プラスグレル 投与方法と禁忌、副作用の重要性

プラスグレル 投与方法と禁忌、副作用

プラスグレルの基本情報
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薬剤分類

抗血小板剤(チエノピリジン系)

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主な適応症

経皮的冠動脈形成術(PCI)が適用される虚血性心疾患、血栓性脳梗塞

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重要な特徴

強力かつ迅速な抗血小板作用、出血リスクの管理が重要

プラスグレルの薬理作用と特徴

プラスグレル(製品名:エフィエント錠)は第三世代のチエノピリジン系抗血小板薬として位置づけられています。本剤は経口投与後に速やかに代謝され、活性代謝物R-138727が生成されます。この活性代謝物が血小板上のADP受容体の一種であるP2Y12受容体に選択的かつ非可逆的に結合することで、強力な抗血小板作用を発揮します。

プラスグレルの大きな特徴は、第二世代のクロピドグレルと比較して以下の点が優れていることです:

  1. 作用発現の迅速性: 小腸での吸収時に速やかに加水分解され、チオラクトン中間体へと代謝されるため、活性代謝物の産生効率が高い
  2. 強力な抗血小板作用: クロピドグレルよりも強力な血小板凝集抑制効果を示す
  3. 安定した薬効: CYP2C19の遺伝子多型の影響を受けにくく、効果のばらつきが少ない

これらの特性により、プラスグレルは急性冠症候群患者に対するPCI施行時など、迅速かつ確実な抗血小板効果が求められる臨床状況で特に有用とされています。

プラスグレルの適応症と投与方法の詳細

プラスグレルの適応症は主に以下の2つです:

  1. 経皮的冠動脈形成術(PCI)が適用される虚血性心疾患
  2. 虚血性脳血管障害(大血管アテローム硬化又は小血管の閉塞に伴う)後の再発抑制

【虚血性心疾患に対する投与方法】

虚血性心疾患患者に対するプラスグレルの投与方法は以下の通りです:

  • 初回負荷投与: 投与開始日にプラスグレルとして20mgを1日1回経口投与
  • 維持用量: その後、1日1回3.75mgを経口投与

ただし、PCI施行前に本剤3.75mgを5日間程度投与されている場合は、初回負荷投与(20mg)は必須ではありません。これは、プラスグレルによる血小板凝集抑制作用が5日間で定常状態に達することが想定されるためです。

【虚血性脳血管障害に対する投与方法】

虚血性脳血管障害後の再発抑制には、プラスグレルとして3.75mgを1日1回経口投与します。こちらは負荷投与を行わない点に注意が必要です。

【投与時の注意点】

  • アスピリン(81~100mg/日、初回負荷投与では324mgまで)と併用すること
  • 空腹時の投与は避けることが望ましい(初回負荷投与を除く)
  • ステント留置患者への投与時には該当医療機器の添付文書を必ず参照すること

プラスグレルの禁忌と慎重投与が必要な患者

プラスグレルは強力な抗血小板作用を有するため、出血リスクの高い患者への投与には特に注意が必要です。

【禁忌】

以下の患者にはプラスグレルを投与してはいけません:

  1. 出血している患者(血友病、頭蓋内出血、消化管出血、尿路出血、喀血、硝子体出血等)
    • 理由:出血を助長するおそれがあるため
  2. 本剤の成分に対し過敏症の既往歴のある患者

【慎重投与】

以下の患者には慎重に投与する必要があります:

  1. 出血傾向およびその素因のある患者(頭蓋内出血の既往のある患者を含む)
    • 理由:出血を生じるおそれがあるため
  2. 高度の肝機能障害のある患者
    • 理由:凝固因子の産生が低下していることがあり、出血の危険性が増大するおそれがあるため
  3. 高度の腎機能障害のある患者
    • 理由:出血の危険性が増大するおそれがあるため
  4. 高血圧が持続している患者
  5. 高齢者(特に75歳以上)
    • 理由:一般に高齢者では生理機能が低下しており、出血の危険性が増大するおそれがあるため
  6. 低体重患者(特に50kg以下)
    • 理由:出血リスクが高まる可能性があるため

これらの患者に投与する場合は、患者の状態を十分に観察しながら慎重に投与することが重要です。

プラスグレルの主な副作用と対処法

プラスグレルの主な副作用は、その薬理作用から予測されるように出血関連の有害事象が中心となります。臨床試験の結果から明らかになった主な副作用とその発現頻度、対処法について解説します。

【主な副作用】

  1. 出血性副作用(高頻度)
    • 皮下出血:約7.4~12.7%
    • 鼻出血:約4.7%
    • その他の出血(消化管出血、血尿、眼出血など)
  2. 血液系副作用
    • 貧血
    • 血小板数減少
    • 好酸球数増加
    • 白血球数減少
  3. 消化器系副作用
    • 下痢、便秘
    • 悪心・嘔吐
    • 胃食道逆流性疾患
    • 腹痛、腹部不快感
    • 胃炎、胃・十二指腸潰瘍
  4. その他の副作用
    • 発疹、紅斑、蕁麻疹などの過敏症状
    • 尿酸上昇
    • 末梢性浮腫
    • 背部痛
    • 血管穿刺部位腫脹

【重大な副作用】

  1. 出血(頭蓋内出血、消化管出血など)
    • 本剤投与中は定期的に血液検査を行い、異常が認められた場合は投与を中止するなど適切な処置を行う
  2. 血栓性血小板減少性紫斑病(TTP)
    • 倦怠感、食欲不振、紫斑等の出血症状、意識障害等の精神・神経症状、血小板減少、破砕赤血球の出現を認める溶血性貧血、発熱、腎機能障害等が認められた場合は、直ちに投与を中止し、血液検査を実施し、必要に応じ血漿交換等の処置を行う
  3. 過敏症(血管浮腫を含む)
  4. 肝機能障害、黄疸
  5. 無顆粒球症、再生不良性貧血を含む汎血球減少症

