ペミロラストの効果とメカニズム
ペミロラストの基本的薬理作用と効果
ペミロラスト(一般名:ペミロラストカリウム)は、アレルギー性疾患治療剤として広く使用されている薬剤です 。本薬剤の主要な効果は、マスト細胞のイノシトールリン脂質代謝を阻害することにより、ケミカルメディエーターの遊離に重要な細胞外Ca²⁺の流入と細胞内Ca²⁺の遊離を強く抑制することです 。
参考)医療用医薬品 : ペミロラストK (ペミロラストK錠5mg「…
臨床効果として、気管支喘息患者に対する比較試験では、ペミロラスト群で極めて有用例が13.3%、有用以上が47.6%の改善率を示し、対照薬のトラニラスト群(極めて有用1.0%、有用以上21.9%)と比較して統計学的に有意な優位性が確認されています 。
アレルギー性鼻炎に対しても、ペミロラスト群で極めて有用例が9.7%、有用以上が46.9%の改善率を達成し、トラニラスト群(極めて有用6.4%、有用以上26.6%)を上回る効果を示しています 。
ペミロラスト効果の分子レベル作用機序
ペミロラストの効果は、複数の分子標的に対する阻害作用によって発揮されます 。具体的には、ホスホジエステラーゼ阻害に基づくc-AMP増加作用の関与が示唆されており、これがマスト細胞の安定化に寄与していると考えられます 。
参考)https://pins.japic.or.jp/pdf/newPINS/00070904.pdf
ヒト肺組織、鼻粘膜擦過片、末梢白血球、ラット腹腔浸出細胞からのヒスタミン、ロイコトリエン(B₄、D₄、SRS-A)、プロスタグランジンD₂、トロンボキサンA₂、PAF(血小板活性化因子)の遊離を用量依存的に抑制することが確認されています 。
参考)ペミラストン錠10mgの効能・副作用|ケアネット医療用医薬品…
さらに、好酸球機能に対する効果として、ヒト好酸球のPAF刺激による遊走を抑制し、ヒト好酸球からのロイコトリエンC₄、ECP遊離を抑制することが明らかになっています 。モルモット好酸球からのEPO、活性酸素遊離も抑制するため、アレルギー性炎症の多面的な制御が可能です 。
ペミロラスト効果の臨床応用とエビデンス
点眼液製剤での効果検証では、ペミロラストカリウム点眼液0.1%と2%クロモグリク酸ナトリウム点眼液の比較試験が実施されています 。アレルギー性結膜炎に対してペミロラストは67%、クロモグリク酸は68%の有効率を示し、春季カタルでは60%対61%と同等の効果が確認されました 。
参考)医療用医薬品 : ペミロラスト (ペミロラストK点眼液0.1…
投与回数の比較では、1日2回投与でアレルギー性結膜炎68%、春季カタル67%の有効率を達成し、1日4回投与(71%、50%)と比較しても遜色ない効果が得られています 。これは患者のQOL向上に重要な意味を持ちます。
ウサギ受動感作アレルギー性結膜炎モデルでは、2時間後に約60%の最高抑制率を示した後、40~50%程度の有意な抑制作用を12時間後まで維持することが確認されており 、持続的な効果が期待できます。
ペミロラスト効果の特殊な応用と最新知見
注目すべき研究として、パクリタキセルによる過敏反応に対するペミロラストの予防効果が報告されています 。従来、抗がん剤の過敏反応はヒスタミン遊離が原因と考えられていましたが、実際はサブスタンスPなどの神経ペプチド遊離が主因であることが判明しました 。
参考)https://www.jstage.jst.go.jp/article/fpj/142/5/142_255/_pdf
ペミロラストは、パクリタキセルによる知覚神経からのサブスタンスP遊離を抑制することで過敏反応を予防する新たなメカニズムが明らかになっています 。この効果は0.1 mg/kgという臨床用量(0.2 mg/kg)より少ない投与量で発現し、臨床応用の可能性が示唆されています 。
参考)https://kaken.nii.ac.jp/file/KAKENHI-PROJECT-20790154/20790154seika.pdf
さらに、シスプラチン投与による遅発性悪心・嘔吐に対しても、ペミロラストの反復投与により脳脊髄液中のサブスタンスP含有量増加が有意に抑制されることが確認されており 、がん化学療法支持療法への応用展開が期待されています。
ペミロラスト効果の安全性プロファイル
ペミロラストの副作用発現頻度は比較的低く、主な副作用として過敏症(発疹、そう痒、蕁麻疹、浮腫)、精神神経系症状(眠気、倦怠感、頭痛)、消化器症状(腹痛、嘔気)が報告されています 。
参考)ペミロラストKドライシロップ0.5%「マイラン」の効能・副作…
内服薬での使用成績調査では、19,665例中336例(1.71%)に449件(2.28%)の副作用が認められましたが 、重篤な副作用は稀であり、長期投与においても安全性が確認されています。
参考)https://pins.japic.or.jp/pdf/medical_interview/IF00001529.pdf
点眼液製剤では、眼瞼炎、眼刺激、結膜充血、眼脂などの局所的副作用の報告はありますが 、頻度は1%未満と低く、日常診療での使用に際して重大な懸念はありません。
薬物動態の検討では、成人での半減期は4.31~4.74時間で 、1日2回投与により有効血中濃度が維持され、患者のアドヒアランス向上にも寄与しています。