親水クリームとワセリンの違い
親水クリームの基剤とワセリンの違いを整理
親水クリームは、日本薬局方の「親水クリーム」として流通している基剤で、添付文書上も「基剤として調剤に用いる。また、皮膚保護剤として用いる」と用途が明記されています。
一方でワセリン(白色ワセリンなど)は、一般に油脂性基剤として“皮膚表面を覆って水分を逃しにくくする(閉塞性)”方向の使い分けがされ、処方現場では「保護のベース」として登場する頻度が高い剤形です。
医療従事者が押さえたいのは、両者の違いが「保湿力の強弱」だけでなく、「基剤構造(乳剤か、油脂か)」に起因する塗り心地・混合のしやすさ・水分との相互作用に直結する点です。
参考)https://kkrpapayaku.com/sinsuikyusui/
親水クリームの具体的な組成例として、白色ワセリン、ステアリルアルコール、プロピレングリコール、界面活性剤(ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油60)、防腐剤(パラベン類)、精製水が挙げられており、“水を含むクリーム基剤”であることが成分表からも読み取れます。
参考)https://www.pmda.go.jp/PmdaSearch/iyakuDetail/ResultDataSetPDF/480162_7122704X1250_3_01
ここを患者説明に落とすなら、「親水クリーム=水も入っていてのびが良い」「ワセリン=油の膜で守る」という二軸で伝えると誤解が減ります。
参考)みやび日記: 白色ワセリン、親水ワセリン&#1…
ただし医療用の親水クリームでも、副作用として接触皮膚炎が頻度不明ながら記載されているため、「合わない赤み・かゆみが出たら中止して相談」という安全網は必ずセットで伝えるべきです。
参考)親水クリーム「ニッコー」の効能・副作用|ケアネット医療用医薬…
親水クリームの成分と白色ワセリンの組成の違い
親水クリームは“白色ワセリン単体”ではなく、乳化に必要な成分が多数入った製剤です。
例えばPMDA掲載の親水クリーム「東豊」では、1g中に白色ワセリン250mg、ステアリルアルコール200mg、プロピレングリコール120mg、界面活性剤(ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油60)40mg、ほか精製水などが含まれています。
つまり親水クリームは、油(ワセリン等)と水を“同じ器に安定して共存させる”ための設計が最初から入っており、単なる「やわらかいワセリン」ではありません。
この差は、混合調剤で水溶性薬剤を扱う場面や、患部の状態(乾燥優位か、軽い滲出があるか)を見て基剤を選ぶ場面で効いてきます。
また、親水クリームには防腐剤(パラオキシ安息香酸メチル/プロピル等)が入る例があり、長期使用や敏感肌では「ワセリンより刺激になり得る要素がある」ことを頭の片隅に置くと、原因検索(何でかぶれたか)がやりやすくなります。
逆にいえば、ワセリンは比較的シンプルな油脂性基剤として選びやすい反面、“べたつく・のびにくい・混合でダマになりやすい”といった運用面の課題を抱えやすい、という整理になります。
親水クリームの吸水と冷却とワセリンの密封の違い
親水クリームは乳剤性基剤の一つで、外相が水(o/w)と整理されることが多く、水分が蒸散しやすい結果として皮膚を冷却しやすい特徴が解説されています。
この「蒸散→冷却」という性質は、かゆみの強い乾燥性皮膚で“塗った直後に楽になる”と感じさせる要素になり得ますが、同時に「水分が飛びやすい=保護膜としての持続は条件次第」とも言い換えられます。
一方ワセリンは、皮膚表面に油性の膜を作りやすく、外からの刺激(摩擦・汚染・水仕事など)に対するバリアとして使われる文脈が強いです。
そのため、「乾燥が主体で、ひび割れ・刺激が問題」「水仕事で荒れる」などではワセリンの“守り”が生きる一方、熱感やべたつきが患者の負担になるケースでは親水クリームの方が受け入れられることがあります。
臨床の小技としては、“日中は親水クリームで使用感を優先、就寝前はワセリンで保護を優先”のように、患者の生活導線に合わせて説明するとアドヒアランスが上がりやすいです。
ただし、患部が明らかに湿潤・滲出優位で密封が悪化要因になり得る局面では、どの基剤でも「覆い方・使い方」まで含めた再評価が必要です。
参考)https://tch.or.jp/asset/00032/renkei/CCseminar/20150223jokuso.pdf
親水クリームの皮膚保護とワセリンの使い分け
親水クリームは添付文書上も「皮膚保護剤として用いる」とされ、単なる“混ぜるための基剤”ではなく、単独でも皮膚保護目的で運用される前提があります。
同じくワセリンも、保湿・保護目的で定番ですが、実務では「どこを守りたいのか(角層水分か、刺激からの隔離か)」で選ぶと判断がブレにくくなります。
使い分けの現場例(医療従事者向けの説明フレーズ)を、あえて短文化すると次の通りです。
- 親水クリーム:のびが良く塗りやすい、さっぱりしやすい、混合調剤で扱いやすい。
- ワセリン:刺激から守る膜を作りやすい、乾燥・亀裂の“保護”に寄せやすい、成分がシンプルで選びやすい。
- どちらも:赤み・かゆみ・ヒリつきが出たら中止し、接触皮膚炎も含めて評価する。
なお、親水クリームは製品により組成が規格化されているため、採用品目の添付文書(PMDA等)を1回チームで共有しておくと、看護・薬剤・医師間の“同じ言葉で話す”が成立しやすくなります。
親水クリームの意外な視点:混合調剤のリスクとワセリンの落とし穴
検索上位では「親水クリーム=水分多めで軽い」「ワセリン=重い」といった使用感比較に寄りがちですが、医療安全の観点での“意外な盲点”は「混合すると均一に見えても、実は均一でないことがある」点です。
親水クリームは界面活性剤を含むため混ざりやすい一方、混合相手(粉砕薬、外用薬、含水の有無)によっては、見た目が滑らかでも有効成分が偏って塗布量がブレる可能性があり、調剤手順の標準化(混合順、練合時間、必要なら軟膏板の使い分け)が重要になります。
ワセリン側の落とし穴は、“保護”が強いがゆえに、患部状況によっては不適切な密封になりうることです。
とくに感染や壊死が強い創部・炎症が強い局面では、密封や貼付材の扱いが創を悪化させ得るという一般的注意点が示されており、「何を塗るか」だけでなく「どう覆うか」「いつ中止するか」まで説明に含める必要があります。
このセクションを患者指導に翻訳するなら、「ベタつくから悪い/さっぱりだから良い」ではなく、「今の皮膚状態に合う“守り方”を選ぶ」という枠組みに変えるのが有効です。
結果として、親水クリームとワセリンの違いは“好み”ではなく、“基剤の設計思想(乳剤 vs 油脂)”と“皮膚の状態(乾燥・湿潤・刺激・生活背景)”の組み合わせで決まる、という臨床的に説明しやすい結論になります。
【親水クリームの組成・効能効果・副作用(接触皮膚炎)を確認できる】
