偽性アルドステロン症診断基準と鑑別診断および治療方針

偽性アルドステロン症の診断基準と鑑別診断

偽性アルドステロン症の診断アプローチ
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基本診断基準

低レニン低アルドステロン血症と血圧上昇・血清カリウム低下の組み合わせ

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鑑別診断手順

尿中カリウム排泄量とPRA・PAC測定による系統的アプローチ

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薬剤性診断

原因医薬品中止後の症状・検査値正常化による確定診断

偽性アルドステロン症の基本診断基準と特徴

偽性アルドステロン症の診断基準は、医薬品の服用に伴う低レニン低アルドステロン血症とともに血圧上昇や血清カリウム低下が生じ、これらが原因医薬品の中止により正常化することを確認することです 。

参考)https://www.mhlw.go.jp/shingi/2006/10/dl/s1019-4d9.pdf

診断における重要な特徴として、血漿アルドステロン濃度(PAC)がむしろ低下を示すことが挙げられます。正常な状態ではアルドステロンが増加していないにも関わらず、アルドステロン症様の症状・所見を示すため「偽性」と呼ばれています 。

参考)https://www.pmda.go.jp/files/000245267.pdf

必須の検査項目には以下があります。

  • 血清カリウム値(3.5 mEq/L以下または服用前に比べて低下)
  • 血漿レニン活性(PRA)の低値
  • 血漿アルドステロン濃度(PAC)の低値
  • 尿中カリウム排泄量(30 mEq/日以上)
  • 代謝性アルカローシス

これらの検査所見に加えて、原因医薬品中止後数週間の経過で症状と臨床検査値異常が正常化することが診断確定の要件となります 。

偽性アルドステロン症の鑑別診断手順

偽性アルドステロン症の鑑別診断は、低カリウム血症を伴う高血圧症を呈する疾患との判別が必要となります 。

参考)https://www.mhlw.go.jp/topics/2006/11/dl/tp1122-1d31.pdf

系統的な鑑別診断のステップは以下の通りです。

第1段階:尿中カリウム排泄量の測定

  • 30 mEq/日未満:腎外性カリウム喪失(食事摂取量低下、下痢など)
  • 30 mEq/日以上:腎性カリウム喪失を示唆

第2段階:PRAとPACの測定

  • 高PRA高PAC:利尿薬使用、腎血管性高血圧症、悪性高血圧症
  • 低PRA高PAC:原発性アルドステロン症(副腎腺腫・過形成)
  • 低PRA低PAC:広義の偽性アルドステロン症

第3段階:血漿DOC測定

  • DOC正常:薬剤性偽性アルドステロン症、Liddle症候群、AME症候群
  • DOC高値:先天性副腎皮質過形成、DOC産生腫瘍

クッシング症候群の除外も必要であり、原因となりうる医薬品の使用歴を詳細に聴取することが重要です 。

偽性アルドステロン症の臨床症状と検査所見

偽性アルドステロン症の臨床症状は、低カリウム血症を伴う高血圧症による多彩な症状を呈します 。

参考)https://www.jstage.jst.go.jp/article/naika/95/4/95_4_671/_pdf

自覚症状の特徴

初期症状として手足のしびれ、つっぱり感、こわばりから始まり、徐々に進行する四肢の脱力や筋肉痛が重要な所見となります。四肢脱力・筋力低下が約60%、高血圧が35%で発見の契機として最も多く報告されています 。
その他の症状には、全身倦怠感(約20%)、浮腫(約15%)、頭痛、口渇、食思不振、動悸、悪心・嘔吐があります。重篤な場合は意識消失、歩行困難、四肢麻痺発作、横紋筋融解による赤褐色尿を呈することもあります 。

参考)https://www.cheer-job.com/useful/column/knowledge/knowledge_21-6-2

他覚的症状(所見)

  • 血圧上昇
  • 浮腫、体重増加
  • 起立性低血圧
  • 不整脈
  • 心電図異常(T波平低化、U波出現、ST低下、低電位)

臨床検査値の特徴

低カリウム血症、代謝性アルカローシス、PRAとPACの低値が特徴的で、医薬品の副作用として生じた場合、血漿DOC濃度は正常範囲内を示します 。

偽性アルドステロン症の甘草誘発機序と薬剤特性

偽性アルドステロン症の発生機序において、甘草またはその主成分であるグリチルリチン(GL)による病態生理は、従来考えられていたミネラルコルチコイド作用とは異なる機序で発症することが明らかになっています 。

発症機序の詳細

甘草による偽性アルドステロン症は、GLの代謝産物であるグリチルレチン酸(GA)が11β-hydroxysteroid dehydrogenase(HSD)2の活性を抑制することで発症します。正常状態では、腎尿細管などのアルドステロン標的臓器に存在する11β-HSD2が、高濃度で存在するコルチゾールを不活性のコルチゾンに変換し、ミネラルコルチコイド受容体(MR)のコルチゾールによる占拠を防いでいます。しかし、GAによってこの酵素活性が抑制されると、過剰となったコルチゾールがMRを介してミネラルコルチコイド作用を発揮するのです 。

薬剤別の特徴と用量依存性

初期の報告例はGL 500mg/日以上の大量投与例が主体でしたが、近年の報告では GL 150mg/日またはそれ以下の比較的少量投与例での発症が多数を占めています。生薬として甘草を1日1~2gしか含まない医療用漢方薬や、仁丹の習慣的使用による発症例も報告されています 。
経静脈投与ではGLからGAが生じにくいため、注射用GL製剤では内服用製剤と比べて本症を発現しにくいとされ、含有グリシンや含硫アミノ酸がGLの電解質代謝作用を減弱することも指摘されています 。

偽性アルドステロン症の治療方針と予後管理

偽性アルドステロン症の治療は、推定原因医薬品の服用中止が第一の治療法であり、適切な対応が行われれば予後は良好とされています 。

参考)https://www.mhlw.go.jp/content/11121000/000842165.pdf

治療の段階的アプローチ

  1. 原因薬剤の中止:根本的な治療として最も重要
  2. カリウム製剤の投与:効果は限定的で、尿中へのカリウム排泄を増すばかりであまり効果がない
  3. 抗アルドステロン薬:スピロノラクトンの通常用量投与が有効
  4. 緊急時対応:重篤な低カリウム血症に対してはカリウム製剤の点滴投与

カリウム製剤の点滴に際しては、点滴内カリウム濃度は40mEq/L以下、最大投与速度は20mEq/時以内、1日カリウム投与量も100mEq以下にとどめることが重要です。これらを上回る投与が必要な場合は、集中治療室などモニタリングが十分できる体制での投与が必要となります 。

参考)https://medical.tsumura.co.jp/sites/default/files/resources/pdf/products/safety/PSA.pdf

回復の経過と予後

甘草含有物の摂取中止後、数週間の経過で臨床症状の消失と血清カリウムの上昇をみることが多く、血圧は速やかに低下しますが、低カリウム血症の改善には時間がかかります。PRAの回復にはより長期間を必要とし、原因医薬品中止後も数週間は症状と臨床検査値異常が残存することに留意が必要です 。

参考)https://www.fpa.or.jp/library/kusuriQA/23.pdf

重篤化した場合の合併症として、低カリウム血症による致死性不整脈や横紋筋融解症に至ることがあるため、早期診断と適切な治療開始が重要となります 。