オーバーラップ症候群と膠原病
オーバーラップ症候群 膠原病の定義
オーバーラップ症候群(重複症候群)は、同一患者に2種類以上の「診断確実な膠原病の病像」が同時に、あるいは経過中にみられる概念として説明されます。

実地臨床では「症状が混在している」だけでオーバーラップと断定せず、各疾患の診断基準(分類基準)を満たすかを丁寧に確認する姿勢が重要です。
一方、MCTDは「全身性エリテマトーデス(SLE)、全身性強皮症(SSc)、多発性筋炎(PM)の3疾患を不完全に混合し、抗U1-RNP抗体単独高値を特徴とする」とされ、複数疾患を完全に満たすオーバーラップ症候群とは概念上区別して整理されます。
医療従事者向けに強調したいのは、「オーバーラップ症候群」というラベルは便利である反面、診療計画(評価項目、治療強度、合併症スクリーニング)を曖昧にしやすい点です。
たとえばSLE様所見が目立つ時期と、強皮症様所見が前景に立つ時期が入れ替わるケースでは、初期に「未分化」「MCTD疑い」として経過観察しつつ、途中から「診断基準を満たした」段階でオーバーラップに再整理する、という動的な見立てが現実的です。
ここでありがちな落とし穴は、「MCTDだから軽いはず」「オーバーラップは重いはず」という先入観です。オーバーラップ症候群は単独の膠原病に比べ重症とされることがある一方、個々の臓器障害の組み合わせと重症度で最終的なリスクは大きく変わります。

つまり、ラベルよりも「どの臓器が、どの程度、どのスピードで侵されているか」を、繰り返し再評価することが診療の中心になります。

オーバーラップ症候群 膠原病の臨床症状
MCTDでは共通症状としてレイノー現象と手指のソーセージ様腫脹が高頻度とされ、日常診療では「じゃんけんのグーができない」といった訴えが重要な手がかりになります。
また、MCTDは内臓病変として肺高血圧症の頻度が高いことが強調され、症状が皮膚・関節中心に見えても呼吸循環器系の評価を後回しにしないことが要点です。

オーバーラップ症候群の臨床症状は、組み合わさった疾患の症状がそのまま併存して出現すると説明されます。

そのため、関節炎が強い患者でも「関節リウマチ(RA)として一元的に解釈」し過ぎると、皮膚硬化や筋力低下、間質性肺疾患などの別系統の赤旗所見を取り落とすリスクが上がります。
臨床の現場で役立つ整理として、以下のように「症状を疾患クラスターへ仮置き」して全体像を見直すと、オーバーラップの疑いを言語化しやすくなります。

- 🧊 レイノー現象、手指腫脹:MCTDで高頻度の共通症状として重要。
- 🫁 労作時息切れ、SpO2低下、胸部画像異常:肺高血圧症や間質性肺疾患の可能性を常に並走評価。
- 💪 筋力低下、CK上昇:多発性筋炎/皮膚筋炎様所見を疑い、薬剤性・内分泌性も除外。
- 🧬 皮膚硬化や末梢循環障害:強皮症様所見として、消化管症状や腎障害のスクリーニングへ接続。
さらに、あまり知られていない(ただし臨床で刺さる)ポイントとして、「症状が軽微でも肺高血圧症が予後規定因子になり得る」という点があります。MCTDでは肺高血圧症が5〜10%にみられ、予後に関わると記載されているため、軽症に見える症例ほど“評価の抜け”がダメージになります。
オーバーラップ症候群 膠原病の検査
検査の基本は「免疫学的所見を、臨床像の文脈に置く」ことです。MCTDでは抗U1-RNP抗体が単独高値となることが特徴とされ、診断・分類の中核に位置づけられます。
一方で、SLEや強皮症・皮膚筋炎に伴う自己抗体が同時にみられることもあるため、自己抗体パネルが「きれいに1疾患だけ」を示さないケースを想定しておく必要があります。
オーバーラップの示唆として臨床で覚えておくと有用なのが抗Ku抗体です。強皮症と多発性筋炎が重複した場合に抗Ku抗体が陽性となることがある、という説明があり、「皮膚硬化+筋炎」クラスターでは特に意識されます。

