プレドニンを飲み続けるとどうなる
プレドニンの免疫抑制作用と感染症リスク
プレドニンを長期服用すると、最も注意すべき副作用の一つが感染症への易感染性です。糖質コルチコイドの免疫抑制作用により、体の抵抗力(免疫力)が著しく低下し、通常では感染しないような病原体にも感染しやすくなります。
特に以下の感染症には十分な注意が必要です。
医療従事者として特に注意すべき点は、ステロイド使用中の患者では発熱などの典型的な感染症状が抑制される可能性があることです。これにより診断が遅れ、重篤化するリスクが高まります。
プレドニン5mg/日以下の生理的量であれば感染症リスクは比較的低いものの、それを超える量での長期使用では厳重な感染症モニタリングが不可欠です。
プレドニンによる糖代謝異常と糖尿病発症
プレドニンの長期使用で頻発する副作用がステロイド糖尿病です。プレドニンは糖質代謝に多面的な影響を与え、以下のメカニズムで高血糖を引き起こします。
ステロイド糖尿病の特徴として、プレドニンの薬物動態に対応して昼から夕方にかけて血糖値が上昇する傾向があります。これは通常朝に内服するプレドニンの作用が投与後2-3時間で現れ、5-8時間後にピークを迎えるためです。
興味深いことに、従来糖尿病を発症していない患者では、プレドニン減量・中止により血糖値は正常化することが多いものの、長期投与や高血糖の放置により永続的な糖尿病が残存する可能性があります。
ステロイド糖尿病の管理には以下の治療選択肢があります。
- インスリン療法(特に昼のインスリン量を増量)
- GLP-1受容体作動薬(食後高血糖抑制効果)
- メトホルミンなどの経口血糖降下薬
プレドニンの骨・筋肉系への長期影響
プレドニンの長期使用による骨粗しょう症は、患者のQOLを著しく低下させる重要な副作用です。ステロイドによる骨密度低下のメカニズムは複雑で、以下の要因が関与しています。
- 腸管でのカルシウム吸収抑制
- 骨芽細胞の機能低下と骨破壊細胞の活性化
- 性ホルモン分泌抑制による二次的な骨量減少
- ビタミンD代謝異常
特に注意すべきは大腿骨頭無菌性壊死で、これはプレドニン使用患者で比較的高頻度に発生する重篤な合併症です。股関節や膝関節の痛みを訴える患者では、MRI検査による早期診断が重要となります。
また、ステロイド筋症も見逃せない副作用の一つです。特に近位筋群(肩や太ももの筋肉)の筋力低下が特徴的で、患者の日常生活動作に大きな影響を与えます。
骨粗しょう症予防として、以下の対策が推奨されます。
- カルシウム・ビタミンD補充
- ビスホスホネート製剤の併用
- 適度な運動療法
- 定期的な骨密度測定
プレドニンの副腎機能抑制と離脱症候群
プレドニンの長期使用で最も危険な合併症の一つが続発性副腎皮質機能不全です。これは外因性ステロイドの投与により、生理的な糖質コルチコイド分泌を担う視床下部-下垂体-副腎軸が抑制されることで生じます。
正常な副腎からの糖質コルチコイド分泌量は1日あたりプレドニゾロン5-7mg相当とされており、この量を超える長期投与では副腎機能抑制が必発となります。
副腎不全の症状。
プレドニン急激中止によるステロイド離脱症候群では、上記症状に加えて原疾患の急激な悪化(リバウンド現象)も生じる可能性があります。そのため、長期使用後の中止は必ず漸減する必要があり、通常は1-2週間ごとに10-25%ずつ減量していきます。
興味深い知見として、副腎機能の完全回復にはプレドニン中止後6ヶ月から1年以上を要することが報告されており、この期間中は感染症や外科手術などのストレス時にステロイド補充が必要となる場合があります。
プレドニンの精神・神経系および循環器系への影響
プレドニンの長期使用では、身体的副作用のみならず精神神経系への影響も重要な問題となります。ステロイド精神病は投与量と関連があり、プレドニゾロン40mg/日以上の高用量で特に頻発します。
精神神経系副作用の代表例。
- 不眠症、睡眠障害(最も頻度が高い)
- 気分変調、易怒性
- うつ状態、躁状態
- 幻覚、妄想などの精神病症状
- 記憶障害、認知機能低下
実際の臨床現場では、患者から「夜眠れない」「気分が落ち着かない」といった訴えが非常に多く聞かれます。これらの症状は患者のQOLを著しく低下させるため、適切な対症療法(睡眠薬、抗不安薬など)の併用が検討されます。
循環器系への影響では、体液貯留による浮腫や高血圧が代表的です。プレドニンの鉱質コルチコイド様作用により、ナトリウム貯留と体液増加が生じ、結果として心負荷が増大します。
既存の心疾患を有する患者では、心不全の悪化に特に注意が必要で、定期的な心機能評価とともに、必要に応じて利尿薬の併用を検討します。
また、血栓症リスクの増加も報告されており、特に高用量・長期使用例では深部静脈血栓症や肺塞栓症の発症に注意を要します。
眼科的副作用として、緑内障や白内障の進行も見逃せません。プレドニン使用患者では定期的な眼科受診により、眼圧測定や水晶体の混濁度評価を行うことが推奨されます。
プレドニンの長期使用は確実に多臓器にわたる副作用リスクを伴います。医療従事者としては、治療効果と副作用のバランスを常に評価し、必要最小限の量と期間での使用を心がけるとともに、定期的なモニタリングによる早期発見・早期対応が患者の予後改善に不可欠です。
副作用予防のための併用薬(胃薬、骨粗しょう症治療薬、感染症予防薬など)の適切な選択と、患者・家族への十分な説明により、プレドニン治療の安全性を最大限確保することが求められます。