【副作用発現時の対処法】

  1. 定期的な血液検査によるモニタリング
  2. 出血症状の早期発見と適切な対応
  3. 重篤な副作用が疑われる場合は直ちに投与中止
  4. 過量投与により出血が生じた場合は、特異的な解毒剤はないため、必要に応じて血小板輸血を考慮

プラスグレルと他の抗血小板薬の比較と使い分け

プラスグレルは第三世代のチエノピリジン系抗血小板薬として、第二世代のクロピドグレルと比較して様々な特徴があります。ここでは、プラスグレルと他の抗血小板薬の比較と、臨床での使い分けについて解説します。

【プラスグレルとクロピドグレルの比較】

特性 プラスグレル クロピドグレル
作用発現 迅速(負荷投与後約30分) 比較的遅い(負荷投与後2~6時間)
抗血小板作用の強さ 強力 中等度
効果のばらつき 少ない CYP2C19遺伝子多型の影響を受けやすい
出血リスク 相対的に高い 相対的に低い
日本人での標準用量 負荷量20mg、維持量3.75mg/日 負荷量300mg、維持量75mg/日

【臨床的有効性の比較】

PRASFIT-ACS試験(国内第III相臨床試験)では、急性冠症候群(不安定狭心症ST上昇心筋梗塞、ST上昇心筋梗塞)患者における投与24週後までの主要心血管イベント(心血管死、非致死性心筋梗塞及び非致死性虚血性脳卒中の複合エンドポイント)の発現率は、プラスグレル群で9.3%、クロピドグレル群で11.8%でした(ハザード比0.773)。

一方、TRITON-TIMI 38試験(海外第III相試験)では、平均15ヵ月の観察期間で心血管死亡、心筋梗塞ならびに脳卒中の複合エンドポイントはクロピドグレル群と比較してプラスグレル群で19%有意に低下(12.1% vs. 9.9%)しました。

【出血リスクの比較】

プラスグレルはクロピドグレルと比較して出血リスクが高い傾向があります。特に以下の患者群では重度出血のリスクが高いことが報告されています:

  1. 75歳以上の高齢者
  2. 体重50kg以下(海外データでは60kg以下)の患者
  3. 一過性脳虚血発作(TIA)または脳卒中の既往歴を持つ患者

【臨床での使い分け】

  1. プラスグレルが好ましい状況
    • 急性冠症候群に対するPCI施行時(特に迅速な抗血小板効果が必要な場合)
    • クロピドグレル抵抗性が疑われる患者
    • CYP2C19の機能低下型遺伝子多型を有する患者
  2. クロピドグレルが好ましい状況
    • 出血リスクの高い患者(高齢者、低体重患者など)
    • 脳卒中やTIAの既往がある患者
    • 冠動脈バイパス術(CABG)が予定されている患者
  3. その他の抗血小板薬との使い分け
    • チカグレロル:可逆的なP2Y12阻害薬で、プラスグレルと同様に強力な抗血小板作用を持つが、作用が可逆的であるため、手術前の休薬期間が短い
    • シロスタゾール:PDE阻害薬で、出血リスクが比較的低く、末梢動脈疾患にも効果がある

医療現場では、患者の病態(急性冠症候群か安定狭心症か)、出血リスク、遺伝的背景、併用薬、予定される処置などを総合的に評価し、最適な抗血小板薬を選択することが重要です。

プラスグレル投与における特殊な患者集団への配慮

プラスグレルの投与にあたっては、特定の患者集団において特別な配慮が必要です。ここでは、高齢者、低体重患者、肝・腎機能障害患者、妊婦・授乳婦、小児などの特殊な患者集団に対する投与上の注意点について詳しく解説します。

【高齢者への投与】

高齢者、特に75歳以上の患者では、出血リスクが増大する可能性があります。国内第II相試験では、高齢(75歳以上)または低体重(50kg以下)の患者を対象とした検討が行われています。

  • 高齢者では生理機能が低下していることが多いため、患者の状態を十分に観察しながら慎重に投与する
  • 海外のTRITON-TIMI 38試験では、75歳以上の高齢者は重度出血のリスクが高い集団として特定されている
  • 高齢者では、出血の兆候や症状に対する注意深いモニタリングが特に重要

【低体重患者への投与】

体重50kg以下の患者では、出血リスクが高まる可能性があります。

  • 国内第II相試験では、高齢(75歳以上)または低体重(50kg以下)の患者での投与12週後までの主要心血管イベントの発現率は、プラスグレル2.5mg群で5.4%、プラスグレル3.75mg群で10.8%、クロピドグレル群で11.1%であった
  • 副作用発現頻度は、プラスグレル2.5mg群で32.4%、プラスグレル3.75mg群で48.6%、クロピドグレル群で44.4%であった
  • 低体重患者では、出血リスクと有効性のバランスを考慮した用量調整が検討される場合がある

【肝機能障害患者への投与】

高度の肝機能障害のある患者では、凝固因子の産生が低下していることがあるため、出血の危険性が増大するおそれがあります。

  • 肝機能障害患者への投与は慎重に行い、定期的な肝機能検査によるモニタリングが推奨される
  • 肝機能障害の程度に応じて、投与量の調整や代替薬の検討が必要な場合がある

【腎機能障害患者への投与】

高度の腎機能障害のある患者では、出血の危険性が増大するおそれがあります。

  • 腎機能障害患者への投与は慎重に行い、定期的な腎機能検査と出血症状のモニタリングが重要
  • 透析患者などの末期腎不全患者