尿酸排泄促進薬一覧と特徴
高尿酸血症は、血液中の尿酸値が基準値(男性7.0mg/dL、女性6.0mg/dL)を超えた状態を指します。放置すると痛風発作や腎障害などの合併症を引き起こす可能性があるため、適切な治療が必要です。高尿酸血症の治療には、生活習慣の改善とともに薬物療法が重要な役割を果たします。本記事では、尿酸排泄促進薬に焦点を当て、その種類や特徴、使い分けについて詳しく解説します。
尿酸排泄促進薬の種類と作用機序
尿酸排泄促進薬は、腎臓における尿酸の再吸収を抑制することで、尿中への尿酸排泄を促進し、血清尿酸値を低下させる薬剤です。現在、日本で使用可能な尿酸排泄促進薬は主に以下の3種類があります。
- ベンズブロマロン(商品名:ユリノーム)
- 作用機序:尿酸トランスポーター1(URAT1)を阻害
- 用量:25mg〜100mg/日
- 特徴:強力な尿酸降下作用を持つが、肝障害のリスクがある
- プロベネシド(商品名:ベネシッド)
- 作用機序:有機酸トランスポーターを阻害
- 用量:250mg〜2000mg/日
- 特徴:最も古い尿酸排泄促進薬で、効果は比較的穏やか
- ドチヌラド(商品名:ユリス)
- 作用機序:URAT1選択的阻害
- 用量:2mg〜4mg/日
- 特徴:2020年に承認された新しい薬剤で、選択性が高く副作用が少ない
これらの薬剤は、尿酸トランスポーターに作用して尿酸の再吸収を阻害することで、尿中への尿酸排泄を促進します。特にURAT1は腎臓での尿酸再吸収の約50%を担っているため、これを阻害することで効果的に尿酸値を下げることができます。
尿酸排泄促進薬の薬物動態と特性比較
尿酸排泄促進薬の薬物動態特性を理解することは、適切な薬剤選択において重要です。以下に各薬剤の薬物動態的特徴を比較します。
薬剤名 | 吸収 | 代謝 | 排泄 | 半減期 | 特記事項 |
---|---|---|---|---|---|
ベンズブロマロン | 経口吸収良好 | 肝代謝(CYP2C9) | 胆汁排泄 | 約3時間 | 肝機能障害のリスクあり |
プロベネシド | 経口吸収良好 | 肝代謝(一部) | 主に腎排泄 | 約6-12時間 | 腎機能低下患者では注意 |
ドチヌラド | 経口吸収良好 | 肝代謝(CYP3A4など) | 胆汁・腎排泄 | 約10時間 | 肝・腎障害による禁忌なし |
ベンズブロマロンとドチヌラドは主に肝臓で代謝される肝代謝型の薬剤であるのに対し、プロベネシドは主に腎臓から排泄される腎排泄型の薬剤です。この違いは、患者の肝機能や腎機能に応じた薬剤選択において重要な要素となります。
効力比較については、ベンズブロマロン50mgはドチヌラド2mgとほぼ同等の尿酸降下作用を持つとされています。プロベネシドは他の2剤と比較して効果が穏やかであり、現在ではあまり使用されていません。
尿酸排泄促進薬の適応と禁忌
尿酸排泄促進薬は主に尿酸排泄低下型の高尿酸血症患者に適応となります。高尿酸血症は病型によって以下のように分類されます。
- 尿酸排泄低下型:全高尿酸血症患者の約60%を占め、腎臓からの尿酸排泄が低下している
- 尿酸産生過剰型:全体の約10%を占め、体内での尿酸産生が過剰
- 混合型:両方の要素を持つ(約30%)
尿酸排泄促進薬の主な適応は尿酸排泄低下型ですが、各薬剤には以下のような禁忌や注意事項があります。
ベンズブロマロン(ユリノーム)の禁忌
プロベネシド(ベネシッド)の禁忌
- 腎臓結石の既往歴のある患者
- 慢性腎不全患者
- サルファ剤過敏症の患者
ドチヌラド(ユリス)の禁忌
- 肝障害・腎障害による明確な禁忌はないが、重度の肝機能障害患者には慎重投与
尿酸排泄促進薬を使用する際は、尿路結石のリスクを考慮する必要があります。尿中の尿酸濃度が上昇することで尿酸結晶が形成されやすくなるため、十分な水分摂取と尿アルカリ化薬(クエン酸カリウム・クエン酸ナトリウム水和物錠:ウラリット配合錠など)の併用が推奨されます。
尿酸排泄促進薬と尿酸生成抑制薬の使い分け
高尿酸血症の治療薬は、大きく分けて尿酸排泄促進薬と尿酸生成抑制薬の2種類があります。これらの薬剤の使い分けは、患者の病型や合併症の有無によって決定されます。
尿酸生成抑制薬の主な種類
- アロプリノール(商品名:ザイロリック)
- フェブキソスタット(商品名:フェブリク)
- トピロキソスタット(商品名:トピロリック、ウリアデック)
これらの薬剤は、キサンチンオキシダーゼ(XO)という酵素の働きを阻害することで、プリン体から尿酸が生成されるのを抑制します。
使い分けの基本的な考え方
- 尿酸排泄低下型(全体の約60%)
- 第一選択:尿酸排泄促進薬
- 尿路結石のリスクがある場合は尿酸生成抑制薬を選択
- 尿酸産生過剰型(全体の約10%)
- 第一選択:尿酸生成抑制薬
- 尿中尿酸排泄量が増加しているため、尿酸排泄促進薬は避ける
