パーキンソン症候群の症状と診断
パーキンソン症候群における運動症状の特徴
パーキンソン症候群の運動症状は、パーキンソン病と共通する4大症状を呈しますが、原因疾患によって出現パターンに違いがあります。動作緩慢(無動・寡動)は、素早い動作ができなくなり、動きが小さくなる症状で、動作の開始に時間がかかることが特徴的です。筋強剛(筋固縮)では、筋肉がこわばり身体がスムーズに動かなくなり、歯車のように規則的な動きになる歯車現象や、こわばりが続く鉛管現象を認めます。
安静時振戦は4~5Hzのゆっくりとした震えで、座って何もしていない時や寝ている時に手足が小刻みに震えるのが特徴です。動いたり何かしようとするときには震えが止まることが多く、左右差を伴うことが一般的です。姿勢反射障害は進行すると出現する症状で、立っているとき軽く押されるとバランスを崩し、元に戻しづらくなって転倒しやすくなります。
参考)パーキンソン病になりやすい人の特徴とは|職業が関係ある? |…
パーキンソン症候群では、これらの症状に加えて、表情が乏しくなる、しゃべりにくさ(構音障害)、飲み込みにくさ(嚥下障害)、よだれが出やすい(流涎)なども認められます。歩行時には腕振りの低下、足の引きずり、加速歩行などが目立ち、字が小さくなる小字症や、料理・食事・入浴などの日常動作に時間がかかるようになります。
参考)パーキンソン病に伴う症状(運動症状について) – 独立行政法…
パーキンソン症候群の非運動症状と自律神経障害
パーキンソン症候群における非運動症状は、患者のADLやQOLに大きく影響する重要な病態です。自律神経障害は頻度の高い症状で、中枢神経のみならず末梢神経、自律神経にもαシヌクレインが沈着することが原因と考えられています。便秘、循環機能障害、排尿障害、性機能障害、発汗障害、流涎などの多彩な症状を認めます。
参考)https://www.jstage.jst.go.jp/article/jjrmc/56/3/56_56.204/_pdf
認知・精神機能障害としては、認知機能低下、意欲低下、うつ症状などが出現します。これらの症状は運動症状の発現以前から出現することも多く、premotor symptomとも呼ばれています。睡眠障害では、レム睡眠行動障害が特徴的で、診断においても参考にされる重要な症状です。
参考)パーキンソン病について – 慶應義塾大学病院 パーキンソン病…
イタリアの多施設共同研究PRIAMO studyでは、パーキンソン病患者1,072人を対象とした調査の結果、98.6%という高率で何らかの非運動症状を認めることが示されています。感覚障害や嗅覚障害も非運動症状の一つで、特に嗅覚障害は早期から出現することが知られており、診断の補助的情報として活用されます。
参考)https://www.jstage.jst.go.jp/article/naika/104/8/104_1546/_pdf
パーキンソン症候群の原因疾患と分類
パーキンソン症候群は明らかな原因があってパーキンソン病に似た症状が出る状態を指し、原因により大きく変性疾患と非変性疾患に分類されます。薬剤性パーキンソニズムは、抗精神病薬や吐き気止めなど特定の薬の副作用によって現れるもので、定型抗精神病薬、非定型抗精神病薬、消化器系薬剤、抗てんかん薬などが原因となります。原因薬剤の中止により症状は改善することが多いですが、投与量が増えるほどドパミン受容体の遮断作用が強くなり発症リスクが高まります。
血管性パーキンソニズムは、脳の小さな血管が詰まったり損傷したりすることで起こり、特に下半身の症状が強く「すくみ足」と呼ばれる歩行障害が特徴的です。多発性脳梗塞やBinswanger型白質脳症が原因となり、歩行障害(小刻み歩行、転びやすい)などの症状がメインで上肢の症状は乏しく、抗パーキンソン病薬が効きにくいという特徴があります。
参考)https://www.jstage.jst.go.jp/article/geriatrics/44/5/44_5_564/_pdf
変性疾患によるパーキンソン症候群としては、進行性核上性麻痺、大脳基底核変性症(大脳皮質基底核変性症)、多系統萎縮症、レビー小体型認知症などがあります。進行性核上性麻痺では眼球運動の障害や転倒しやすさ、首が後ろに反りやすいといった特徴があり、多系統萎縮症ではパーキンソン症状に加えて自律神経症状(血圧低下、排尿障害など)や小脳症状(ふらつき、言葉の不明瞭さなど)を伴います。
参考)パーキンソン症候群 – 独立行政法人国立病院機構 南京都病院
パーキンソン症候群の鑑別診断と画像検査
パーキンソン症候群の診断は、臨床所見(症状)、画像所見、治療の効果などから総合的に行われます。まず運動緩慢がみられるかどうか、加えて振戦、筋強剛といった他の運動症状の有無(パーキンソニズムの確認)を評価します。画像検査は、症状だけでは他の疾患との鑑別が難しい場合に、脳の構造や機能に変化があるかどうかを評価する重要なツールとなります。
パーキンソン病の診断方法について詳しく解説された大塚製薬の公式サイト
頭部MRIは脳の構造や異常を評価するための検査で、パーキンソン病では一般的に異常は見られませんが、パーキンソン症候群の原因疾患に見られる器質病変を認めないことが診断基準として重要です。進行性核上性麻痺とパーキンソン病を鑑別する際には、頭部MRI正中矢状断の中脳上面の形状評価が有用で、中脳上面の形状が上に凸であれば正常またはパーキンソン病、凹であれば進行性核上性麻痺が疑われます。