近年の研究では、抗Ku抗体陽性の筋炎が“overlap myositis / scleromyositis”のスペクトラムで議論され、筋生検で特徴的な所見を詳細解析した報告も出ています。
検査設計としては、以下のように「臓器評価」と「抗体評価」を同時に走らせると、取りこぼしが減ります。
- 🧪 血液:抗U1-RNP抗体、(状況により)疾患標識抗体、補体、血球減少、筋酵素などを総合。
- 🫁 肺・循環:心エコーで肺高血圧症を推定し、必要なら右心カテーテルで確定する流れを早期に計画。
- 🧭 全身:肺機能検査、胸部CTなどを組み合わせ、間質性肺疾患の重症度も並走評価。
「意外な落とし穴」として、抗体が多彩に陽性だと“診断の確からしさが上がった”ように錯覚しがちですが、MCTDの診断は他疾患の疾患特異的抗体が陽性の場合に慎重に行うべき、という注意が明確に書かれています。
つまり「抗体が増えるほどMCTDっぽい」ではなく、「抗体が増えるほどオーバーラップ/別疾患優位の可能性も上がる」という逆方向の解釈が必要になります。
オーバーラップ症候群 膠原病の治療
治療は「もっとも顕著な症状」や「予後を左右する臓器症状」に着目し、重症度に応じて各膠原病の一般的治療方針に従って決定する、というのが基本戦略です。

MCTDではステロイド治療が基本となり、必要に応じて免疫抑制剤を用いることがある一方、ステロイドに反応しにくい強皮症症状が残存することがある、と整理されています。
肺高血圧症については、心エコーで推定し右心カテーテルで診断する、という評価の流れが明記されており、治療面でも“原発性肺高血圧に準じた治療”という考え方が提示されています。
そして、膠原病性の肺高血圧症に対する免疫療法は評価が定まっていないが、ステロイドや免疫抑制薬が有効である場合が報告されている、という“グレーゾーン”の存在自体が臨床判断に重要です。
医療従事者向けの実務ポイントとしては、治療そのもの以上に「合併症の監視設計」が成否を分けます。侵襲されている臓器の状態により合併症は多彩で、肺症状には格段の注意を払うことが大事だと強調されています。

そのため、外来フォローのチェック項目を“疾患名別”ではなく“臓器別”に作り直すと、オーバーラップ診療の質が安定します。

- 🫁 呼吸:息切れの変化、心エコーのタイミング、胸部CT・肺機能の再検計画。
- 💊 薬剤:ステロイド反応性の評価、減量計画、免疫抑制剤併用時の感染対策。
- 🧠 神経:無菌性髄膜炎が鑑別に入る場面では感染性髄膜炎などを十分に除外する姿勢。
参考リンク(MCTDの診断基準2019、肺高血圧症の評価手順、抗U1-RNP抗体の位置づけがまとまっている)
参考リンク(MCTDとオーバーラップ症候群の定義、臨床症状、抗Ku抗体に触れた要点整理がある)

オーバーラップ症候群 膠原病の独自視点:抗Ku抗体と筋生検
検索上位の一般向け解説では、抗体の名前は出ても「その抗体が示唆する病態を、どう組織学で裏取りするか」までは踏み込まれにくいのが実情です。

しかし、抗Ku抗体関連の筋炎は稀少ながら、オーバーラップ(特に強皮症×筋炎)を臨床的に疑う場面で診断を前へ進めるカードになり得ます。
2024年の報告では、抗Ku抗体陽性で明確な筋炎を示す患者群の筋生検を詳細に解析し、炎症・壊死に加えて蛋白凝集(protein aggregation)と、シャペロン/プロテアソーム/オートファジー機能の変化に関連する所見が議論されています。
この“蛋白凝集”という観点は、従来の「自己免疫性=炎症」だけでは整理しにくい臨床経過(治療反応のばらつき、筋力低下の遷延)を説明する仮説として、現場の納得感につながります。
もちろん日常診療で全例に筋生検を行うわけではありませんが、「皮膚硬化(強皮症様)+筋症状(筋炎様)+抗Ku抗体」という並びは、オーバーラップ症候群を強く意識し、臓器評価(特に肺・心)を前倒しする実務的根拠になります。

そして、MCTD/オーバーラップの診療で最も怖いのは“診断名の確定待ちで評価が遅れること”なので、抗体と臨床像のセットで早期にリスク臓器へ当たりに行く姿勢が、安全側の運用になります。