ペニシリン系薬の特徴と作用機序及び抗菌スペクトル

ペニシリン系薬の基本知識と臨床応用

ペニシリン系抗菌薬の基本
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殺菌性抗菌薬

βラクタム環を有し、細菌の細胞壁合成を阻害することで殺菌的に作用します

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発見の歴史

1929年にフレミングが青カビから発見し、1940年代に臨床応用が始まりました

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主な禁忌

ペニシリンアレルギーの患者さんや伝染性単核症の患者さんには使用できません

ペニシリン系薬の作用機序と殺菌性の特徴

ペニシリン系抗菌薬は、βラクタム環を有するβラクタム薬の一種であり、多くの細菌感染症の第一選択薬として広く使用されています。その作用機序は、細菌の細胞壁を合成する酵素であるペニシリン結合タンパク(PBP)に結合し、細胞壁合成を阻害することで殺菌的作用を示します。

ペニシリン系薬の最大の特徴は「殺菌性」にあります。これは静菌作用(細菌の増殖を抑制するだけ)ではなく、細菌を直接死滅させる作用を持つことを意味します。この殺菌作用は、最小殺菌濃度(MBC)で評価されますが、測定の煩雑さから一般的には測定されないことが多いです。

殺菌作用と静菌作用の臨床効果に明らかな差はないとされていますが、感染性心内膜炎や髄膜炎などの重篤な感染症では、殺菌性の抗菌薬が推奨されることがあります。これは、これらの疾患では免疫機能が十分に働かない部位での感染であるため、抗菌薬自体の殺菌力が重要となるためです。

ペニシリン系薬は時間依存性の抗菌薬であり、効果を最大限に発揮するためには、薬剤の血中濃度を一定時間以上、最小発育阻止濃度(MIC)以上に維持することが重要です。そのため、例えばペニシリンG(PCG)は半減期が約30分と短く、1日4~6回の頻回投与または持続投与が必要となります。

ペニシリン系薬の抗菌スペクトルと感受性菌種

ペニシリン系抗菌薬の抗菌スペクトルは、薬剤によって大きく異なります。基本的なペニシリンG(PCG)は抗菌スペクトルは狭いものの、感受性菌に対する抗菌活性は非常に高いという特徴があります。

PCGが感受性を示す代表的な微生物には以下のものがあります:

  • β溶血性レンサ鎖球菌やα溶血性レンサ球菌、その他のレンサ球菌
  • 感受性のある肺炎球菌
  • 感受性のある髄膜炎菌
  • ペニシリナーゼを産生しないメチシリン感性黄色ブドウ球菌(MSSA)
  • クロストリジウム属であるC. perfringensや破傷風菌(C. tetani
  • 横隔膜より上の偏性嫌気性菌
  • 梅毒やレプトスピラといったスピロヘータ

一方、広域ペニシリンであるアンピシリン(ABPC)やアモキシシリン(AMPC)は、グラム陽性菌だけでなく一部のグラム陰性菌にも抗菌活性を示します。特にABPCはリステリアと感受性を有する腸球菌の第一選択薬となっています。

さらに、抗緑膿菌活性を持つピペラシリン(PIPC)は、グラム陽性菌に対する活性はペニシリンやアンピシリンに比べると若干劣るものの、グラム陰性菌に対する抗菌活性が強く、緑膿菌感染症(菌血症・肺炎・尿路感染症・皮膚軟部組織感染症など)に有効です。

肺炎球菌をPCGで治療する場合、髄膜炎と非髄膜炎で感受性の基準値(ブレイクポイント)が異なる点は臨床上重要です。非髄膜炎の場合、MIC 2μg/mL以下でPCG感受性と判定されるため、ペニシリン耐性の肺炎球菌は極めて稀です。一方髄膜炎の場合、MIC 0.06μg/mL以下でPCG感受性と判定され、0.12μg/mL以上は耐性と判定されるため、PCG耐性とされる肺炎球菌(PRSP)が多いのが現状です。

