尿酸生成抑制薬の一覧と特徴
高尿酸血症や痛風の治療において、尿酸生成抑制薬は重要な役割を果たしています。これらの薬剤は体内での尿酸生成を抑制することで血清尿酸値を下げ、痛風発作の予防や腎障害の改善に貢献します。日本で現在使用可能な尿酸生成抑制薬は、プリン型XOR阻害薬であるアロプリノールと、非プリン型XOR阻害薬であるフェブキソスタットおよびトピロキソスタットの3種類です。
これらの薬剤はいずれもキサンチンオキシダーゼ(XOR)という酵素を阻害することで、体内での尿酸生成を抑制します。尿酸生成抑制薬は主に尿酸産生過剰型の高尿酸血症患者に推奨されますが、尿路結石がある場合や腎機能が低下している場合、尿酸排泄促進薬で副作用が出た場合にも使用されます。
尿酸生成抑制薬の種類と薬物動態の特徴
現在日本で使用されている尿酸生成抑制薬の詳細について見ていきましょう。
- アロプリノール(商品名:ザイロリック®など)
- 構造:プリン型XOR阻害薬
- 用量:通常100〜300mg/日(最大300mg/日)
- 半減期:1〜2時間(活性代謝物オキシプリノールは15〜30時間)
- 排泄経路:主に腎臓から排泄
- 特徴:長年使用されてきた実績があり、価格も比較的安価
- フェブキソスタット(商品名:フェブリク®)
- 構造:非プリン型XOR阻害薬
- 用量:10〜60mg/日(最大60mg/日)
- 半減期:約5〜8時間
- 排泄経路:肝臓と腎臓の両方から排泄
- 特徴:アロプリノールよりも強力な尿酸低下作用を持つ
- トピロキソスタット(商品名:トピロリック®、ウリアデック®)
- 構造:非プリン型XOR阻害薬
- 用量:通常120mg/日(最大160mg/日)
- 半減期:約4〜5時間
- 排泄経路:主に肝臓から排泄
- 特徴:腎保護作用の可能性が示唆されている
これらの薬剤は、それぞれ異なる薬物動態特性を持っており、患者の状態に応じて適切に選択する必要があります。特に排泄経路の違いは、腎機能低下患者への投与を考慮する際に重要なポイントとなります。
尿酸生成抑制薬の腎機能低下患者への投与方法
腎機能低下患者に対する尿酸生成抑制薬の投与は、特に注意が必要です。各薬剤の特徴と投与方法について解説します。
アロプリノール。
腎臓から排泄される薬剤であるため、腎機能低下患者では体内に蓄積しやすく、重篤な副作用のリスクが高まります。2010年に発行された「高尿酸血症・痛風の治療ガイドライン第2版」では、腎機能低下患者に対してアロプリノールを減量することが推奨されています。
腎機能に応じた投与量の目安。
- eGFR 60ml/分/1.73m²以上:通常量(100〜300mg/日)
- eGFR 30〜60ml/分/1.73m²:100〜200mg/日
- eGFR 30ml/分/1.73m²未満:100mg/日以下
このような減量が必要なため、腎機能が低下している患者では十分に尿酸値をコントロールできないことがあり、治療上の課題となっていました。
フェブキソスタットとトピロキソスタット。
これらの新しい薬剤は、肝臓での代謝経路も持っているため、腎機能低下患者でも減量の必要がなく、安全に使用できます。腎臓からの尿中排泄以外にも肝臓から糞便中に排泄する経路を持っているため、腎障害例でも通常量で使用でき、十分に血清尿酸値を低下させることができます。
特にフェブキソスタットは、重度の腎機能障害(eGFR 30ml/分/1.73m²未満)の患者でも用量調整なしで使用可能であることが臨床試験で確認されています。トピロキソスタットも同様に、腎機能低下患者での安全性が確認されています。
このような特性から、腎機能低下を伴う高尿酸血症・痛風患者では、フェブキソスタットやトピロキソスタットが第一選択薬として考慮されることが増えています。
尿酸生成抑制薬の効果的な使い分けと適応
尿酸生成抑制薬の選択は、患者の状態や特性に応じて行う必要があります。効果的な使い分けのポイントを解説します。
1. 尿酸産生過剰型と尿酸排泄低下型での使い分け
日本のガイドラインでは、尿酸産生過剰型の高尿酸血症に対しては尿酸生成抑制薬が第一選択とされています。一方、尿酸排泄低下型に対しては尿酸排泄促進薬が推奨されていますが、実際には両方のタイプが混在していることも多いです。
フェブキソスタットについては、「尿酸産生過剰型」「尿酸排泄低下型」のいずれのタイプに対しても同様の効果が確認されています。臨床研究によると、尿酸排泄低下群、正常群、増加群いずれも同じような尿酸値低下を示し、合併症にも差が認められませんでした。このことから、フェブキソスタットは高尿酸血症のタイプにとらわれず使用できる可能性があり、トピロキソスタットも同様の効果が期待されています。
2. 腎機能に基づく選択
腎機能正常または軽度低下例:いずれの薬剤も使用可能ですが、コスト面ではアロプリノールが有利です。