- 混合型(全体の約30%)
- 個々の状況に応じて選択
- 両剤の併用も検討
実臨床では、尿酸排泄低下型の患者でも尿酸生成抑制薬が選択されることが多いです。これは、尿酸排泄促進薬の肝毒性(ベンズブロマロン)や尿路結石のリスクを考慮してのことです。
また、患者の背景疾患も薬剤選択に影響します。
- 腎機能障害患者:尿酸生成抑制薬(特にフェブキソスタット)
- 肝機能障害患者:尿酸生成抑制薬(アロプリノールまたはフェブキソスタット)
- 尿路結石の既往歴:尿酸生成抑制薬
尿酸排泄促進薬の副作用と安全対策
尿酸排泄促進薬を使用する際には、以下の副作用に注意が必要です。
1. ベンズブロマロン(ユリノーム)の主な副作用
- 重篤な肝障害(劇症肝炎を含む)
- 尿路結石
- 消化器症状(食欲不振、悪心、嘔吐など)
- 発疹、かゆみなどのアレルギー反応
ベンズブロマロンは、重篤な肝毒性が報告されたことから、世界的には使用が大幅に制限されています。日本では使用可能ですが、添付文書上も「導入後少なくとも半年間は肝機能の慎重なフォロー」が必要とされています。
2. プロベネシド(ベネシッド)の主な副作用
- 尿路結石
- 消化器症状
- 頭痛
- 薬物相互作用(多くの薬剤の血中濃度を上昇させる)
3. ドチヌラド(ユリス)の主な副作用
- 尿路結石
- 肝機能異常(頻度は低い)
- 消化器症状
安全対策
- 尿路結石の予防
- 十分な水分摂取(1日2L以上)
- 尿アルカリ化薬の併用(ウラリット配合錠など)
- 尿pH測定によるモニタリング(pH6.0以上を維持)
- 肝機能モニタリング
- ベンズブロマロン使用時は特に重要
- 投与開始後2週間、1ヶ月、3ヶ月、6ヶ月、以降は定期的に肝機能検査を実施
- AST/ALTの上昇がみられた場合は投与中止を検討
- 腎機能モニタリング
- 定期的な腎機能検査(eGFR、血清クレアチニン)
- 腎機能低下時は用量調整または薬剤変更を検討
- 薬物相互作用の確認
- 特にプロベネシドは多くの薬剤と相互作用があるため注意
最新の尿酸排泄促進薬と治療トレンド
高尿酸血症治療の最新トレンドとして、選択的尿酸再吸収阻害薬(SURI: Selective Uric acid Reabsorption Inhibitor)の開発が進んでいます。これらの薬剤は、より選択的にURAT1を阻害することで、従来の薬剤よりも副作用が少なく効果的な治療を可能にします。
ドチヌラド(ユリス)
2020年に日本で承認された最新の尿酸排泄促進薬です。URAT1に対する選択性が高く、従来のベンズブロマロンと比較して肝障害のリスクが低いことが特徴です。1日1回2〜4mgの服用で効果を発揮し、ベンズブロマロン50mgと同等の効果が2mgで得られるとされています。
併用療法のトレンド
近年の研究では、作用機序の異なる薬剤を併用することで、より効果的に尿酸値をコントロールできることが示されています。特に、尿酸生成抑制薬と尿酸排泄促進薬の併用は、単剤では効果不十分な難治例に対して有効な選択肢となっています。
例えば、フェブキソスタット(尿酸生成抑制薬)とドチヌラド(尿酸排泄促進薬)の併用は、それぞれの単剤使用と比較して、より強力な尿酸降下作用を示すことが報告されています。
個別化医療の重要性
高尿酸血症の治療においては、患者の病型(尿酸排泄低下型、尿酸産生過剰型、混合型)だけでなく、年齢、性別、腎機能、肝機能、合併症、併用薬などを総合的に考慮した個別化医療が重要です。
特に、メタボリックシンドロームや慢性腎臓病、心不全などを合併している患者では、これらの疾患の管理も含めた総合的なアプローチが必要です。
治療目標値の設定
日本の高尿酸血症・痛風の治療ガイドライン(第3版)では、血清尿酸値の治療目標を6.0mg/dL以下としています。ただし、痛風結節を有する患者や尿路結石の既往がある患者では、より厳格な管理(5.0mg/dL以下)が推奨されています。
尿酸排泄促進薬を含む薬物療法は、これらの目標値を達成するための重要な手段ですが、同時に生活習慣の改善(適切な食事、アルコール摂取の制限、適度な運動など)も不可欠です。
最新の研究では、高尿酸血症が心血管疾患や慢性腎臓病のリスク因子であることが明らかになっており、これらの合併症予防の観点からも適切な治療が重要視されています。
高尿酸血症・痛風の治療ガイドライン 第3版[2022年追補版]- 詳細な治療アルゴリズムと薬剤選択の基準が記載されています
尿酸排泄促進薬は高尿酸血症治療の重要な選択肢の一つですが、患者の状態に応じた適切な薬剤選択と、副作用対策を含めた慎重な管理が必要です。特に最新の薬剤であるドチヌラドは、従来の薬剤と比較して安全性プロファイルが向上しており、今後の高尿酸血症治療において重要な役割を果たすことが期待されています。