脳波正常とてんかん
脳波正常 てんかんの発作間欠期と検出率
てんかんを疑って「脳波が正常でした」と返ってきたとき、まず共有すべき前提は“発作間欠期(発作が起きていない時間)の通常脳波だけでは、てんかんを否定できない”という点です。日本てんかん学会の診断ガイドラインでも、てんかんの疑いがあれば脳波でてんかん性放電などを検索する一方で、「正常脳波はてんかんの除外診断にはならない」と明記されています。
臨床現場では、患者側は「正常=異常なし=てんかんではない」と理解しやすく、医療者側も説明を端折ると誤解が固定化します。てんかん性放電は“いつも出ているサイン”ではなく、“出現するタイミングが限られるサイン”であり、短時間のルーチン記録で捕まらないことがある、という構造を先に言語化すると後の検査提案が通りやすくなります。
もう一段、医療従事者向けに数字で整理すると、てんかん診療ガイドライン(検査章)では、成人を対象としたシステマティックレビューの要点として「てんかん患者の約50%は正常脳波」と述べられています。
加えて、初回の非誘発性発作後の通常脳波の診断性能として、成人では感度17.3%・特異度94.7%(小児は感度58.7%・特異度69.6%)という整理も提示されており、「陰性であること(正常)より、陽性であること(てんかん放電あり)の方が“診断を後押ししやすい”」構図が見えます。
脳波正常 てんかんで睡眠脳波と断眠脳波
次の一手として説明しやすいのが、睡眠賦活(睡眠脳波)や断眠脳波の位置づけです。てんかん診療ガイドライン(検査章)では、1回の通常脳波だけでは診断できない場合があり、睡眠賦活を含めた複数回の脳波検査が必要となる、とまとめています。
なぜ睡眠が効くのかを過度に難しくせずに説明するなら、「睡眠中は覚醒時と脳のリズムが変わり、覚醒では出にくい放電が表に出ることがある」といった言い方が、患者説明にも、チーム内共有にも実装しやすいです。
ガイドライン上も「睡眠脳波の診断的価値は高く、覚醒時にみられないてんかん放電が睡眠賦活検査で検出される可能性がある」と記載され、成人より小児、全般てんかんより部分(焦点)てんかんで、その可能性が高いとの報告に触れています。
運用面では、「ルーチン脳波→(陰性でも)睡眠賦活→必要なら複数回」という流れは筋が通りますが、現場のボトルネックは“予約枠”と“患者協力”です。断眠指示を出す際は、転倒リスクや翌日の運転など安全面の確認、同居家族の同伴の可否、さらに「断眠は検出率を上げるためで、病状が悪化したからではない」という誤解の予防説明をセットにしておくと、キャンセルが減ります。
脳波正常 てんかんのビデオ脳波と長時間モニタリング
「症状はそれっぽいが脳波は正常」の次に、診断の質を一段上げる検査が長時間ビデオ脳波モニタリング(VEEG)です。てんかん診療ガイドラインでは、VEEGは確定診断・病型診断・局在診断に有用で、主目的は「いつもの発作(habitual seizure)」の記録であると説明されています。
特に重要なのは“症状(ビデオ)と脳波を同時に取る”という点で、これにより、てんかん発作と非てんかん発作の鑑別、全般発作と焦点発作の鑑別、焦点発作なら局在診断まで踏み込める、とガイドラインに整理されています。
また、通常脳波で発作が記録されるのは2.5~7%だが、3.5~6日間のVEEGを行うと70~85%で発作が記録されたという報告が紹介されており、「短時間で捕まらないなら、時間を味方にする」戦略が根拠とともに説明できます。
臨床の実務では、VEEGは“最後の手段”ではなく、以下のような場面で早めに検討する価値があります。
- 発作の型があいまいで、薬剤選択(全般 vs 焦点)の前提が固まらない。
参考)睡眠脳波とてんかん性放電の違い|はじめての脳神経内科・脳波・…
