オートファジー効果と健康への影響

オートファジーの効果

オートファジーがもたらす主な効果
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細胞の若返り効果

古くなったタンパク質や細胞小器官を分解・再利用することで細胞を新品同様に保つ働き

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老化抑制と疾患予防

神経変性疾患、糖尿病、がん、心不全などの加齢性疾患の発症リスクを低減

エネルギー代謝の改善

飢餓状態で細胞内成分を分解し栄養源として再利用することで生命活動を維持


オートファジーは細胞内の物質を分解するリサイクルシステムとして、生命維持に欠かせない重要な働きを担っています。この機能により、細胞は常に健康な状態を保ち、さまざまな障害から身を守ることができます。近年の研究では、オートファジーが老化抑制や健康長寿に深く関わることが明らかになってきました。

参考)https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC6424591/


オートファジーという名称は「自己(auto)」と「食べる(phagy)」を組み合わせた言葉で、文字通り細胞が自分自身の一部を食べる現象を指します。細胞内には常に古くなったタンパク質や傷ついた細胞小器官が存在しますが、オートファジーはこれらを「オートファゴソーム」という袋で包み込み、「リソソーム」という分解酵素を含む小器官と融合させて分解します。分解された成分はアミノ酸などの代謝物として再利用され、新しいタンパク質の材料やエネルギー源となります。

参考)https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC9652773/

オートファジーによる老化防止効果

オートファジーは老化を抑制する重要なメカニズムとして注目を集めています。加齢とともにオートファジーの活性は低下し、変性タンパク質や異常なミトコンドリアなどが細胞内に蓄積することが知られています。これらの蓄積は細胞老化の大きな特徴であり、異常なミトコンドリアから放出される活性酸素種(ROS)の増加が老化による細胞障害を加速すると考えられています。

参考)https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC9835585/


大阪大学の研究グループは、オートファジーの抑制因子である「ルビコン」というタンパク質を抑制することで、オートファジーが活性化され、マウスの寿命が延びることを発見しました。さらに、老化現象の進行が緩やかになったり改善したりすることも確認されています。転写因子MondoAはルビコンを抑制することでオートファジー活性を維持し、細胞老化を抑制することが明らかになっています。

参考)【公式】オートファジーでノーベル賞、オートファジー研究の最前…


実験動物を用いた研究では、オートファジー関連遺伝子が複数の長寿モデルにおいて寿命延長に必須であることが示されており、線虫やショウジョウバエでもオートファジーのアンチエイジング効果が確認されています。これらの知見から、加齢によるオートファジー活性の低下を防ぐことで老化防止効果が期待されます。

参考)https://www.jpn-geriat-soc.or.jp/publications/other/pdf/perspective_geriatrics_48_6_606.pdf

オートファジー効果による疾患予防

オートファジーによる細胞成分の代謝回転と有害物の隔離除去は、神経変性疾患、がん、2型糖尿病動脈硬化、感染症、心不全、炎症性疾患などさまざまな疾患の発症や進行を抑制する重要な働きを持っています。老化は多くの疾患で最大のリスクファクターであり、循環器疾患、認知症、がんなどは加齢とともに発症リスクが増大します。

参考)https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC11077378/


奈良県立医科大学の中村修平教授は「老化メカニズムの根本を解明して介入することができれば、多くの疾患の発症リスクを同時に下げ、健康寿命を延伸することができる」と指摘しています。神経系においては、オートファジーがアルツハイマー病パーキンソン病ハンチントン病などの神経変性疾患に重要な役割を果たし、細胞の恒常性を維持しています。

参考)https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC10912456/


糖尿病との関係では、研究によって複雑な側面が明らかになっています。糖尿病患者においてオートファジーが減少していることが報告されている一方で、オートファジーの活性化がインスリン感受性を向上させ、糖尿病の改善につながる可能性も示されています。糖尿病モデルマウスでは、オートファジーを活性化することでグルコース代謝異常や脂肪蓄積の改善が見られたことが報告されています。順天堂大学の研究では、インスリンを分泌する膵β細胞の機能維持にもオートファジーが寄与していることが明らかになっています。

参考)糖尿病における膵β細胞オートファジーの変化を明らかに|ニュー…


哺乳類のオートファジーと老化・疾患の関係について詳しく解説した日本血栓止血学会誌の総説

オートファジー活性化による断食効果

断食やカロリー制限はオートファジーを活性化させる最も効果的な方法の一つです。細胞が飢餓状態に置かれると、栄養状態のセンサーの役割をするTORC1という酵素の働きが変化し、オートファジーが始まります。16時間の断食と8時間の食事時間を組み合わせた「オートファジーダイエット」は、この仕組みを利用した健康法として注目されています。

