ペニシリン結合タンパク質とトランスペプチダーゼ細菌耐性機構の最新知見

ペニシリン結合タンパク質とトランスペプチダーゼ

ペニシリン結合タンパク質とトランスペプチダーゼ細菌耐性機構の最新知見
🔬

ペニシリン結合タンパク質の基本構造と役割

ペニシリン結合タンパク質(PBP)は細菌の細胞膜に存在し、ペプチドグリカン合成の最終段階―細胞壁の伸長や隔壁形成―を担う酵素群として知られる。PBPは高分子量型(主にトランスペプチダーゼ活性を持つ)と低分子量型(カルボキシペプチダーゼ活性)に分類され、どちらも細菌の生存に不可欠だが、特に高分子量型のPBPは細胞壁の架橋形成(クロスリンク)を直接制御し、細菌の形状維持に重要な役割を果たしている。

🧬

トランスペプチダーゼ活性とは何か

トランスペプチダーゼはPBPの主要な酵素活性で、ペプチドグリカンのペプチド鎖を架橋させる反応(クロスリンク反応)を担う。この活性により、細胞壁が強固になり、細菌は外部ストレスから保護される。βラクタム系抗菌薬(ペニシリン・セファロスポリン)は、PBPの活性中心のセリン残基と結合し、トランスペプチダーゼ活性を阻害することで細菌の細胞壁合成を妨害し殺菌効果を発揮する。

🦠

抗菌薬耐性菌とPBP・トランスペプチダーゼの分子機構

PBPはしばしば変異や構造改変により基質特異性が変化することで耐性菌の成立に寄与する。βラクタム系抗菌薬に対する結合能が低下したPBPが発生すると、通常の薬剤では阻害できなくなる。特にMRSAをはじめとしたグラム陽性菌では、この耐性化機構が臨床上大きな課題となっている。またL,D-トランスペプチダーゼはカルバペネム以外の多くのβラクタム薬に強い耐性を示し、治療選択肢を狭める要因となる。

参考リンク:L,D-トランスペプチダーゼの構造的特徴と耐性機構について詳しく説明しています(耐性菌の分子機構の参考)

Acinetobacter baumanniiのL,D-Transpeptidase研究

🧫

臨床でのペニシリン結合タンパク質活性測定応用と診断の進歩

臨床現場ではPBPの遺伝子型やトランスペプチダーゼドメインの配列解析による耐性菌の迅速同定が進んでいる。例えば肺炎球菌のβラクタム耐性スクリーニングや、PBPを標的とした新規抗菌薬候補の探索も進展している。分子診断技術の進歩により、リアルタイムで薬剤耐性を予測することが可能となり、適切な抗菌薬選択に役立っている。

参考リンク:肺炎球菌のPBP遺伝子型分類・耐性診断の解説(迅速診断の参考)

PBP型によるβラクタム耐性予測

💡

ペニシリン結合タンパク質とトランスペプチダーゼの知られざる応用

近年、トランスペプチダーゼ活性を応用し、細菌細胞壁に異種アミノ酸を組み込む技術が開発されている。この応用により、新規バイオマテリアルの創製や、特定細菌群のみを可視化する診断マーカーの開発にもつながっている。更に、細菌以外の生物由来のペプチド結合産生酵素の研究も盛んで、多様な生物から抗菌薬候補が発見されている。

参考リンク:細菌細胞壁とペニシリン結合タンパク質の合成反応や診断応用(アミノ酸組み込み技術の参考)

D-アミノ酸組み込みとトランスペプチダーゼ活性