- 失神、心因性非てんかん発作(PNES)など鑑別が必要で、イベントの客観記録が診療の中心になる。
- 通常の抗てんかん薬治療を一定期間行っても発作が抑制されず、診断そのものの再点検が必要になる。
鑑別の観点では、日本てんかん学会の診断ガイドラインが、小児・成人それぞれで「てんかんと見誤りやすいもの(失神、心因発作、不整脈発作、脳虚血発作など)」を列挙し、病歴聴取と状況評価の重要性を強調しています。
ビデオ脳波は、これら“似ている発作性イベント”を、症状学と電気生理の二軸で整理し直すための検査、と捉えるとチーム内で目的がぶれません。
脳波正常 てんかんの診断と病歴
脳波が正常なときほど、診断の重心は病歴と目撃情報に戻ります。日本てんかん学会の診断ガイドラインは、十分な情報収集(病歴)と発作の現場を目撃することが、てんかん診断に最も有用であると述べています。
ここは医療従事者向けブログでも、具体的な「聞くべき項目」を明文化すると価値が出ます。
外来・病棟で再現性高く使えるチェック項目例(入れ子なし)
- 発作の起始(何が最初の症状か:違和感、眼球偏位、言語停止など)。
- 左右差(片側優位の運動、顔面の偏位、片側しびれなど)。
- 意識状態(呼びかけへの反応、記憶の抜け、発作後の見当識)。
- 持続時間と経過(急速に終わるのか、段階的に広がるのか)。
- 誘因・状況(断眠、飲酒、急に立ち上がる、啼泣や発熱など年齢で変わる)。
- 発作後の状態(頭痛、眠気、筋肉痛、外傷、失禁など)。
さらに、ガイドラインは「てんかんの診断は“てんかんである”の診断だけではなく、その分類にまで及ぶ必要がある」と述べています。
ここでの分類(焦点性か全般性か、症候群の見立て)は治療選択と直結し、脳波が正常でも“臨床像から分類を仮置きする”姿勢が、適切な検査計画(賦活、VEEG、画像)につながります。
脳波正常 てんかんの独自視点と説明
検索上位の一般向け記事は「正常でも否定できない」「睡眠で見つかることがある」までは触れますが、医療従事者の現場で差がつくのは“説明の設計”です。日本てんかん学会ガイドラインの言い回しを臨床コミュニケーションに落とすなら、キーフレーズは「正常脳波は除外診断にならない」です。
この一文を、患者の納得と安全行動(運転、入浴、就労)に接続する説明ができると、診療の質が上がります。
使いやすい説明テンプレ(患者向けに言い換え、医療者の意図が透けない形)
- 「脳波は“今その瞬間の電気活動”なので、発作がない時間は正常に見えることがあります。」
- 「1回で見つからないことがあるので、睡眠を使った検査や、長めに記録する検査が次の候補になります。」
- 「発作の種類を間違えると薬の選び方が変わるので、症状の経過(動画や目撃情報)がとても大事です。」
あまり知られていない落とし穴としては、「てんかん性放電があっても、それが臨床発作を説明しうるものでなければ、必ずしも“てんかん”と診断できない」という逆方向の注意点です。てんかん診療ガイドライン(検査章)でも、正常人でも脳波異常がみられ得ること、てんかん放電が記録されても臨床像と整合しなければ診断を固定できないことが述べられています。
つまり「脳波が正常でも、異常でも、臨床との整合が最後の鍵」という原則を、チーム全体で共有しておくと過剰診断も過小診断も減らせます。
(検査の位置づけが整理されており、正常脳波の解釈・睡眠賦活・VEEGの有用性まで参照できる)
https://www.neurology-jp.org/guidelinem/epgl/tenkan_2018_02.pdf
(「正常脳波は除外診断にならない」など、診断の進め方と鑑別疾患リストがまとまっている)
https://jes-jp.org/pdf/guideline0704.pdf

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