乳糖分解酵素薬一覧と治療効果の比較検証

乳糖分解酵素薬一覧と使用法

乳糖分解酵素薬の基本情報
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主な作用機序

乳糖を分解してガラクトースとグルコースに変換し、乳糖不耐症による消化器症状を改善します

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主な対象患者

乳児の乳糖不耐症、二次性乳糖不耐症、経管栄養患者など

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国内承認製剤

ガランターゼ散50%とミルラクト細粒50%の2種類が主に使用されています

乳糖分解酵素薬は、乳糖不耐症の治療に用いられる医薬品です。乳糖不耐症とは、小腸粘膜に存在するラクターゼ(乳糖分解酵素)の欠乏や活性低下により、乳糖の消化吸収が障害される状態を指します。この状態では、乳製品の摂取後に下痢、腹部膨満感、腹痛などの症状が現れます。

乳糖分解酵素薬は、不足している酵素を補充することで、乳糖の消化を助け、症状の改善を図ります。特に乳児や経管栄養を受けている患者さんにとって重要な治療選択肢となっています。

日本国内では、主に2種類の乳糖分解酵素製剤が医療用医薬品として承認されています。それぞれ由来する微生物や特性が異なるため、患者の状態に応じた選択が必要です。

乳糖分解酵素薬ガランターゼの特徴と効能

ガランターゼ散50%は、アスペルギルス・オリーゼ(Aspergillus oryzae T-420)由来のβ-ガラクトシダーゼを主成分とする乳糖分解酵素製剤です。1971年5月に承認を取得し、1972年1月から販売が開始されました。現在はニプロESファーマによって製造販売されています。

ガランターゼの主な特徴は以下の通りです。

  • 有効成分: β-ガラクトシダーゼ(アスペルギルス)
  • 物理化学的性状: 白色〜淡黄色の粉末で、水に僅かに混濁して溶けます
  • 薬価: 24.1円/g(2025年3月現在)
  • : わずかに甘い味がします

ガランターゼの効能・効果は以下の通りです。

  1. 一次性乳糖不耐症
  2. 二次性乳糖不耐症(単一症候性下痢症、急性消化不良症、感冒性下痢症、白色便性下痢症、慢性下痢症、未熟児・新生児の下痢など)
  3. 経管栄養食、経口流動食摂取時の乳糖不耐により生じる下痢の改善

臨床試験では、一次性乳糖不耐症に対して100%(3例/3例)、二次性乳糖不耐症全体で約70%(488例/701例)の有効率を示しています。特に白色便性下痢症では84.5%と高い有効性が確認されています。

ガランターゼは、pH4.0~7.5の範囲で安定した活性を示す耐酸性の特徴を持っており、胃内環境でも効果的に作用します。実際の臨床試験では、投与後120分で52~73%の乳糖分解率が確認されています。

乳糖分解酵素薬ミルラクトの効果と使用方法

ミルラクト細粒50%は、ペニシリウム由来のβ-ガラクトシダーゼを主成分とする乳糖分解酵素製剤です。現在は高田製薬によって製造販売されています。

ミルラクトの主な特徴は以下の通りです。

  • 有効成分: β-ガラクトシダーゼ(ペニシリウム)
  • 物理化学的性状: 白色〜微黄白色の結晶性の粉末または粉末で、吸湿性があります
  • 薬価: 54.1円/g(2025年3月現在)
  • : スッとする甘さがあります

ミルラクトの効能・効果はガランターゼと同様に、一次性乳糖不耐症や二次性乳糖不耐症、経管栄養食下痢などに対して適応があります。

臨床試験では、乳児の乳糖不耐症全体で81.4%(4937例/6065例)の有効率を示しています。特に乳児急性消化不良症では83.2%、乳児感冒性下痢症では81.3%と高い有効性が確認されています。

ミルラクトは、ガランターゼと比較してより広範囲のpH域で活性を示すとされており、温度・湿度に対しても比較的安定しています。また、水や調整ミルクへの溶解性も優れているという特徴があります。

乳糖分解酵素薬の用法用量と投与時の注意点

乳糖分解酵素薬の効果を最大限に引き出すためには、適切な用法用量と投与方法が重要です。

ガランターゼの用法用量:

  • 通常、乳児には1回0.2g(β-ガラクトシダーゼとして5,000単位)を1日3回経口投与
  • 年長児・成人には1回0.4g(β-ガラクトシダーゼとして10,000単位)を1日3回経口投与
  • 症状により適宜増減可能

ミルラクトの用法用量:

  • 通常、乳児には1回0.2g(β-ガラクトシダーゼとして5,000単位)を1日3回経口投与
  • 年長児・成人には1回0.4g(β-ガラクトシダーゼとして10,000単位)を1日3回経口投与
  • 症状により適宜増減可能