参考)https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC10509423/

断食によるオートファジー活性化の効果として、以下が報告されています:

最近の研究では、間欠的な時間制限給餌(iTRF)が概日リズム依存的なオートファジーの活性化を通じて、ハエの健康寿命と寿命を延長することが示されています。夜間特異的なオートファジーの誘導が、iTRFによる健康効果に必要かつ十分であることが明らかになりました。

参考)https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC9037462/

オートファジー機能の健康的な活性化方法

オートファジーを活性化するためには、生活習慣の改善が重要です。薬剤を使用しなくても、日常的な取り組みでオートファジーを維持・活性化できることが分かっています。

参考)【公式】オートファジーとは何か?お菓子のUHA味覚糖が世界一…

運動による活性化

適度な運動はオートファジーを活性化することが知られており、特にウォーキングなどの有酸素運動はより効果的とされています。運動によって細胞がストレスを受けると、細胞内の品質管理システムとしてオートファジーが働き、細胞の健康が保たれます。

参考)【公式】オートファジーを活性化する注目の成分ウロリチンとレス…

食事による調整

高脂肪食は肝臓のオートファジーを低下させるため、脂っこい食事は控えたほうが良いとされています。カロリー制限によりオートファジー活性化を介した寿命延長が起こることが知られているため、腹八分目を心掛け、間食を避けることも効果的です。ただし、過度なカロリー制限は筋力や免疫機能の低下につながる可能性があるため注意が必要です。

参考)哺乳類のオートファジー~疾患や老化との関わりを中心に~

睡眠の重要性

十分な睡眠を取ることもオートファジーの維持に重要です。細胞の修復プロセスは睡眠中にも活発に行われるため、質の良い睡眠はオートファジー機能を支えます。

参考)細胞が若返るオートファジー機能 活性化で老いを抑制 – 日本…


大阪大学の吉森栄誉教授は「よく眠って適度な運動をし、脂っこい食事をひかえて腹八分目程度にする、という心がけでオートファジーは維持される」と述べています。これらの生活習慣は古くから健康長寿のために実践されてきたものであり、オートファジーの活性化を介して健康長寿につながることが最近の研究で明らかになっています。​

オートファジーダイエット実践時の注意点

オートファジーダイエットを安全に実践するためには、いくつかの重要な注意点があります。間違った方法で行うと、健康を害する可能性があるため、正しい知識を持って取り組むことが大切です。

参考)【医師監修】オートファジーダイエットの危険性&安全に行うため…

持病がある方は実施を避ける

糖尿病体質の方や持病を持っている方は健康被害が出やすいため、オートファジーダイエットはおすすめできません。どうしても実施したい場合は必ず医師に相談する必要があります。持病がない方も、体調が優れないときは無理に実施しないことが重要です。​

断食後の血糖値管理

断食後の食事では血糖値の急上昇に注意が必要です。空腹期間が長いほど食後の血糖値は急上昇しやすくなるため、断食後の最初の食事は消化の良いものから始め、徐々に通常の食事に戻すことが推奨されます。​

無理な空腹は避ける

オートファジーダイエットでは飢餓状態を作ることが重要ですが、耐えられない空腹感は身体が発する危険信号です。無理に空腹に耐えるのではなく、ナッツやヨーグルトなどで小腹を満たすようにしましょう。​

体を冷やさない工夫

断食中は食事が液体のみとなるため体温が低下しやすく、消化吸収による熱エネルギーを得られないため、冷えを感じやすくなります。断食中は防寒をはじめ、こまめに白湯を飲む、適度に運動するなど体を冷やさないための工夫が必要です。​

暴飲暴食に注意

オートファジーダイエットでは食事できる時間が8時間以内に限定されるため、その結果として暴飲暴食しやすくなる可能性があります。食事時間内でも栄養バランスの良い食事を心がけ、過度な食べ過ぎには注意が必要です。

参考)https://www.kyoritsu-biyo.com/column/slim/ng-foods-on-diet/


オートファジー活性化薬の開発も進められており、健康的な食事や運動と同等の効果をもたらす代替治療戦略として期待されています。オートファジー活性化薬は感染症に対しても治療薬となることが期待されており、易感染性という副作用が少ない点も注目されています。​
奈良県立医科大学オートファジー・抗老化研究センターによる加齢性疾患予防の最新研究