ピペラシリン・タゾバクタム配合剤の適正使用
バンコマイシン併用で腎障害リスクが約3倍になります
ピペラシリン・タゾバクタム配合剤の基本的な特徴と作用機序
ピペラシリン・タゾバクタム配合剤は、広域スペクトルを持つペニシリン系抗生物質ピペラシリンと、β-ラクタマーゼ阻害剤タゾバクタムを力価比1:8の割合で配合した注射用抗生物質製剤です。この配合比率により、両成分の長所を最大限に活かすことができます。
作用機序は、ピペラシリンが細菌の細胞壁合成を阻害して殺菌的に作用する一方で、タゾバクタムが細菌の産生するβ-ラクタマーゼを阻害します。つまり、細菌が抗生物質を分解しようとする防御機構そのものを無効化するのです。このダブルアクションにより、β-ラクタマーゼ産生菌による耐性を克服できる仕組みになっています。
グラム陽性球菌とグラム陰性桿菌に非常に広域なスペクトラムを有しますが、特に注目すべきは緑膿菌と嫌気性菌の両方に活性を持つ点です。ただし、MRSAやEnterococcus faeciumには活性を持たないため、これらの菌が疑われる場合は別の薬剤を選択する必要があります。
商品名としては「ゾシン」や「タゾピペ」などが知られており、医療機関では広く使用されています。成人の標準用量は1回4.5g(力価)で、感染症の種類や重症度に応じて1日2回から4回の投与が行われます。点滴静注が基本ですが、必要に応じて緩徐な静脈内注射も可能です。
大鵬薬品工業の開発経緯ページでは、本剤の開発背景とβ-ラクタマーゼ阻害剤配合の意義について詳しく解説されています
ピペラシリン・タゾバクタム配合剤の適応症と使用すべき状況
この配合剤が最も適した使用状況は、緑膿菌と嫌気性菌を両方カバーしたい場合です。具体的には、院内肺炎や人工呼吸器関連肺炎が代表的な適応となります。院内で長期入院している患者さんや、直近の濃厚な医療曝露がある患者さんでは、緑膿菌感染のリスクが高まるため、本剤の使用を検討する価値があります。
発熱性好中球減少症も重要な適応症です。2015年に適応が追加されて以来、好中球減少時の発熱に対する第一選択薬の一つとして位置づけられています。特に好中球減少性腸炎や肛門周囲膿瘍が疑われる場合、嫌気性菌のカバーが必要であり、本剤は良い適応となります。
腹腔内感染症における使用も重要です。腹膜炎、腹腔内膿瘍、胆嚢炎、胆管炎では、複数の菌種が関与することが多く、嫌気性菌を含む幅広いカバーが求められます。院内発症や最近の抗菌薬暴露歴がある場合は特に本剤の適応が高まります。
その他、敗血症、深在性皮膚感染症、びらん・潰瘍の二次感染、腎盂腎炎、複雑性膀胱炎なども適応症です。小児の細菌感染症にも使用可能で、1回112.5mg(力価)/kgを1日3~4回投与します。ただし、小児では2歳未満で下痢・軟便の副作用発現率が57.7%と高いため、注意深い観察が必要です。
投与期間の目安は感染症の種類によって異なります。腎盂腎炎および複雑性膀胱炎では5日間、深在性皮膚感染症や市中肺炎では14日間、敗血症および院内肺炎では21日間が推奨されています。これらの期間を目安に、患者さんの臨床経過を見ながら投与継続の判断を行います。
ピペラシリン・タゾバクタム配合剤を使用すべきでない状況
市中発症の尿路感染症や市中肺炎では、本剤の使用は推奨されません。これらの感染症は、より狭域のスペクトルを持つ抗菌薬で十分に治療可能なケースが多いためです。広域抗菌薬の過剰使用は、耐性菌を増やす大きな原因となります。実際、近年ピペラシリン・タゾバクタム耐性の腸内細菌科細菌(大腸菌など)が大きな問題となってきています。
AmpC過剰産生グラム陰性桿菌やESBL産生グラム陰性桿菌が関与すると予想される重症感染症、特にショック状態では、本剤の効果が期待できない可能性があります。ESBL産生菌による敗血症、膿瘍、および骨髄炎など菌量が多い状況では、カルバペネム系抗菌薬(メロペネムなど)の使用が望ましいとされています。
カルバペネム耐性腸内細菌科細菌が関与する場合も、本剤では対応できません。つまり、医療関連感染症では必ずしも本剤で治療可能ではないことに注意が必要です。尿路感染症・腹腔内感染症・肺炎において、MRSAやE. faeciumの関与が想定される場合は、バンコマイシンの併用が必要となります。
重症でない市中発症の胆管炎も、本剤の適応外です。このような比較的軽症の市中感染症では、アンピシリン・スルバクタムやセフトリアキソンなどの代替薬を選択すべきです。
抗菌薬選択に迷う場合や、耐性菌の検出歴がある患者さんでは、感染症科へのコンサルトを検討することが重要です。適正使用を徹底することで、この強力な抗菌薬を将来にわたって有効に活用できる環境を守ることができます。
亀田総合病院の感染症ガイドラインでは、ピペラシリン・タゾバクタムの使用すべき状況と避けるべき状況が具体的に示されています
ピペラシリン・タゾバクタム配合剤の腎機能別投与量と調整方法
腎機能障害患者では、血漿半減期の遅延およびAUCの増加が認められ、血中濃度が増大します。そのため、腎機能障害の程度に応じて投与量と投与間隔の調節が必須です。適切な調整を行わないと、副作用のリスクが高まります。