両製剤とも投与時の重要な注意点があります。

  1. 投与タイミング: おっぱい・ミルクと一緒に飲ませないと効果が出ません。ミルクに混ぜるか、湯に溶いて授乳前に飲ませることが推奨されています。
  2. 溶解方法: 少量の白湯や温水に溶かして投与します。ミルクに直接混ぜる場合は、飲み終わるまでに時間がかかると効果が減弱する可能性があるため注意が必要です。
  3. 保存方法: 高温多湿を避け、室温で保存します。特にミルラクトは吸湿性があるため、開封後は湿気を避けて保管することが重要です。
  4. 副作用の観察: まれに発疹などの過敏症状や、便秘、腹部膨満、嘔吐などの消化器症状が現れることがあります。異常が認められた場合は医師に相談する必要があります。

乳糖分解酵素薬の選択基準と製剤間比較

乳糖分解酵素薬を選択する際には、患者の状態や製剤の特性を考慮することが重要です。ガランターゼとミルラクトの比較を表にまとめました。

比較項目 ガランターゼ散50% ミルラクト細粒50%
由来微生物 アスペルギルス・オリーゼ ペニシリウム
薬価 24.1円/g 54.1円/g
活性pH域 pH4.0~7.5 より広範囲
溶解性 水に僅かに混濁 比較的良好
安定性 耐酸性あり 温度・湿度に比較的安定
有効率(一次性乳糖不耐症) 100% 79.7%
有効率(二次性乳糖不耐症) 約70% 81.4%

選択の際のポイント。

  1. 患者の年齢: 乳児、小児、成人によって適切な製剤や用量が異なります。
  2. 症状の重症度: 下痢の程度や持続期間によって選択が変わることがあります。
  3. pH環境: 胃酸分泌の状態や併用薬によって胃内pHが変化する場合は、適切なpH域で活性を示す製剤を選択します。
  4. 投与の利便性: 溶解性や安定性を考慮し、患者の生活環境や介護者の状況に合わせて選択します。
  5. コスト: 薬価の差も考慮点の一つです。ガランターゼの方が薬価は低くなっています。

医療現場では、これらの要素を総合的に判断して最適な製剤を選択することが重要です。また、患者の反応性によって製剤の変更を検討することもあります。

乳糖分解酵素薬の最新研究と将来展望

乳糖分解酵素薬の分野では、より効果的で使いやすい製剤の開発に向けた研究が進められています。最新の研究動向と将来展望について紹介します。

新たな製剤開発の動向:

  1. 徐放性製剤: 長時間にわたって効果を持続させる徐放性の乳糖分解酵素製剤の研究が進められています。これにより、投与回数の減少や効果の安定化が期待されます。
  2. 安定性向上: 温度や湿度に対する安定性を向上させた製剤の開発が進んでいます。特に高温多湿の環境でも活性を維持できる製剤は、保存や取り扱いの利便性を高めます。
  3. 味覚改善: 特に小児への投与を考慮した、味や香りを改善した製剤の開発も重要な課題です。服薬コンプライアンスの向上につながります。

新たな適応症の探索:

  1. 過敏性腸症候群(IBS)への応用: 乳糖不耐症とIBSの症状は類似点があり、一部のIBS患者に対する乳糖分解酵素の効果が研究されています。
  2. 腸内細菌叢への影響: 乳糖分解酵素の投与が腸内細菌叢に与える影響についての研究も進んでいます。プレバイオティクス効果の可能性も検討されています。
  3. 免疫調節作用: 一部の研究では、乳糖分解酵素が腸管免疫系に与える影響についても調査されています。アレルギー疾患との関連も注目されています。

個別化医療への応用:

  1. 遺伝子検査との連携: 乳糖不耐症の遺伝的背景を考慮した、個々の患者に最適な酵素製剤の選択や用量調整の研究が進んでいます。
  2. マイクロバイオーム解析: 腸内細菌叢の個人差を考慮した乳糖分解酵素療法の最適化も将来的な研究テーマです。
  3. デジタルヘルスとの統合: 症状モニタリングアプリと連携した服薬管理や効果判定システムの開発も進められています。

これらの研究は、乳糖不耐症患者のQOL向上に寄与するだけでなく、消化器疾患全般の理解と治療法の発展にも貢献することが期待されています。医療従事者は、これらの最新情報にアクセスし、患者に最適な治療法を提供できるよう継続的な学習が求められます。

日本小児栄養消化器肝臓学会誌 – 乳糖不耐症に関する最新の研究論文が掲載されています

乳糖分解酵素薬は、乳糖不耐症の治療において重要な役割を果たしています。特に乳児や経管栄養患者にとっては、QOL向上に直結する治療法です。国内で使用可能な製剤は限られていますが、それぞれの特性を理解し、患者の状態に合わせた適切な選択と使用法を実践することが重要です。

また、乳糖不耐症の診断精度向上や、より効果的な製剤開発に向けた研究も進んでいます。医療従事者は、これらの最新情報を把握し、エビデンスに基づいた治療を提供することが求められています。

乳糖分解酵素薬は単なる対症療法ではなく、患者の食生活全体に関わる重要な治療法です。適切な使用により、乳製品摂取による栄養バランスの維持と、消化器症状の軽減の両立が可能になります。今後も、より効果的で使いやすい製剤の開発と、個々の患者に最適化された治療法の確立が期待されています。