尿閉と原因から女性特有の症状
尿閉は膀胱から尿をまったくまたはほとんど排出できなくなった状態で、女性では男性とは異なる特有の原因があります 。女性の急性尿閉の罹患率は年間10万人あたり7人と報告されており、40歳代未満の症例が約半数を占める特徴があります 。
参考)尿閉 – 05. 腎臓と尿路の病気 – MSDマニュアル家庭…
女性の尿閉における神経因性膀胱の特徴
神経因性膀胱は中枢神経あるいは末梢神経の様々な病気により、膀胱や尿道の働きが障害され、排尿障害をきたす病気の総称です 。原因となる疾患として脳血管障害(脳卒中)、糖尿病による末梢神経障害、多発性硬化症、パーキンソン病、脊髄損傷、骨盤内手術による膀胱への末梢神経障害などが挙げられます 。女性では特に骨盤内手術後の膀胱機能障害が重要な原因となり、適切な排尿管理が行われないと腎不全を来す可能性があります 。
薬剤による女性の尿閉発症メカニズム
薬剤が原因となる女性の尿閉では、抗コリン薬(副交感神経遮断薬)、抗ヒスタミン薬、一部の降圧薬などが排尿筋の収縮を妨げたり、膀胱出口を締めつけたりする副作用によって引き起こされます 。普段は問題にならなくても、複数の薬を併用することで相乗的に排尿困難を起こし、結果的に尿閉へつながることがあります 。特に高齢女性では、感冒薬や花粉症の薬に含まれる抗ヒスタミン薬により急性尿閉が誘発される場合があります 。
Fowler症候群と心因性尿閉の診断
Fowler症候群は30歳以下の若年女性に突然起こる心因性尿閉で、明らかな神経疾患や原因がなく、外尿道括約筋の過緊張により排尿障害を引き起こす疾患です 。この症候群は多嚢胞性卵巣症候群(PCOS)との関連が高く、患者のほぼ半数がPCOSに罹患しています 。症状として膀胱が充満しているといった通常の感覚の欠如、極端に尿意が滅多に起こらず排尿が少ないなどが特徴的で、最終的に1リットルもの尿が収集される場合があります 。現時点で確立された治療法はなく、仙骨神経刺激療法やボツリヌストキシンAの尿道括約筋注入が試みられています 。
参考)https://www.jmedj.co.jp/blogs/product/product_11557
女性の急性尿閉と慢性尿閉の症状の違い
急性尿閉は女性でもある日突然排尿ができなくなるタイプで、下腹部の強い痛みや尿意があるにもかかわらず排尿できない苦しさが特徴です 。手術直後や慣れない環境での排尿を試みる際、緊張からうまく排尿できず、最終的に急性尿閉になってしまう例が女性では多くみられます 。一方、慢性尿閉は少しずつ排尿困難が進行して残尿量が増え、膀胱に尿が溜まった状態で生活しているにもかかわらず強い尿意を感じにくくなる特徴があります 。進行すると溢流性尿失禁や奇異性尿失禁を引き起こし、下着が常に湿っていたり、尿特有のにおいを感じやすくなります 。
女性尿閉の早期発見と治療アプローチ
女性の尿閉診断では超音波検査(エコー)による残尿量測定が重要で、残尿量が半カップ以上の場合(高齢者ではそれよりも若干多い場合)、尿閉と診断されます 。治療では急性尿閉の場合、まずカテーテル挿入により膀胱内の尿を排出し、痛みや不快感を軽減させます 。慢性尿閉では自己導尿(自分でカテーテルを挿入して排尿する方法)を指導し、膀胱内に尿が溜まりすぎないよう管理することが重要です 。女性特有の排尿障害に効果が実証されている薬剤として、ベタネコール(ベサコリンⓇ)、ジスチグミン(ウブレチドⓇ)、ウラピジル(エブランチルⓇ)の3つが挙げられ、比較的安全で効果も実証されています 。