プレコーディアルキャッチ症候群 症状と診断

プレコーディアルキャッチ症候群の症状を理解する

突然起こる鋭い胸痛

安静時に突然発症する、指で指し示せる限局的な胸痛

🫁

深呼吸による症状悪化

息を吸った時に痛みが増強する特徴的なパターン

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短時間で消失する痛み

30秒~3分程度で自然に治まることが多い

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若年層に多い発症

6~12歳を中心に、35歳以下の小児・青年で見られる

プレコーディアルキャッチ症候群の症状と特徴

プレコーディアルキャッチ症候群における典型的な胸痛の特徴

プレコーディアルキャッチ症候群(Precordial Catch Syndrome、以下PCS)は、医療従事者の間でもあまり知られていない疾患ですが、実は小児の胸痛の8~9割を占めるとも言われています。この疾患の最大の特徴は、何の前触れもなく突然起こる胸部の痛みです。患者は苦しさのあまり胸を掴むような動作をすることから「キャッチ」という名称が付けられました。

PCSの胸痛は非常に鋭く、刺されるような、あるいは焼けるような性質を持っています。痛みの程度はさまざまですが、患者が感じる主観的な痛みの強さは相当なものであることが多く、親や周囲の人々を大いに心配させることがあります。しかし医学的には良性疾患であり、心臓そのものの問題ではないという点が重要です。

痛みの部位は左前胸部の乳頭周囲に最も多く見られますが、側胸部や右前胸部に生じることもあります。特に限局的であることが診断の重要な手掛かりとなります。患者は通常、指1~2本で痛みの位置を正確に示すことができます。これは痛みが広範囲に及ぶ他の疾患との重要な区別点です。

プレコーディアルキャッチ症候群の症状における呼吸との関連性

呼吸がPCS症状に大きく影響することは、この疾患を診断する上で最も重要な臨床的特徴の一つです。患者が深く吸い込むと、胸痛は明らかに悪化します。この現象は息を吸う動作により肋間筋や胸壁が伸展されることと関連していると考えられており、呼吸性の痛みの増減は他の重篤な疾患を除外するための重要な判別材料になります。

興味深いことに、患者が姿勢を伸ばしたり、身体を後ろに仰け反らせたり、背中をしっかり立てたりすると、痛みは急速に軽快または消失することが多いです。逆に、背中を丸めた前かがみの姿勢では症状が出現しやすいという報告もあります。この姿勢依存性は、症状が筋骨格系に由来する可能性を強く示唆しています。

多くの症例では、患者は自分で特定の姿勢変更や身体の動きによって痛みを制御できることに気づきます。これは心臓疾患による胸痛とは異なる、PCSの特徴的な側面です。

プレコーディアルキャッチ症候群の症状の発症パターンと持続時間

PCS症状は通常、安静時に起こることが多いという特徴があります。むしろ激しい運動中や睡眠中には起こりにくいという点で、心筋梗塞や狭心症などの虚血性心疾患と大きく異なります。これは運動負荷試験で陰性になる理由の一つでもあります。症状は全く予告なく発症し、患者は突然の痛みで動きが止まることがあります。

痛みの持続時間は通常30秒から3分程度で、自然に消失することが大多数です。しかし医療者が注意すべき点として、稀に30分以上続くケースも報告されており、持続時間だけで診断を確定するべきではありません。多くの患者は、痛みが最初の数回の呼吸で治ったと報告する一方、別の患者ではより長く続くこともあります。

症状の頻度に関しても個人差があり、数日に1回程度の患者もいれば、数週間から数か月経って初めて再発する患者もいます。症状は何度も繰り返すこともあれば、一度限りで終わることもあります。

プレコーディアルキャッチ症候群で認められない症状と警告兆候

PCSの診断において非常に重要なのは、胸痛以外に症状がないということです。発熱、息切れ、動悸、不整脈の自覚、失神、嘔吐、黒色便などの症状は全く見られません。患者は痛み以外は全く普通の状態であり、元気があり、意識も清明です。

もし以下のような症状が伴う場合は、PCSではなく別の重篤な疾患の可能性があります。顔色が悪い、呼吸困難である、意識障害がある、脈拍が異常に速い、胸痛が激烈で患者が動けない状態になっている、なども警告兆候となります。また、胸痛が数分以上続く、痛みが複数回発作的に繰り返すといったパターンもPCSの典型的な経過とは異なる可能性があります。

症状が30分以上持続したり、胸痛が年齢とともに頻繁になったり、運動時に一貫して起こるようになった場合は、医師の再評価が必要です。

プレコーディアルキャッチ症候群の症状と患者背景の関連性

PCSは6~12歳に最も多く見られますが、報告によっては35歳以下のより広い年齢層に起こることが知られています。特に青年期の若い女性に多いとする報告もあり、性差に関する議論がなされています。しかし男女同等に罹患するとする報告も多く、性別による有意な差は確実ではありません。

心理的ストレスや不安がPCSの発症に関与する可能性も指摘されています。学校のテスト前や心理的負荷が高い時期に症状が出現または悪化したと報告する患者も見受けられます。ただし、この関連性が直接的な因果関係なのか、単なる患者の主観的な認識なのかは明確ではありません。

興味深い点として、PCSの患者は症状が存在することで極度の不安に陥り、心筋梗塞や生命に関わる疾患ではないかという恐怖を抱くことが多いです。特に若い患者やその保護者は「死の予感」を感じることもあり、これが患者の心理状態に大きく影響します。心臓疾患ではないという医学的確認が、患者の精神的安定にとって重要な役割を果たします。

プレコーディアルキャッチ症候群の症状診断における除外診断の重要性

PCSの診断は純粋に症状の特徴に基づく臨床診断ですが、より重要なのは危険な疾患を除外することです。心電図検査は最初に実施されるべき検査であり、狭心症、心筋梗塞、不整脈といった心電図異常を検出することができます。胸部レントゲン検査では肺炎、気胸、胸膜炎などの肺疾患を除外できます。

血液検査では、炎症マーカーやトロポニンなどの心筋マーカーを測定することで、心筋損傷の有無を判定できます。小児では不必要な血液検査を避けるべきですが、患者の年齢や臨床的危険性に応じて適切に判断する必要があります。

特に家族に若年での心筋梗塞や突然死の既往がある患者、川崎病などの基礎疾患を持つ患者では、より詳細な検査が必要になる場合があります。心エコー検査で心機能を直接評価することも、除外診断として役立ちます。

検査結果がすべて正常であり、症状の特徴が典型的であれば、PCSと診断することが適切です。逆に、検査異常が少しでも認められた場合は、別の診断を検討すべき状況です。1955年にMiller氏とTexidor氏により最初に報告されたPCSは、正常検査結果の中での臨床診断が成立する疾患として理解されています。

Practical Tips for Paediatricians: Paediatric Cardiology分野における小児のPCS診療ガイダンス
プレコーディアル・キャッチ症候群の基礎知識と臨床的管理方法

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