MIBG心筋シンチグラフィは心臓での交感神経の活動を反映する検査で、パーキンソン病、レビー小体型認知症で低下しますが、その他のパーキンソン症候群では正常値を示すことが多く鑑別に有用です。ドパミントランスポーターシンチグラフィ(DATスキャン®)は、CT検査やMRI検査では捉え難い特異的な機能障害を捉えることができる検査です。
参考)https://www.jmedj.co.jp/blogs/product/product_5159
薬剤性パーキンソニズムの鑑別では、MIBG心筋シンチグラフィが重要な役割を果たします。純粋な薬剤性パーキンソニズムの患者は両検査ともに正常値を呈しますが、MIBG心筋シンチグラフィが低下している症例は、もともとパーキンソン病に移行する素因のある患者である可能性が示唆されています。
参考)https://www.mhlw.go.jp/topics/2006/11/dl/tp1122-1c47.pdf
パーキンソン症候群の治療アプローチと薬剤選択
パーキンソン症候群の治療は、原因疾患によって大きく異なるアプローチが必要です。薬剤性パーキンソニズムでは、原因となった薬剤の段階的な減量や中止を基本とし、必要に応じて抗パーキンソン病薬を併用します。突然の薬剤中止は避け、慎重な減量スケジュールを組み立てながら治療を進めることが重要です。
運動症状の治療には、ドパミンの補充を目的としてL-ドパと呼ばれる薬剤(ドパコールLなど)を投与することが主座となります。L-ドパは脳内で代謝されドパミンに変わり効果を発揮しますが、長期間使用し続けるとウェアリングオフやジスキネジアなどの運動合併症が出る場合があります。このため、L-ドパ製剤には末梢でのL-ドパの代謝を抑える薬剤との配合製剤が主に使われています。
参考)https://parkinson-smile.net/treatment/p1.html
パーキンソン病治療薬の種類と特徴について専門的に解説されたサイト
ドパミンアゴニスト(ドパミン受容体作動薬)は、ドパミンに似た作用を持つ物質で、脳内でドパミンと同じようにドパミン受容体に結合し効果を発揮します。L-ドパと比較して作用時間が長く血中濃度が安定するため、ウェアリングオフやジスキネジアを生じにくいという利点があります。徐放剤や貼付剤もあり、より安定した効果が期待できるようになっています。
抗パーキンソン病薬の投与では、抗コリン薬、ドパミン作動薬、アマンタジン、L-ドパ製剤などが用いられ、低用量から開始して効果を見ながら徐々に増量し、薬剤の組み合わせによる相乗効果を活用することが一般的です。患者の年齢や腎機能に応じた投与量の調整、定期的な効果判定による投与量の微調整、長期的な服薬継続による治療効果の維持が重要となります。
血管性パーキンソニズムや進行性核上性麻痺、多系統萎縮症などの変性疾患によるパーキンソン症候群では、抗パーキンソン病薬の効果が得られにくいことが多く、対症療法やリハビリテーションを中心とした包括的なアプローチが必要です。
参考)血管性パーキンソニズム|各務原市でパーキンソン症候群にお悩み…
パーキンソン症候群の進行性核上性麻痺と多系統萎縮症における特異的症状
進行性核上性麻痺(PSP)は、中年期以降に発症し、淡蒼球、視床下核、小脳歯状核、赤核、黒質、脳幹被蓋の神経細胞が脱落する疾患です。初発症状はパーキンソン病に似ていますが、安静時振戦はまれで、転倒で発症することが多く、姿勢を保持できずバランスを崩す、足がすくむ、歩いている時に加速するといった症状によって転倒しやすくなります。
参考)進行性核上性麻痺(指定難病5) href=”https://www.nanbyou.or.jp/entry/4115″ target=”_blank”>https://www.nanbyou.or.jp/entry/4115amp;#8211; 難病情報セン…
上下方向の眼球運動障害が平均3年目に出現し、その後水平方向も障害されることが特徴的で、これが「核上性の眼球運動麻痺が進行性に現れる」という病名の由来となっています。筋強剛は左右対称性で頚部・体幹に強い傾向があり、姿勢は直立しがちで進行すると頚部が後屈します。また、目が開けにくくなり瞬きが少なくなるという特徴もあります。
進行性核上性麻痺の詳細について難病情報センターの公式情報
多系統萎縮症(MSA)は、中年期以降に発症する弧発性の神経変性疾患で、小脳症状、パーキンソニズム、自律神経症状を特徴とします。パーキンソン症状に加えて、血圧低下や排尿障害などの自律神経症状、ふらつきや言葉の不明瞭さなどの小脳症状を伴うことが診断の重要なポイントです。
前頭葉の働きが落ちるため、危険に対する注意力・判断力が低下するとともに抑制が効かなくなり、転倒リスクを生じることも進行性核上性麻痺の特徴です。認知症を伴う患者は進行が早い傾向があり、パーキンソン病の治療薬であるレボドパは効きにくいことが多く、症状はパーキンソン病より早く進行します。神経病理学的には、中脳と大脳基底核に萎縮、神経細胞脱落、神経原線維変化、グリア細胞内封入体が出現し、アストロサイトの房状アストロサイト(tufted astrocytes)が特異的な病理学的所見とされています。