クレアチニンクリアランス(Ccr)が50mL/min以上の場合、標準用量である4.5gを6時間ごとに投与します。Ccrが20~50mL/minでは、2.25gを6時間ごとに減量します。Ccrが20mL/min未満では、さらに投与間隔を延長し、2.25gを8時間ごとに投与します。
血液透析患者では、2.25gを8時間ごとに投与し、透析日は透析後に投与時間を調整する必要があります。透析によって薬剤が除去されるため、透析後の投与タイミングが治療効果を左右する重要なポイントとなります。
本剤の両成分であるピペラシリンとタゾバクタムは、主に腎臓から排泄されます。ピペラシリンの約6~8割が未変化体のまま尿中に排泄され、タゾバクタムも同様に腎排泄が主な経路です。そのため、腎機能が低下すると薬物の体内蓄積が起こりやすくなるのです。
腎機能評価には、血清クレアチニン値だけでなく、Cockcroft-Gault式などでCcrを算出することが推奨されます。特に高齢者では、血清クレアチニン値が正常範囲内でも腎機能が低下している場合があるため、注意が必要です。体重や年齢を考慮した正確な評価が求められます。
投与量調整を怠ると、神経系の副作用(頭痛、めまい、意識レベル低下)や腎機能障害の悪化につながる可能性があります。腎機能をモニタリングしながら、安全に治療を継続することが大切です。
ピペラシリン・タゾバクタム配合剤の副作用とバンコマイシン併用時のリスク
主な副作用として、下痢が最も頻度が高く11%、頭痛が8%、便秘が8%、悪夢が7%、皮疹が4%、蕁麻疹が3%、悪心嘔吐が3%報告されています。下痢は抗菌薬による腸内細菌叢の変化が原因で起こります。多くの場合は軽度ですが、重度の下痢や血便を伴う場合は偽膜性大腸炎の可能性があるため、直ちに医師に報告する必要があります。
血球減少、凝固異常、血清クレアチニン上昇は頻度不明とされていますが、重大な副作用として注意が必要です。特に長期投与時や高齢者では、定期的な血液検査で白血球数、血小板数、肝機能、腎機能をモニタリングします。
重大な副作用として、ショックやアナフィラキシーがあります。頻度は非常に稀ですが、投与開始時には特に注意深く観察し、皮膚のかゆみ、蕁麻疹、声のかすれ、息苦しさなどの兆候が見られた場合は、直ちに投与を中止して適切な処置を行います。ペニシリンアレルギーの既往がある患者さんでは、本剤の使用は原則として避けます。
バンコマイシンとの併用については、複数の研究で急性腎障害(AKI)との関連が指摘されています。ピペラシリン・タゾバクタムとバンコマイシンの併用時のAKI発現リスクは、セフェピムとバンコマイシン併用時と比較して約3倍に上昇するという報告があります。
これは非常に大きな差です。
併用が避けられない場合は、血清クレアチニン値や尿量を頻回にモニタリングし、腎機能悪化の早期発見に努めます。腎機能が正常な患者さんでは併用が可能な場合もありますが、腎機能低下のリスク因子(高齢、脱水、他の腎毒性薬剤の使用など)がある場合は、より慎重な判断が求められます。代替薬の検討や感染症専門医への相談を行うことで、腎障害リスクを最小限に抑えることができます。
JSEPTICのジャーナルクラブ資料では、ピペラシリン・タゾバクタムとバンコマイシン併用による腎障害の詳細なエビデンスが紹介されています
ピペラシリン・タゾバクタム配合剤における耐性菌対策と適正使用の重要性
ピペラシリン・タゾバクタムの使用量が多い医療機関では、近年この薬剤に耐性を持つ腸内細菌科細菌(大腸菌、肺炎桿菌など)が大きな問題となっています。不適切な使用や過剰な使用は、耐性菌を増やす直接的な原因です。耐性菌が増えると、本来有効であった抗菌薬が効かなくなり、治療の選択肢が狭まります。
ESBL産生菌に対する治療では、従来カルバペネム系抗菌薬が第一選択とされてきました。しかし最近では、ピペラシリン・タゾバクタムやセファマイシン系抗菌薬によって治療可能であるというエビデンスが少しずつ集まってきています。重症度や感染部位によっては、カルバペネムを温存してピペラシリン・タゾバクタムを選択できる場合があるということです。
ただし、ESBL産生菌による敗血症、膿瘍、骨髄炎など菌量が多い状況や、ショック状態の重症感染症では、やはりカルバペネムの使用が望ましいとされています。感染巣のコントロールができている場合や、尿路感染症のように薬剤の組織移行が良好な場合は、ピペラシリン・タゾバクタムでも対応できる可能性があります。
適正使用のための基本原則は、原則として感受性を確認し、β-ラクタマーゼの関与が考えられ、本剤に感性の起炎菌による中等症以上の感染症である場合に投与することです。血液培養や感染巣からの検体培養を投与前に採取し、起炎菌が判明した際には、本剤投与継続の必要性を再検討します。
起炎菌が同定され感受性結果が判明したら、可能な限り狭域スペクトルの抗菌薬へのde-escalationを検討します。これにより、不必要な広域抗菌薬使用を避け、耐性菌発生のリスクを低減できます。例えば、緑膿菌が検出されなかった場合は、セフトリアキソンやアンピシリン・スルバクタムへの変更を考慮します。
抗菌薬適正使用支援チーム(AST)の活用も重要です。多くの医療機関でASTが設置され、広域抗菌薬の使用状況をモニタリングし、適切な助言を提供しています。本剤の使用開始時や使用継続の判断に迷う場合は、ASTや感染症専門医へのコンサルトを積極的に活用することで、適正使用を実現できます。