嚢胞性線維症ガイドラインの診断と治療

嚢胞性線維症ガイドラインと包括的治療

嚢胞性線維症の主要な診断・治療ポイント
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新生児スクリーニング診断

IRTと汗中塩化物イオン濃度測定による早期発見システム

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CFTR修飾薬治療

イバカフトール、エレクサカフトールによる根治的治療戦略

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包括的呼吸管理

気道クリアランス手技と抗菌薬治療の組み合わせ

嚢胞性線維症診断ガイドラインの基本的指標

嚢胞性線維症の診断ガイドラインでは、汗中塩化物イオン濃度が最も重要な診断指標とされています 。厚生労働省のガイドラインによると、汗中塩化物イオン濃度が60 mmol/L以上で異常高値、40〜59mmol/L(生後6ヶ月未満では30〜59mmol/L)で境界領域と定められています 。この検査は出生後48時間から実施可能で、診断の確定に必要な汗検体量は濾紙上に75mg以上またはミクロボア管に15μL以上が必要です 。

参考)https://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-10900000-Kenkoukyoku/0000101198.pdf

現在の診断ガイドラインでは、臨床症状として膵外分泌不全、呼吸器症状、胎便性イレウス、家族歴が重視されています 。特に、粘稠な膿性痰を伴う慢性咳嗽や気管支拡張症を特徴とする呼吸器症状は、ほぼ全症例で認められる重要な診断根拠となっています 。BT-PABA試験70%以下または便中エラスターゼ200 μg/g以下が膵外分泌不全の診断基準として設定されており、これらの組み合わせにより確定診断を行います 。
遺伝学的検査では、CFTR遺伝子変異の確認が診断ガイドラインに含まれています 。これまでに報告された遺伝子変異は1,900種類を超え、同じ遺伝子変異を持つ患者でも障害される臓器および重症度が異なるため、表現型のばらつきを考慮した診断が重要です 。

嚢胞性線維症新生児スクリーニングガイドライン

新生児スクリーニングは現在、米国で標準的に実施されており、免疫反応性トリプシノーゲン(IRT)の血中濃度上昇の検出に基づいています 。スクリーニング手法には2つのアプローチがあり、1つは2回目のIRTを行い高値の場合に汗試験を実施する方法、もう1つはIRT高値後にCFTR変異検査を行い変異が同定された場合に汗試験を実施する方法です 。どちらの方法でも約90~95%の感度が得られ、早期診断による栄養状態の改善効果が証明されています 。

参考)https://www.msdmanuals.com/ja-jp/professional/19-%E5%B0%8F%E5%85%90%E7%A7%91/%E5%9A%A2%E8%83%9E%E6%80%A7%E7%B7%9A%E7%B6%AD%E7%97%87-cf/%E5%9A%A2%E8%83%9E%E6%80%A7%E7%B7%9A%E7%B6%AD%E7%97%87

新生児スクリーニングガイドラインでは、CFTR関連代謝異常症候群(CRMS)やCFスクリーニング陽性の診断不確定例(CFSPID)への対応も規定されています 。これらの症例では汗中塩化物イオン濃度が境界域にあり、CFTR変異が1つまたは表現型への影響が不明な変異を有する場合があります 。CRMS/CFSPIDの小児の約10%では時間の経過とともに症状が現れ、CFまたはCF関連疾患の診断基準を満たすようになるため、専門施設での定期的な評価とモニタリングが推奨されています 。
早期診断の利益として、診断時における身長と体重のパーセンタイルの改善が報告されており、特に膵機能不全患者とΔF508変異ホモ接合患者で顕著な改善が認められています 。

参考)https://www.nejm.jp/abstract/vol337.p963

嚢胞性線維症気管支拡張症の管理ガイドライン

気管支拡張症は嚢胞性線維症患者のほぼ全例で認められ、粘稠度の高い粘液による細気管支の閉塞から始まり、慢性的な細菌感染により気道損傷が進行します 。管理ガイドラインでは、気道クリアランス手技として体位ドレナージ、叩打法、振動法、咳嗽介助を診断時から推奨し、定期的な実施を求めています 。年長患者では、アクティブサイクル呼吸法、自律性排痰法、呼気陽圧装置、vest療法(高頻度胸壁振動)などの手法も効果的とされています 。

