温罨法の禁忌と注意点

温罨法の禁忌と適応

温罨法を避けるべき主な状態
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出血傾向・血栓がある場合

血管拡張と血流増加により出血を助長し、血栓が遊離して重大な合併症を引き起こす恐れがあります

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急性炎症・関節リウマチ

代謝が上がることで炎症症状が増悪し、腫脹や疼痛が悪化する可能性があります

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消化管閉塞・穿孔の疑い

腸蠕動亢進により狭窄部の内圧が上昇し、穿孔を起こすリスクがあります

温罨法が禁忌となる疾患と症状

温罨法は温熱刺激によって血管を拡張させ、血流を増加させる効果があります。しかし、この作用が逆効果となる病態では使用を避ける必要があります。

参考)温罨法とは|目的・効果・注意点 〜根拠がわかる看護技術


出血傾向のある患者さんでは、血管拡張と血流増加により出血を助長する恐れがあるため、温罨法は禁忌です。抗凝固療法を受けている患者さんや、血小板減少症のある患者さんなどは特に注意が必要となります。

参考)温罨法・冷罨法のポイントと実施方法【いまさら聞けない看護師手…


血栓がある場合も温罨法を実施してはいけません。血流増加によって血栓が剥がれて遊離し、心臓や肺などの重要な臓器の血管に詰まる危険性があるためです。深部静脈血栓症虚血肢のある患者さんには、温罨法の実施を避けることが求められます。

参考)QBN2019_web立読み


急性炎症がある部位への温罨法も禁忌とされています。急性炎症では局所の血管が拡張し、痛み物質が放出されている状態です。この時に温罨法を行うと代謝がさらに上がり、発赤・腫脹・疼痛などの炎症症状が増悪してしまいます。

参考)看護師国試対策|温罨法の効用と効果、適切な実施方法、温罨法の…


関節リウマチ痛風発作による疼痛がある場合も、温罨法は禁忌です。これらの疾患では急性期の炎症反応が生じており、温熱刺激によって症状が悪化する可能性が高いためです。慢性期の関節リウマチでは温罨法が有効な場合もありますが、急性期では必ず避ける必要があります。

参考)看護師国家試験 第103回追試改変 午後85問|看護roo!…


悪性腫瘍のある部位に温罨法を実施すると、代謝が上がることで腫瘍細胞の増殖や転移を早める恐れがあります。がん患者さんへの温罨法実施時には、腫瘍の部位を避けることが重要です。​

温罨法が禁忌となる消化器系の状態

消化管閉塞や穿孔の疑いがある患者さんへの温罨法は禁忌です。温熱刺激により腸蠕動が亢進すると、閉塞部位の内圧が上昇し、穿孔を起こす危険性が高まります。

参考)https://jsnas.jp/system/data/20160613221133_ybd1i.pdf


絞扼性イレウス(絞扼性腸閉塞)では、腸管が捻転や嵌頓により血流障害を起こしている状態です。この場合に温罨法を行うと、症状が悪化する可能性があるため実施してはいけません。一方、麻痺性イレウスでは腸管運動が減弱しているため、温罨法が効果的な場合もあります。​
消化管自体に穿孔がある場合、温罨法によって出血を促進してしまうリスクがあります。消化管閉塞のある患者さんの腸管を刺激することで、万が一消化管穿孔を起こした際に、温罨法が出血を助長することに繋がってしまうのです。

参考)https://kango-oshigoto.jp/hatenurse/article/1363/


術後の創部痛に対しても温罨法は禁忌となります。血流増加作用のある温罨法は、術後の再出血を誘発する危険性があるためです。術後患者さんへの疼痛緩和には、他の方法を選択する必要があります。​

温罨法実施時に注意が必要な患者さん

意識障害や知覚鈍麻・麻痺がある患者さんでは、熱さを正しく感じることができないため、温罨法実施時には特に注意が必要です。看護師が継続して観察できない場合は、実施を避けるべきとされています。​
糖尿病性神経障害のある患者さんも、知覚が低下しているため熱傷のリスクが高くなります。高齢者も同様に知覚が低下していることが多く、慎重な対応が求められます。

