ピペラシリン/タゾバクタム
ピペラシリン/タゾバクタムの適応菌種と適応症
ピペラシリン/タゾバクタム(TAZ/PIPC)は、β-ラクタマーゼ阻害薬タゾバクタムが酵素を不活化し、ピペラシリンの分解を抑えることで抗菌力を発揮する配合剤です。
適応は大きく「一般感染症」と「発熱性好中球減少症」に分かれ、一般感染症では敗血症、肺炎、腹膜炎、腹腔内膿瘍、胆嚢炎、胆管炎、腎盂腎炎、複雑性膀胱炎、深在性皮膚感染症、びらん・潰瘍の二次感染などが添付文書上の対象です。
適応菌種として、ブドウ球菌属、レンサ球菌属、肺炎球菌、腸球菌属、インフルエンザ菌、大腸菌、クレブシエラ属、エンテロバクター属、緑膿菌、嫌気性菌(バクテロイデス属、プレボテラ属等)など幅広く列挙されています。
一方で「何でもTAZ/PIPCでカバー」という運用は危険で、添付文書には「原則として感受性を確認」「β-lactamaseの関与が考えられ、本剤に感性の起炎菌による中等症以上の感染症である場合に投与」と明記されています。
参考)医療用医薬品 : タゾピペ (タゾピペ配合静注用2.25「明…
発熱性好中球減少症(FN)では、投与対象の条件(発熱基準、好中球数の閾値)が細かく規定され、ガイドライン等を参照し経験ある医師のもとで適切と判断される患者に限定する趣旨が示されています。
臨床現場の実務では、初期には「重症度」「想定菌(市中か院内か、腹腔内か、尿路か、カテ関連か)」「緑膿菌リスク」「嫌気性菌カバーの必要性」を同時に評価し、TAZ/PIPCが過不足ないかをチェックします。
「緑膿菌まで広くカバーしたい」「腹腔内感染で嫌気性菌も外したくない」などの状況で使いやすい一方、確定診断後はde-escalation(狭域化)を検討し、必要最小限の期間にとどめるのが耐性菌対策として重要です。
参考リンク(効能・菌種・用法用量・相互作用・副作用の一次情報)。
JAPIC 添付文書(タゾピペ配合静注用/バッグ):適応菌種・適応症、用法用量、相互作用、副作用、配合変化までまとまっています
ピペラシリン/タゾバクタムの用法用量と投与期間
用法用量は「疾患」と「製剤(バイアル/バッグ)」で同様の骨格ですが、疾患別に回数が変わるため、処方時はまず適応症の区分を確定するのが安全です。
一般感染症のうち、敗血症・肺炎・腹膜炎・腹腔内膿瘍・胆嚢炎・胆管炎では、成人は通常1回4.5gを1日3回点滴静注で、肺炎では症状・病態に応じて1日4回に増量できるとされています。
腎盂腎炎および複雑性膀胱炎では、成人は通常1回4.5gを1日2回点滴静注で、症状・病態に応じて1日3回へ増量可能という扱いです。
発熱性好中球減少症では、成人は通常1回4.5gを1日4回点滴静注と、一般感染症より回数が増える設定になっています。
小児は一般感染症で1回112.5mg(力価)/kgを1日2〜3回、FNでは1回90mg(力価)/kgを1日4回など、こちらも適応で回数が変わります。
「成人の1回投与量上限は1回4.5gを超えない」点は、増量時にも共通の上限として明記されています。
投与期間の目安も添付文書に記載があり、成人の腎盂腎炎/複雑性膀胱炎は5日間、深在性皮膚感染症・市中肺炎・腹腔内感染症・胆道感染症・FNは14日間、敗血症および院内肺炎は21日間が「目安」とされています。
ただし添付文書は同時に「耐性菌の発現等を防ぐため、疾患の治療上必要な最小限の期間」にとどめるよう求めているため、培養結果や臨床反応に応じた短縮・変更を常に検討します。
高齢者については、例えば2.25gから開始するなど慎重投与が推奨されており、腎機能や全身状態の影響を受けやすい点が実務上の落とし穴になります。
投与ルート・調製でもミスが起きやすく、バイアル製剤で点滴静注する場合は「補液に溶解して注射」「注射用水を使用しない(等張にならないため)」といった注意が記載されています。
またバッグ製剤は溶解操作(隔壁開通→完全溶解確認)を守り、残液は使用しない等の注意が明確です。
血管痛や血栓/静脈炎のリスクにも触れられているため、投与速度はできる限り緩徐にし、ライン管理も含めて運用します。
ピペラシリン/タゾバクタムの副作用と検査値
TAZ/PIPCは下痢などの消化器症状が比較的多く、添付文書の副作用頻度表では下痢(24.3%)、軟便などが記載されています。
肝機能ではALT上昇(9.9%)やγ-GTP上昇(9.0%)が示され、定期的な肝機能検査が推奨されています。
腎機能障害や血液障害も重要で、重大な副作用として急性腎障害、間質性腎炎、血小板減少症、溶血性貧血などが列挙されています。
見落とされやすいのが低カリウム血症で、重大な副作用として「倦怠感、脱力感、不整脈、痙攣等を伴う低カリウム血症」が明記されています。