ペニシリン系薬の種類と臨床での選択基準

ペニシリン系抗菌薬は、その化学構造や抗菌スペクトルによって複数の種類に分類されます。臨床での選択基準を理解することは、適切な抗菌薬治療を行う上で非常に重要です。

  1. ペニシリンG(PCG)
    • 特徴:抗菌スペクトルは狭いが抗菌活性は高い
    • 投与方法:半減期が約30分と短く、1日4~6回の頻回投与または持続投与
    • 適応:レンサ球菌感染症、感受性のある肺炎球菌感染症、梅毒など
    • 注意点:高K血症と血管痛に注意が必要
  2. アンピシリン(ABPC)・アモキシシリン(AMPC)
    • 特徴:広域ペニシリンで経口投与可能
    • 適応:リステリア感染症、感受性のある腸球菌感染症など
    • ABPC/SBT(スルバクタム合剤):βラクタマーゼ産生菌にも有効
  3. ピペラシリン(PIPC)
    • 特徴:抗緑膿菌活性を持つ
    • 適応:緑膿菌感染症(菌血症・肺炎・尿路感染症・皮膚軟部組織感染症など)
    • PIPC/TAZ(タゾバクタム合剤):βラクタマーゼ産生菌にも有効
  4. βラクタマーゼ阻害薬との合剤
    • ABPC/SBT、AMPC/CVA(クラブラン酸)、PIPC/TAZ
    • 特徴:βラクタマーゼ産生菌にも有効
    • 適応:ペニシリナーゼ産生MSSAとバクテロイデスに抗菌活性を示す

臨床での選択基準としては、まず感染部位と原因菌(または推定される原因菌)を考慮します。例えば、市中肺炎では肺炎球菌が主な原因菌であることが多いため、AMPC等が選択されます。一方、院内肺炎では緑膿菌などの耐性菌が問題となるため、PIPCやPIPC/TAZが選択されることがあります。

また、髄膜炎に使用できるのはPCG、ABPC、PIPCなどに限られるため、中枢神経系感染症の治療では特に注意が必要です。

ペニシリン系薬の耐性機序とβラクタマーゼ阻害薬の役割

ペニシリン系抗菌薬に対する細菌の耐性機序を理解することは、適切な抗菌薬選択において非常に重要です。主な耐性機序には以下のようなものがあります:

  1. βラクタマーゼ(ペニシリナーゼ)の産生
    • ペニシリン系抗菌薬のβラクタム環を加水分解する酵素を産生
    • 代表的な菌種:ペニシリナーゼ産生MSSA、一部のインフルエンザ菌、モラキセラ、バクテロイデスなど
    • 対策:βラクタマーゼ阻害薬との合剤(ABPC/SBT、AMPC/CVA、PIPC/TAZなど)を使用
  2. PBP(ペニシリン結合タンパク)の変異
    • βラクタム薬がPBPに結合できなくなる
    • 代表的な菌種:MRSA(メチシリン耐性黄色ブドウ球菌)、MRS(メチシリン耐性ブドウ球菌)
    • 対策:バンコマイシンなどの抗MRSA薬を使用
  3. 細胞膜透過性の低下
    • 薬剤が細菌内に入りにくくなる
    • 代表的な菌種:緑膿菌など
    • 対策:高用量投与や他系統の抗菌薬との併用

βラクタマーゼ阻害薬は、βラクタマーゼを不可逆的に阻害することで、ペニシリン系抗菌薬の分解を防ぎ、本来の抗菌活性を発揮させる役割を持ちます。代表的なβラクタマーゼ阻害薬には、スルバクタム(SBT)、クラブラン酸(CVA)、タゾバクタム(TAZ)があります。

