乳酸塩と過マンガン酸カリウムの臨床検査における役割
乳酸塩濃度測定と臨床検査の原理
乳酸塩は細胞の解糖系において、好気的条件下ではピルビン酸に変換され、嫌気的条件下ではL-乳酸に還元される生理的中間代謝産物です。組織酸素供給の不足が生じると血液中の乳酸濃度が上昇し、重症患者の臨床状態を客観的に評価する指標となります。健康人の血中L-乳酸濃度は通常1~2 mmol/Lの範囲に保たれており、これを上回る値は身体の酸塩基平衡異常を示唆しています。
医療現場での血中乳酸値測定は、単なる診断補助にとどまりません。外傷による出血患者の初期評価において、現場測定された乳酸値は止血術や輸血療法の必要性予測精度を大幅に向上させることが報告されています。これは組織損傷の程度が酸素不足を招き、嫌気性代謝の促進につながるメカニズムを反映しています。さらに敗血症患者では、乳酸値の経時的な低下が治療反応性の指標となり、予後判定の重要な要素です。
過マンガン酸カリウムによる乳酸塩定量の化学的基礎
過マンガン酸カリウムは酸化還元滴定法における標準試薬として古くから活用されており、特に医薬品や食品中の乳酸塩定量に有効です。酸性条件下(通常0.1 mol/L硫酸溶液中)において、過マンガン酸イオン(MnO₄⁻)は5価の酸化剤として機能し、還元物質との反応により2価のマンガン(Mn²⁺)に変わります。この反応の進行過程で、紅紫色の過マンガン酸イオンが無色に消色することで、反応の終点を正確に判定できることが大きな利点です。
乳酸塩を含む試料の定量では、過塩素酸での抽出後、液体クロマトグラフィーにより乳酸として測定されます。特に食品や医薬品中の乳酸、乳酸ナトリウム、乳酸カルシウムなどの塩類は、この方法により同時に定量可能です。反応の化学式では、酸性条件下で2MnO₄⁻ + 5C₃H₆O₃ + 6H⁺ → 2Mn²⁺ + 5C₃H₄O₃ + 8H₂Oの関係が成立します。この滴定法は分析的に信頼性が高く、再現性に優れており、医療検査室や研究機関で広く採用されています。
乳酸塩と過マンガン酸カリウムの臨床診断への応用
血中乳酸値の上昇パターンは、その発症機序によってA型とB型に分類されます。A型乳酸アシドーシスは組織灌流不全に伴う酸素供給不足が原因であり、ショック状態、心停止、重症貧血などで見られます。一方B型は組織酸素供給は保たれているにもかかわらず、異常な乳酸産生が生じるもので、B1(悪性腫瘍やけいれん)、B2(薬物投与による)、B3(肝疾患や腎不全)に細分化されます。
過マンガン酸カリウムを用いた定量分析は、医薬品の品質管理においても重要な役割を果たします。例えば、乳酸カリウムが50%以上の含量を保有しているかの確認は、乳酸カリウムの成分規格試験の一環として実施されます。また医療用医薬品の容器試験では、プラスチック製容器からの溶出物中の過マンガン酸カリウム還元性物質量が規定値以下であることが品質基準として設定されており、加熱条件によって測定値が大きく変動することが知られています。15分間の加熱でほぼ平衡状態に到達し、その後は測定値が安定することが報告されています。
医療現場における乳酸塩検査の実践的活用と限界
救急医療の現場では、迅速な乳酸値測定が患者トリアージの精度を向上させる重要なツールとなっています。特にドクターカー出動時の外傷患者において、初期現場での血中乳酸値測定は、入院後の人工呼吸器装着や輸血必要性の予測精度が約90%に達することが報告されており、治療方針決定の客観的根拠となります。乳酸値が2 mmol/L以上の患者では重篤な出血の可能性が高まり、積極的な止血術実施の判断を支援します。
しかし測定上の課題も存在します。3ヶ月以下の乳児ではD-乳酸の代謝能が極めて低く、乳酸を含む食品添加物の摂取によって代謝性アシドーシスが生じるリスクが報告されています。また過マンガン酸カリウム滴定法では、試薬の標定が重要であり、通常0.005 mol/L シュウ酸ナトリウム液を用いて力価を決定します。滴定時には加熱による反応促進と、マンガン(Ⅱ)イオンの触媒作用を考慮した二段階加熱法が採用されており、電位差滴定により白金検出電極と参照電極間の電位差が急激に変化する当量点を正確に検出することが求められます。
乳酸塩代謝の異常を示す独自の臨床指標
通常の血中乳酸値測定に加えて、医療現場では乳酸/ピルビン酸比という新たな指標が注目されています。正常時はこの比率が約10:1に保たれていますが、組織酸素不足時には比率が上昇し、特に細胞内の還元型補酵素(NADH)の蓄積を反映します。この比率異常は、ただの乳酸上昇より詳細な代謝状態を示唆し、治療効果の判定に有用です。
また興味深いことに、D-乳酸という異性体の存在も臨床的に重要です。健常成人では血中にD-乳酸が11~70 nmol/Lの微量に存在しますが、これは主としてメチルグリオキサール経路による内因性生産と、ヨーグルトなどの食品由来の外因性摂取源に由来します。D-乳酸アシドーシスは稀な病態ですが、短腸症候群などの腸管疾患患者では腸内細菌による過剰なD-乳酸産生が生じ、神経学的症状や精神症状を呈することが報告されています。このような複雑な乳酸代謝の異常に対して、過マンガン酸カリウムを用いた正確な定量分析は不可欠な診断支援ツールです。
参考資料)乳酸カリウムの食品添加物としての指定に関する検討報告書
https://www.fsc.go.jp/fsciis/attachedFile/download?retrievalId=kai20080617te1&fileId=106
乳酸及びその塩類の分析方法と規格基準
https://www.mhlw.go.jp/content/11130500/001133951.pdf
情報収集が完了いたしましたので、ここから記事を作成いたします。

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