添付文書の「重要な基本的注意」でも、肝機能障害・腎機能障害・血球減少・低カリウム血症が起こり得るため、定期的な血液検査や腎・肝機能検査等を行うよう求めています。
実務的には、開始前にベースライン(血算、AST/ALT、Cr/eGFR、Na/K/Cl)を取り、3〜4日以上の投与や重症例ではKを含む電解質を数日おきに追う運用が安全です。
過敏反応については、ショックやアナフィラキシーは頻度不明ながら重大な副作用として扱われ、投与前のアレルギー歴確認や救急処置の準備、投与開始直後の注意深い観察が明記されています。
意外に実務で役立つ注意として、調製時の接触で「ショックを伴う接触蕁麻疹等の過敏症状」を起こすことがあるため、調製時に手袋使用など直接接触を避けるよう記載があります。
さらに、臨床検査への影響として、ベネディクト試薬・フェーリング試薬等の還元法による尿糖検査で偽陽性を呈する可能性、直接クームス試験陽性の可能性も挙げられており、結果解釈の落とし穴になります。
ピペラシリン/タゾバクタムの相互作用と腎機能
腎機能はTAZ/PIPC運用の中心で、腎機能障害患者では半減期遅延やAUC増加で血中濃度が増大するため、障害の程度に応じた減量や投与間隔調整が必要とされています。
過量投与では痙攣などの神経症状や高ナトリウム血症が起こり得て、特に腎機能障害患者で出やすいと記載され、透析で血中濃度を下げられる旨も示されています。
バッグ製剤は生理食塩液を含むため、心・循環器系機能障害患者では水分・ナトリウム貯留による浮腫悪化、高Na血症等の電解質異常の注意が明記されています。
薬物相互作用では、プロベネシドがタゾバクタム/ピペラシリンの排泄を遅延させ半減期を延長する可能性があるとされています。med.daiichisankyo-ep+1
メトトレキサートは、ピペラシリンがOAT1/OAT3を介した腎尿細管分泌を阻害して排泄を遅延させ、毒性が増強する可能性があるため、血中濃度モニタリング等に注意が必要です。med.daiichisankyo-ep+1
抗凝血薬(ワルファリン等)は血液凝固抑制作用を助長するおそれがあり、凝血能の変動に注意するよう記載されています。med.daiichisankyo-ep+1
特に臨床で頻出なのがバンコマイシンとの併用で、併用時に腎障害が報告されており、腎障害が発現・悪化するおそれがあるとされています(機序は不明)。med.daiichisankyo-ep+1
このため、MRSAカバー目的に併用する場面では「適応の妥当性(本当にMRSAが必要か)」「投与日数の最小化」「腎機能(Cr上昇)のモニタリング頻度増加」をセットで考えると事故が減ります。
また、経口摂取不良や非経口栄養などではビタミンK欠乏症状が出ることがあるという注意があり、出血傾向やPT延長が出た場合の鑑別に役立ちます。
ピペラシリン/タゾバクタムの配合変化と現場の独自視点
TAZ/PIPCは「混注・側管投与の作法」を守らないと、有効性低下やトラブルに直結するため、薬剤部・病棟で共有すべきポイントです。
添付文書では、特定製剤と配合すると不溶物析出が起こるため配合しないこと、別の製剤では3時間後に著しい力価低下が起こるため配合しないこと、さらに一部は「直接混合を避け側管/ピギーバックで投与」など具体的に記載されています。
また、アミノグリコシド系抗生物質(トブラマイシン等)とは混注で活性低下をきたすため、併用時は別経路投与とされています。
ここからが検索上位に出にくい「運用の独自視点」です。
現場で起きがちな事故は、薬理そのものより「ラインの現実(同一ルートでの連続投与、側管での混合、投与順序、滞留液)」に起因します。
添付文書にはバッグ製剤で「連結管(U字管)による連続投与は行わないこと」と明記があり、連続投与を組むICU/救急ほど要注意です。
したがって、TAZ/PIPCを安全に回すコツは、次のように“手順を標準化”することです。
- 🧾 ルート設計:同一ルートで多剤が走る患者ほど、TAZ/PIPCの投与枠(前後のフラッシュ量、側管位置)を先に決める。
- 🧴 調製時:手袋着用で接触を避け、完全溶解を確認し、溶解後は速やかに使用する。
- ⏱ 投与中:血管痛・静脈炎リスクを意識してできる限り緩徐に、投与中〜投与後も観察を続ける。
- 🧪 検査:K、Cr、AST/ALT、血算を“投与期間に合わせて”定期化(長期投与ほど頻回)する。
また、バッグ製剤はNa含有が明記されており、電解質異常リスクがある患者(腎不全、心不全、厳格なNa制限など)では、薬剤選択そのものより「どの製剤形(バイアルかバッグか)」が安全かが論点になることがあります。
この視点を持つと、同じTAZ/PIPCでも「適応は合っているのに、浮腫やNa上昇で中止せざるを得ない」といった“治療継続性の問題”を減らせます。
参考リンク(相互作用・副作用頻度・PKなどを見ながら処方確認するのに便利)。