中等度〜重度腎機能低下例:フェブキソスタットまたはトピロキソスタットが推奨されます。アロプリノールを使用する場合は、腎機能に応じた減量が必要です。
3. 合併症や併用薬に基づく選択
- 心血管疾患リスクの高い患者:フェブキソスタットは心血管イベントリスクに注意が必要とされていますが、日本人を対象とした研究ではアロプリノールとの間に有意差は認められていません。
- 肝機能障害患者:アロプリノールが比較的安全に使用できます。
- アザチオプリンやメルカプトプリンなどの免疫抑制剤との併用:これらの薬剤はアロプリノールとの相互作用があるため、フェブキソスタットやトピロキソスタットが選択肢となります。
4. 目標尿酸値達成の観点から
より強力な尿酸低下作用が必要な場合(尿酸値が非常に高い、痛風結節がある等)は、フェブキソスタットが選択肢となります。フェブキソスタットはアロプリノールよりも強力な尿酸低下作用を持ち、目標尿酸値(6.0mg/dL未満)の達成率が高いことが示されています。
尿酸生成抑制薬の副作用と安全性の比較
各尿酸生成抑制薬の副作用プロファイルを理解することは、適切な薬剤選択において重要です。
アロプリノール。
- 頻度の高い副作用:発疹、かゆみ、肝機能障害、胃腸障害
- 重大な副作用:重症薬疹(スティーブンス・ジョンソン症候群、中毒性表皮壊死症)、骨髄抑制、肝障害、間質性腎炎
- 特に注意が必要な点:HLA-B*5801遺伝子を持つ患者(主に韓国人、中国人、タイ人など)では重症薬疹のリスクが高まるため、使用前の遺伝子検査が推奨される場合があります。
フェブキソスタット。
- 頻度の高い副作用:肝機能障害、下痢、発疹、めまい
- 重大な副作用:肝機能障害、過敏症
- 特に注意が必要な点:心血管イベントリスクについて海外の研究で指摘されていますが、日本人を対象とした研究ではアロプリノールとの間に有意差は認められていません。
トピロキソスタット。
- 頻度の高い副作用:肝機能障害、発疹、下痢
- 重大な副作用:肝機能障害、過敏症
- 特に注意が必要な点:比較的新しい薬剤であるため、長期的な安全性データの蓄積が進行中です。
いずれの薬剤も、投与開始時には肝機能検査や腎機能検査を定期的に行い、副作用の早期発見に努めることが重要です。また、痛風発作の予防のため、これらの薬剤の開始時にはコルヒチンなどの発作予防薬の併用が推奨されています。
尿酸生成抑制薬と尿酸排泄促進薬の併用療法の可能性
単剤での治療で目標尿酸値に到達しない場合や、より効果的な尿酸コントロールが必要な場合には、尿酸生成抑制薬と尿酸排泄促進薬の併用療法が考慮されます。
併用療法のメリット。
- 異なる作用機序を持つ薬剤を組み合わせることで、相乗効果が期待できます
- 各薬剤の用量を減らすことで、副作用リスクを軽減できる可能性があります
- 難治性の高尿酸血症や痛風結節を有する患者に対して、より強力な尿酸低下作用が得られます
代表的な併用パターン。
- アロプリノール + ベンズブロマロン
- フェブキソスタット + ベンズブロマロン
- トピロキソスタット + ドチヌラド
特に、新しい選択的尿酸再吸収阻害薬(SURI)であるドチヌラド(商品名:ユリス)は、従来の尿酸排泄促進薬と比較して尿路結石のリスクが低いとされており、尿酸生成抑制薬との併用療法の新たな選択肢として注目されています。
ただし、併用療法を行う際には、各薬剤の相互作用や副作用プロファイルを考慮し、慎重に投与量を調整する必要があります。また、尿酸排泄促進薬を使用する場合には、尿のアルカリ化や十分な水分摂取を行い、尿路結石のリスクを軽減することが重要です。
併用療法は、単剤治療で効果不十分な場合や、特に難治性の高尿酸血症患者に対して考慮されるべき治療オプションであり、専門医による慎重な管理のもとで行われるべきです。
高尿酸血症・痛風の治療ガイドライン第3版(2022年追補版)では、尿酸降下療法の目標値として、痛風患者では6.0mg/dL未満、痛風結節を有する患者では5.0mg/dL未満が推奨されています。これらの目標値を達成するために、尿酸生成抑制薬と尿酸排泄促進薬の適切な選択と、必要に応じた併用療法が重要となります。
日本痛風・核酸代謝学会による高尿酸血症・痛風の治療ガイドラインの詳細情報
尿酸生成抑制薬の選択は、患者の病態(尿酸産生過剰型か排泄低下型か)、腎機能、合併症、薬物相互作用などを総合的に考慮して行う必要があります。また、治療開始後も定期的な検査と評価を行い、必要に応じて薬剤の変更や併用を検討することが重要です。
高尿酸血症・痛風は長期的な管理が必要な疾患であり、薬物療法だけでなく、生活習慣の改善(適切な食事、アルコール摂取の制限、運動など)も重要な治療の柱となります。患者さん一人ひとりの状態に合わせた総合的なアプローチが、治療成功の鍵となるでしょう。