Sコアパーティクル内で小さなペプチドに分解します。
参考)研究内容|東京大学 医科学研究所 基礎医科学部門 タンパク質…

プロテアーゼとプロテアソームの分解機構の相違点

プロテアーゼとプロテアソームでは、分解メカニズムに根本的な違いがあります。プロテアーゼは基質タンパク質の特定のペプチド結合部位を切断し、比較的大きな断片を生成しますが、プロテアソームは基質を完全に小さなペプチド(2-25アミノ酸長)に分解します。
参考)https://numon.pdbj.org/mom/166?l=ja
プロテアーゼの場合、その活性は基質の構造や周辺環境に依存し、セリンプロテアーゼではセリン残基の側鎖ヒドロキシ基が基質アミド結合のカルボニル基を求核攻撃することで分解が進行します。一方、プロテアソームでは中心のスレオニン残基がペプチド結合の加水分解における求電子剤として機能し、筒状構造の内部という保護された環境で分解が行われます。

プロテアソームとプロテアーゼの医療応用における独自の特徴

医療分野では、プロテアーゼ阻害剤が高血圧、糖尿病血栓症、白血病の治療に幅広く用いられており、病原体の増殖抑制や体内代謝の正常化に重要な役割を果たしています。特に、癌・感染症・アレルギーに対するプロテアーゼ標的治療法の開発が進められており、癌細胞や病原菌由来のプロテアーゼを特異的に阻害する薬剤の開発が注目されています。
参考)熊本大学研究シーズ集-href=”https://kico.kumamoto-u.ac.jp/seeds/files/204/print.html” target=”_blank” rel=”noopener”>https://kico.kumamoto-u.ac.jp/seeds/files/204/print.htmlgt;癌・感染症・アレルギーに対するプロテ…
一方、プロテアソーム系では、免疫プロテアソームという特殊な形態が存在します。これは通常のプロテアソームと異なり、ウイルス感染時に活性化され、ウイルスタンパク質を分解して主要組織適合性複合体(MHC)による抗原提示を促進します。また、プロテアソーム阻害剤は癌治療薬として臨床応用されており、癌細胞の異常なタンパク質分解を標的とした治療戦略が確立されています。
参考)https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC5350610/