参考)https://kango-oshigoto.jp/hatenurse/article/9101/


鎮静剤や睡眠薬を使用している患者さんは、熱さへの反応が鈍くなっているため、低温熱傷を起こしやすい状態です。これらの薬剤を使用している場合は、温罨法の実施を控えるか、より慎重な観察が必要となります。

参考)https://www.med-safe.jp/pdf/report_2010_3_R003.pdf


皮膚が脆弱な患者さんや全身衰弱が激しい患者さんでは、温罨法の実施可否を慎重に検討する必要があります。実施する場合は、温度や時間に配慮し、頻繁に皮膚の状態を観察することが重要です。​
血圧の変動が激しい患者さんへの温罨法も注意が必要です。温熱刺激により血管が拡張すると、血圧がさらに変動する可能性があります。

参考)https://www.kyoto1.jrc.or.jp/file/attachment/4046.pdf

温罨法による低温熱傷のリスクと予防

温罨法で最も多いトラブルは熱傷、特に低温熱傷です。皮膚に60~65℃以上の温熱刺激が加わると、組織細胞たんぱく質が熱凝固して細胞が死滅し、熱傷が生じます。

参考)看護技術の罨法(あんぽう)を習得しよう!温罨法と冷罨法の違い…


しかし、心地よさを感じる40℃程度の温度であっても、長時間にわたり温熱刺激を与え続けていると低温熱傷を起こすリスクがあります。40℃の温度でも6時間以上の接触で低温熱傷が発生する可能性があり、50℃では2~3分、46℃では数十分で低温熱傷を起こす恐れがあります。

参考)https://www.nara-kango.or.jp/pdf/m-20100107.pdf


低温熱傷を予防するためには、湯たんぽなどの温罨法用具を患者さんの身体から10cm程度離して配置することが重要です。直接皮膚に接触させないよう、必ず専用の布製カバーを使用し、麻痺側には使用しないことが基本原則となります。

参考)湯たんぽを患者の体から10cmほど離すのはなぜ?|温罨法


ゴム製の湯たんぽを使用する場合は、60℃程度のお湯を入れることが推奨されています。熱湯を入れるとゴムが劣化する恐れがあり、温度が高すぎると熱傷のリスクも高まります。金属製の湯たんぽでは80℃程度のお湯を使用しますが、必ずカバーに入れて使用します。

参考)温罨法の実施


電子レンジで温めたタオルによる熱傷事故も報告されています。電子レンジで加熱したタオルは部分的に非常に高温になっている場合があり、一見適温に感じても熱傷を起こす危険性があります。そのため、医療機関では電子レンジでの温罨法用タオルの加熱を禁止している施設も多くあります。

参考)https://www.med-safe.jp/pdf/report_2020_3_T003.pdf

温罨法の適切な実施方法と観察ポイント

温罨法を安全に実施するためには、事前のアセスメントが不可欠です。患者さんの全身状態、特に禁忌となる病態がないか、意識レベルや知覚の状態、皮膚の状態などを確認します。

参考)温罨法の手順〜根拠がわかる看護技術


使用する道具に破損や汚染がないか、温度が適切かを実施前に必ず確認します。湯たんぽの場合は水漏れがないかのチェックも重要です。ホットパックを使用する場合は、温度を確認してからバスタオルで巻いて使用します。

参考)https://kango-oshigoto.jp/hatenurse/article/7126/


実施中は定期的に患者さんの状態を観察することが大切です。効果が得られているか、発赤や水疱など皮膚の異常はないか、発汗や熱感はないか、症状が悪化していないかなどを継続的に確認する必要があります。​
温罨法の実施時間は通常15~20分程度とされていますが、患者さんの状態や目的によって調整します。長時間の実施は低温熱傷のリスクを高めるため、必要以上に長く実施しないよう注意が必要です。​
温罨法実施後は、皮膚の状態を再度確認し、発赤や水疱形成がないか、不快感や疼痛の訴えがないかを観察します。また、温罨法の効果として血流が促進されるため、脱水症状にならないよう水分摂取にも配慮が必要です。​
医療安全情報No.86「温罨法による熱傷」|独立行政法人医薬品医療機器総合機構

温罨法に関する医療事故事例と安全対策について詳しく解説されています。

温罨法Q&A|日本看護技術学会

温罨法の禁忌や実施方法についての専門的な情報がまとめられています。