参考)https://www.msdmanuals.com/ja-jp/home/07-%E8%82%BA%E3%81%A8%E6%B0%97%E9%81%93%E3%81%AE%E7%97%85%E6%B0%97/%E6%B0%97%E7%AE%A1%E6%94%AF%E6%8B%A1%E5%BC%B5%E7%97%87%E3%81%A8%E7%84%A1%E6%B0%97%E8%82%BA/%E6%B0%97%E7%AE%A1%E6%94%AF%E6%8B%A1%E5%BC%B5%E7%97%87

気管支拡張症の治療では、細気管支炎と気道の粘液膿性栓子による閉塞と感染の管理が重要です 。緑膿菌のムコイド型は嚢胞性線維症に特異的に関連し、非ムコイド型と比べて予後不良であるため、早期の検出と治療が推奨されています 。メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)の保有率は約25%を超え、慢性感染患者では非感染患者に比べより急速な肺機能低下がみられるため、培養検査を年4回実施することがガイドラインで定められています 。
ドルナーゼアルファ(遺伝子組換えヒトデオキシリボヌクレアーゼ)の長期連日吸入療法や7%高張食塩水の長期連日吸入療法は、肺機能低下のペースを遅らせ、気道増悪の頻度を低下させることが証明されており、標準治療として推奨されています 。

嚢胞性線維症CFTR修飾薬治療ガイドライン

CFTR修飾薬は嚢胞性線維症の根治的治療として位置づけられ、現在のガイドラインでは患者の約90%に適応があるとされています 。イバカフトール(ivacaftor)は特定のCFTR変異を有する生後4ヶ月以上の患者のCFTRイオンチャネルを増強する低分子薬として、長期経口投与が承認されています 。この薬剤により肺機能改善、体重増加、膵外分泌機能改善、肺症状増悪および入院頻度減少、生活の質改善、汗中塩化物イオン濃度の低下または正常化が達成されています 。
エレクサカフトール/テザカフトール/イバカフトール3剤合剤は、F508del変異を1つ以上または特定のまれな変異を1つ保有する6歳以上の患者に投与可能で、非常に効果的な修飾療法として評価されています 。この3剤合剤(Trikafta)はF508del変異による嚢胞性線維症治療において画期的な臨床効果を示しており、急性および慢性治療において相乗効果が確認されています 。

参考)https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC8494914/

ルマカフトール/イバカフトール合剤は、F508del変異を2コピー保有する2歳以上の患者に適応があり、テザカフトール/イバカフトール合剤は6歳以上の患者で使用可能です 。これらのCFTR修飾薬の適応は患者のCFTR変異および年齢に基づき決定され、治療効果の個人差を考慮した投与が求められています 。

嚢胞性線維症多職種チームによる包括的治療戦略

現在の治療ガイドラインでは、経験豊富な医師の指揮のもと、多職種チームによる包括的かつ集中的な治療が推奨されています 。チームには医師、看護師、栄養士、理学療法士、呼吸療法士、精神医療専門家、薬剤師、ソーシャルワーカーが含まれ、正常な栄養状態の維持、肺およびその他の合併症の予防または積極的治療、身体活動の奨励、心理社会的支援の提供を目標としています 。
膵機能不全には膵酵素補充療法が必須で、乳児では人工乳120mL当たりリパーゼ2000~5000IUで開始し、4歳未満の小児ではリパーゼ1000IU/kg/食、4歳以上では500IU/kg/食が推奨されています 。高用量酵素と線維化性結腸疾患の関連から、リパーゼ2500IU/kg/1食以上または10,000IU/kg/日以上の用量は避けるべきとされています 。
栄養管理では、正常な成長促進に必要な30~50%増量したカロリーとタンパク質摂取、1日推奨所要量の2倍の水分散性総合ビタミン剤補給、ビタミンD欠乏または不足がある場合のビタミンD3(コレカルシフェロール)補給が規定されています 。十分な栄養状態を維持できない患者では、胃瘻造設または空腸瘻造設による経腸補給により成長改善と肺機能安定化が可能となるとされています 。