これらの阻害薬は単独では抗菌活性をほとんど持ちませんが、ペニシリン系抗菌薬と合剤として使用することで、βラクタマーゼ産生菌に対しても有効性を示します。例えば、ABPC/SBT、AMPC/CVA、PIPC/TAZといった合剤が臨床で広く使用されています。

特筆すべき点として、スルバクタム(SBT)はアシネトバクターに対して単独でも感受性を示すという特性があります。これは他のβラクタマーゼ阻害薬にはない特徴です。

ペニシリン系薬の副作用と相互作用における臨床的注意点

ペニシリン系抗菌薬は比較的安全性の高い薬剤ですが、いくつかの重要な副作用と相互作用があり、臨床使用時には注意が必要です。

主な副作用

  1. 過敏反応(アレルギー反応)
    • 発現率:約1~10%
    • 症状:皮疹、蕁麻疹、発熱、アナフィラキシーショックなど
    • 注意点:ペニシリンアレルギーの既往がある患者には禁忌
  2. 消化器症状
    • 発現率:約5~10%
    • 症状:下痢、悪心、嘔吐など
    • 対策:食後に服用するなど
  3. 肝障害
    • 特にPIPCでは胆汁うっ滞性の黄疸に注意
    • 定期的な肝機能検査が望ましい
  4. 血液障害
    • 溶血性貧血、好中球減少、血小板減少など
    • 長期投与時には血液検査による経過観察が必要
  5. 腎障害
    • 高用量投与時や腎機能低下患者では注意が必要
    • 適切な用量調整が必要
  6. 電解質異常
    • PCGでは高K血症に注意(PCG100万単位中カリウムが1.53 mEq含有)
    • 腎機能低下患者や高用量投与時は特に注意
  7. Jarisch-Herxheimer反応
    • 梅毒などスピロヘータ感染症の治療時に発現
    • 症状:発熱、悪寒、頭痛など(約1日持続)
    • 対策:事前に説明し、症状が強ければNSAIDsプレドニゾロン投与を検討

主な相互作用

  1. 経口避妊薬(ピル)との相互作用
    • ペニシリン内服により腸内細菌叢が変化し、卵黄ホルモンの腸管からの再吸収が抑制される
    • 結果として経口避妊薬の血中濃度が低下し、避妊効果が減弱する可能性
    • 対策:ペニシリン服用中は他の避妊方法の併用を検討
  2. ワーファリンとの相互作用
    • 抗菌剤は腸内細菌叢に影響を与え、ビタミンK産生菌を減少させる
    • 結果としてワーファリンの抗凝固作用が増強される可能性
    • 対策:併用時はPT-INRのモニタリングを頻回に行う
  3. アミノグリコシド系抗菌薬との相互作用
    • 特にPIPCとアミノグリコシド系薬は混合すると活性が低下
    • 対策:時間をあけて別々に投与する
  4. プロベネシドとの相互作用
    • ペニシリン系薬の尿細管分泌を阻害し、血中濃度を上昇させる
    • 場合によっては意図的に併用することもある

臨床使用上の注意点として、PCGの高用量投与時には血管痛や静脈炎が生じやすいため、溶解液量を増やす(例えば通常1回投与あたり100 mLの溶解液を250 mLに増量する、または500 mLに溶かし持続投与にする)、長時間(例えば2時間以上)かけて投与するなどの工夫が有効です。

また、ペニシリン系抗菌薬は腎排泄型の薬剤が多いため、腎機能低下患者では用量調整が必要です。一般的に、クレアチニンクリアランスに応じて投与量や投与間隔を調整します。

ペニシリン系薬の地域差による使用パターンと耐性率の関連性

ペニシリン系抗菌薬の使用パターンには、国や地域によって大きな差があり、それが耐性菌の発生率にも影響を与えています。この地域差を理解することは、グローバルな抗菌薬耐性対策において重要な視点です。

日本では、セフェム系抗菌薬の使用率が高く、ペニシリン系抗菌薬の使用は欧米諸国と比較して少ない傾向にあります